一度「ゼロ」になった街は、支え合いのなか甦る 冬の南相馬・小高で感じた熱いくらいの「温かさ」
提供元:南相馬市
チャレンジを支えてくれる、温かく寛容な人々
双葉屋旅館の女将・小林さんが「小高でがんばっている人」として紹介してくれたもう1人が、「故郷喫茶 カミツレ」を切り盛りする吉田祐子(よしだ・ゆうこ)さんだ。
このカフェは、地域の復興・再生を目的に整備された「小高交流センター」の一角にある。

吉田さんも小高の出身。デザートの皿盛りに興味を持ち、東京都立川市の専門学校に進学し、卒業後は千葉・幕張や仙台の結婚式場で腕を磨いた。そして16年7月の避難指示区域解除をきっかけに、両親と共に地元に戻ってきた。その時に感じたのが、「とにかく『お店がない』」ということだった。
そこで自身の経歴を生かし、スイーツやランチメニューを提供するカフェを始めることに決めた。目指したのは「お客様が楽になれる場」を作ることだ。
「新しいコミュニティを作っていくのは大変です。カミツレに来たことで、たまたま人と会えたとか、コミュニティが再開する場になってほしいです。
また、小高は高齢者が多いですから、彼らがコミュニティを築く場にもなってほしいですね。高齢者の場合、1人でいらっしゃるお客さんでしたら来店の頻度も私はすごく気にしています」(吉田さん=以下同)
訪れた人に太陽のような明るい笑顔を見せ、温かいまなざしを向ける吉田さん。そんな彼女を、地域の人々も優しく支えている。
「小高の良いところは、0から発進できて、自分のやりたいようにやれることだと思います。でも、0から何かを始めるのは怖いもの。ただ、小高にはそれを明るく、寛容に支えてくれる人がいます。
私が小さいころからそうでしたが、小高では知らない人ともあいさつしていて、助け合うことが多いんです。チャレンジャーに優しくて安心できる場所ではないでしょうか」

吉田さんにとって小高は「なくなってほしくない場所」。店名の「故郷喫茶カミツレ」にも、そんな思いが込められている。
「震災のときは仙台で1人暮らしをしていて、家族と連絡が取れなくなってしまいました。報道で『小高は全壊した』と聞きましたし、立ち入り禁止という話もありましたから、『このまま故郷がなくなる』という恐怖を覚えました。今はこうして戻ってきていますが、震災のときの経験から『故郷』という言葉がずっと頭に残っていました」
地域の人を見守り、見守られ、吉田さんは小高でチャレンジを続ける。彼女が願うのは、故郷を守り続けることだ。
「私は今1つの目標として小学校のみんなと同級会をやりたいです。同級会は2011年以降、みんなバラバラになってしまってやれていません。だから、今度みんなが集まるときのためにも、小高という居場所を守り続けたいです」