「将来もし、帰ってこなかったとしても...」 愛媛県西条市が巣立つ若者を〝全力応援〟する理由
「チャレンジを応援するまち」こと、愛媛県西条市。
西条市役所・シティプロモーション推進課の面々が日々、まちに住む人々の夢や目標を全力でサポートすることに情熱を燃やしている。
彼らの合言葉は"LOVE SAIJO"。2024年1月の「二十歳の集い」では、地元出身のシンガーソングライターの力も借りて未来へはばたく若者たちの背中を力強く押した。
そんな彼らの中に、新たなチームが発足したという――。
というわけで、"あの"西条市シティプロモーション推進課(以下、CP課)に新チーム「若者活躍支援係」が爆誕した。
これ までも十二分に若者の活躍を支援していたと思うが、「さらに」ってこと......?
いったい、何を始めたというのか。Jタウンネットは2024年8月某日、その新チームに招かれ、東京都三鷹市に向かった。
西条市から遠く離れたこの場所で待っていた出会いとは――。
この場所で、何を...!?
西条市CP課のニューチーム「若者活躍支援係」の白岡明敏(しらおか あきとし)さんと越智緑(おち みどり)さんとの待ち合わせ場所は、夏休み真っ盛りの国際基督教大学(ICU)。
彼らはここで、1人の学生と会っていた。
教養学部3年生の石岡紗織(いしおか さおり)さんだ。
法学と人類学、中でも国際人権法と国際刑事法について学んでいるという石岡さん。1年時には米国のウィルクス大学に1か月留学し、この9月からは英国のダラム大学へ1年間の留学を予定している。
そんなグローバルな彼女は西条市出身で、若者活躍支援係と交流がある「若者」の一人だ。
こんな風に、西条から巣立っていった若者たちの元を訪れていろんな話をすることが、若者活躍支援係の仕事の一つ。
3人がざっくばらんに語り合っていたのは、大学生活や今後の進路のこと、最近西条にできた新しいお店について......。堅苦しさはなく、和気あいあいとした雰囲気だ。
西条市には高等教育機関がないため、大学進学を希望する若者はみんな、市外に巣立っていく。多くは四国や関西で、石岡さんのように関東に出る人もいる。
白岡さんと越智さんは、そんな彼らと交流を続け、彼らと地元のつながりを保ちつづける。
それが、西条で暮らすさらに若い世代にも還元されていく。
石岡さんは自身の勉学で多忙な日々を送っている。しかし、西条の学生から要望があれば、質問等に答えているのだ。
地元の高校生たちが進路に思い悩んだとき、先輩の話を聞いたり相談したりすることが出来れば、きっと選択肢も広がるだろう。
石岡さんが大学進学を決めた時には、まだ支援係はなかった。白岡さんと越智さんに出会ったのは、すでにCP課のサポートを受けていた友人からの紹介だったという。進学前を振り返り、石岡さんは言う。
「私が高校生のときに関わる大人といえば、学校の先生や、行ってる人は塾の先生、あとは家族とその知り合いぐらいでした。市役所の人とも関わることはあっても、向き合ってお話する機会はありませんでした。
大学に行ったら偉いとか、国公立に行くのが偉いとか、そんなことはないと思うのですが、地元ではどうしても『価値観が固まってしまっているな』と感じることがありました。
だからこうやって客観的に、いろんなことを考えながら若者を支援してくれている人が、先生や家族とは別にいるっていうのは、安心できるなと思います。
こういう方々の手によって若者たちの価値観が"再構築"されていけばいいな」
西条出身の若者がいる場所なら近い場所でも遠い場所でも、日本全国どこでも飛び回る日々を送る若者活躍支援係。この日も、石岡さんとの交流を終えた彼らはその足で、別の大学へと向かっていった。
目標は「コミュニティを作ること」
若者活躍支援係の2人が、若者たちの支援を通じて目指すものは何なのか?
記者は9月初旬、西条市を訪問し、白岡さんと越智さんに活動内容やそこにある思いを聞いてみた。
──早速ですが、西条市CP課の新チーム「若者活躍支援係」が発足するまでの道のりをお聞かせいただければと思います。
白岡さん:僕は23年度まで西条市大阪事務所の方で、関西の学生中心にUターンのサポートをはじめとした若者支援活動を行っていました。今年からその活動の幅をさらに広げようと立ち上がったのが『若者活躍支援係』。今は、僕も西条市に戻って来て、全国の大学生と市内の高校生の活躍をサポートしています。
──「若者活躍支援係」では、どういった活動をしているのでしょうか。
白岡さん:まずは県外の様々な大学への訪問です。そこで学ぶ西条市出身の学生さんたちと面談をして、彼らから就活に関することなどの相談を受けたり、逆にこちらから西条市の企業情報などを紹介したりしています。面談といってもべつに堅苦しいものではなくて、カフェなどを利用してお話やお喋りをする感覚で交流しています。
──県外の大学に進学した学生に会いに行くのは、何のためですか?
白岡さん:若者たちに西条市に帰ってきて欲しい、というのが僕たちの願いなので、西条市の企業や魅力などを紹介することで、そのきっかけになればという思いでやっています。
──大学への訪問以外にも、様々な方法で若者たちと交流しているそうですね。どんなことをしているのですか?
白岡さん:毎週木曜日にオンラインの座談会を開催しています。座談会では大学生たちに就活のアドバイスをしたり、市の別の課などが催す就活セミナーの紹介をしたりしています。『最近どう?』といった雑談なんかもしています。
また、SNSを使った広報活動も行っています。これまでは大学生が中心でしたが、今後は高校生との繋がりももっと増やして、高校生の間から僕たちの活動を知ってコミュニティに入ってもらいたいと考えているんです。
越智さん:私たちはすでに色んな大学生と繋がりがあるので、そういった人たちに話を聞きたいという高校生たちを引き合わせてあげて、進路選択のサポートをできればと思っています。 今は私たちの活動を高校生に知ってもらうためのPRの一環として、TikTokで人気の『愛媛の背中男』と西条市内の高校生たちを繋げるサポートをし、その動画を発信する、といったことをしています。
越智さん:平たく言えば、いずれもコミュニティを作るということを目的にやっているんです。若者活躍支援係という『大学生・高校生を応援してくれるコミュニティ』を作ることで、彼らにいつでも西条市のことを忘れずにいてもらう、思い出してもらう。そしていずれは戻ってきてくれればうれしいし、戻ってこないとしてもずっと西条市のことを思って社会生活を送ってもらえるような、そんな『場』を作ろうとしているところです。
人間関係を循環させたい、ネットワークを作りたい──そんな思いで日々職務に当たる若者活躍支援係。発足したばかりのこのチームが作るのは、西条のどんな未来なのか。
2人の活動の源流となった大阪事務所での若者のサポートの結果を見ると、それはずいぶんと明るいように思える。
大阪事務所時代の白岡さんと出会い、実際に西条に戻って来た若者たちもいるのだ。
「西条まつり」の魅力を、次の世代の子供たちにも
記者は今回、西条市から県外の大学に進学したのち、再び西条に戻ってくる道を選んだ2人の若者に話を聞くことができた。
一人目は、追手門学院大学4年生の宇佐美太陽(うさみ たいよう)さん。若者活躍支援係が開催しているオンライン座談会に毎週参加しているという。
──はじめに、これまでの経歴を簡単にお聞かせください。
宇佐美さん:高校まで西条で育ちました。その後、大学に進学するために大阪に出て現在に至り、2025年からは新居浜市の企業に勤めるので西条に戻ってくる予定です
──西条市に戻って来たいと思った理由は何だったのでしょうか。
宇佐美さん:やっぱり一番の理由は『西条まつり』があることですね。地元の青年団として毎年祭りの運営に参加してきて、卒業後もそうした青年団活動に携わりたかったんです。
──地元に戻ってくるにあたって、白岡さんの存在は大きかったそうですね。どんなサポートを受けていたのでしょうか。
宇佐美さん:白岡さんとは2年ほど前、友人の紹介で出会いました。それからはもう本当に色々な相談をさせてもらって......。『西条に就職したいけどどんな所があるかわからん。探してほしい』みたいな。相談だけじゃなくて、大阪の方で一緒にご飯行かせてもらうこともありました。
白岡さん:就活の相談がメインで、西条まつりの話などもしましたね。以来、彼は僕たちの座談会にも毎週参加してくれて、ずっと交流が続いています。
──来年、西条に帰ってきたらどんな風に地元で活躍していきたいですか?
宇佐美さん:今は西条市の人口が減ってきていて、西条まつりに参加する人も減ってきている。今後、若い子らが減ってきたら祭りの運営も大変になると思います。
そういった問題を少しでも解消するために、とりあえず今はちっちゃい子たちなんかに『西条まつりってこんなに楽しいんだよ』ということを伝えてあげて、参加するきっかけを作ってあげられればな。
僕自身、子供の頃にそうやって地元の大人たちに西条まつりの良さを教えてもらった一人なので、今度は僕がそうする番だと思っています。
西条まつりを盛り上げるために地元に帰りたい。そんな宇佐美さんの熱意に若者活躍支援係が応えたことで、彼のUターンが実現したというわけだ。
「自分1人では厳しかった」
現在社会人2年目の寺川一輝(てらがわ かずき)さんは、白岡さんとは大阪事務所時代からの付き合いだ。大阪の大学を卒業後、西条に戻ってきている。
──改めて、ご自身のご経歴をお聞かせください。
寺川さん:僕は広島出身なんですが、中学3年生の時に西条に転校してきて、高校はこちらの学校に通っていました。その後、大阪の大学に進学して、卒業後は西条にUターンし、JAえひめ未来に就職しました
──西条市にUターン就職すると決めたきっかけは?
寺川さん:高校生の時から『西条ってすごい良いとこやな』っていうのは感じてたんですけど、それでも当初は大阪か、出身地である広島での就職を考えていたんです。
寺川さん:ただ、コロナ禍の影響で西条に帰って来られるチャンスが少なくなっていた時期に、その少ない機会の中で、改めて西条の良さを感じて。ちょうど『やっぱり大阪は自分には都会過ぎて息苦しいかも』と思っていたところでもあったので、だったらいっそのこと実家もある西条で就職したい、という思いが強くなって、Uターンを決心しました。
──寺川さんが考える「西条の良さ」とは?
寺川さん:まずは、自然が豊かなところ。大学生として4年間大阪で都会暮らしをしてみて、どうしても息苦しく感じていました。一方で、自然豊かな西条に帰省した時はノンストレスで過ごせたんです。住んでいる人たちが皆優しくて良い人っていうのも魅力ですね。
あとはやっぱり、『西条まつり』。地元でこういった大きな催しがあるというのも魅力の1つだと思います。僕も毎年参加してますし、去年からは青年団の一員としても活動を始めました。
──西条での就職について、白岡さんに相談されていたと伺いました。どんなことを聞かれていたのですか?
寺川さん:当初は自分で色々と就職先を調べていたんですけど、やっぱり西条市って限定するとなるとなかなか調べ方が分からなくて、困っていました。そんな時、白岡さんが色々とサポートをしてくれたんです。
──白岡さんはどんなサポートをしてくれたのですか?
寺川さん:県内の企業情報を紹介している『えひめ企業図鑑』という資料を提供してもらったり、県内の企業情報だけがのっている就活サイトとかを教えてくれたりしました。それにすごく助けられて......。
西条の企業を調べるっていうのは、たぶん自分1人では厳しかったと思います。それ以外にも、一緒にご飯とか飲みとかに行っては色々と相談に乗ってもらいましたし、就職活動をしていく中でとても心強い存在でした。
──公式インスタグラムなどで、白岡さんは「西条のアニキ」を自称されています。寺川さんにとってはまさにそんな存在というわけですね。
寺川さん:そうですね。でも、どちらかと言えば『アニキ』より『明るいお兄さん』って感じですかね(笑)
「この町をずっと守っている」
「若者活躍支援係」となり、昨年までよりさらに若者たちの活躍に深くコミットしていこうとする白岡さんと越智さん。交流の範囲もどんどんと広げていこうとしている。
彼らが若者に伝えたい事とは――? 2人は、熱いメッセージを語った。
白岡さん:僕は、学生さん達には『同級生』や『友達』のように接してもらえるようにと心がけて活動しています。なので、就活や進学など、自分一人で悩まずに、友達にする感覚で気軽に相談して欲しいなと思ってます。食事とか飲みとかも、声をかけてくれればいつでもどこでもお付き合いします! 一緒に考えて、皆さんの目標達成に向けて、そしてその先も、一緒に走り続けたいと思っています。
越智さん:私たちは西条市出身の若い力を積極的に応援していきたいと思ってます。将来的にもし西条に帰ってくるという事でしたら、それは非常に嬉しいことです。ただ、もしそうではなかったとしても、西条出身の方がどこかで活躍してくれてるということだけでもすごく嬉しい。なので、そういった方たちも全力で応援していきたいと思います。
白岡さん:そして、これから西条を羽ばたいていく人たち。絶対悩むことは出てくるだろうし、一人暮らしなどで不安になることもあると思います。そんな時でも、西条市という『戻って来られる場所』があるということは、頭の隅に置いておいてもらえればと思います!
越智さん:私たちは皆さんのチャレンジをいつでも応援していますし、いつか皆さんが『帰りたい』と思ってくれた時のために、この『チャレンジを応援するまち』をずっと守っています! 元気な時は今いる場所で頑張っていただければと思いますし、もし疲れた時は『西条があるんだよ』ということを思い出してもらえれば、きっと心が軽くなると思います!
西条から巣立ち、広い世界へと羽ばたこうとしている人も。一度離れたからこそ西条というまちの魅力を再認識し、帰ってきたいと思っている人も。
"チャレンジを応援するまち"西条市は、若者たちの挑戦や活躍をいつでも変わらず見守っている。そして、彼らが何か悩みや問題に直面したその時は、若者活躍支援係をはじめとした西条の人々が、全力でサポートする体制がある。
だから、難しく考える必要はない。将来、西条で活躍したいとボンヤリでも思っているならば、ちょっと里帰りをするついでくらいの気軽さで、彼らにコンタクトを取ってみてはどうだろう。
また、2024年11月2日~3日には、東京で移住セミナーの開催も予定されている。
全力で優しく、全力で情熱的なこのまちで暮らしてみたいと思った読者は、市の移住・定住サポートサイト「LOVE SAIJO」で、詳細をチェックしてみてほしい 。
<企画編集・Jタウンネット>