北九州市で「100億ドルの夜景」が見られるって知ってた? 現地カメラマンに聞く、きらめく光を捉える方法
編集長「君、夜景を見に行かないか?北九州市まで」
S記者(私)「えっ...///」
2021年7月某日、編集長に夜景デートに誘われた。
...と言いたいところだが、そんなわけはない。編集長からのオファーとあれば、もちろん取材に決まっている。
北九州市は2018年10月、全国の夜景鑑賞士の投票により「日本新三大夜景都市(※)」に認定された街。市を代表する夜景スポット「皿倉山」からの眺望は「100億ドルの夜景」と称される。洞海湾(どうかいわん)を中心に、工場群や市街地を一望できる大パノラマ夜景は圧巻だ。
※日本新三大夜景都市...一般社団法人夜景観光コンベンション・ビューローが、国内外の夜景観光活性化を目指して全国約5500人の夜景鑑賞士による投票を実施。投票された各夜景スポットを都市別に分類し、集計結果から上位三都市を「日本新三大夜景都市」と認定している。
筆者「行くのはいいんですが、夜景って撮るの難しいんじゃないですかね?」
編集長「そういうと思って、今回は特別に『先生』を用意した!」
先生...?誰......??なんだこの気合の入れようは.........。
編集長の熱量に若干引きつつも、筆者は北九州市に飛び立った――。
皿倉山から「100億ドルの夜景」を撮ってみた
7月12日19時。筆者は皿倉山ケーブルカーの山麓駅(八幡東区)にいた。
「世界ってこんなに綺麗だったんだ...」ケーブルカー近くの駐車場から、初夏の夕暮れに染まる北九州市の街並みを眺めて物思いにふける。このままずっとここにいたい。
時刻はまもなく19時20分。ケーブルカーの出発に合わせて、年配のスタッフが叫ぶ。
スタッフ「出発するぞ~~~」
なんだろう、このジブリ感。
山麓駅からはケーブルカーとスロープカーを乗り継いで、標高622メートルの展望台に向かう。編集長が手配してくれた「先生」とは、そこで会う約束だ。
ケーブルカー山麓駅からおよそ10分で展望台に到着。月曜だというのに若者、夫婦、ご婦人グループなど、人影がちらほら見える。地元民にも愛されている場所なのだろう。
そして時刻は19時45分。北九州市の街は薄暮に包まれている。空と海の境界が曖昧になっているのが幻想的だ。またジブリで恐縮だが、海の見える街にやってきたキキの気持ちになる。
いっそのこと住み着いてしまおうか...そんなことを考えながら展望台の端に目をやると、街ではなく三日月に向かってカメラを向ける男性の姿が。
そう。この人こそ、今日カメラを教えてくれる戸次貴之(べっき・たかゆき)さん(46)だ。
戸次さんはカメラ歴15年のアマチュアカメラマン。北九州市在住で、九州北部を中心とした工場夜景や風景を撮影している。本業は別にあるが、平日の仕事終わりや仕事前にも撮影に出かけるほど、大の写真好きだ。
戸次さん「空気が澄んでていいですねえ。街が良く見えます!」
どうやら今夜はかなり良いコンディションらしい。基本的に、雨が降る、曇天で雲が極端に落ちているということがなければ、夜景は撮れるそうだ。
「月を撮る戸次さんを撮ってもいいですか」「ええっ!いいですよ(笑)」...そんなやり取りをしているうちに、時刻は20時を過ぎた。あたりは完全に暗くなり、気づけば色とりどりのきらびやかな夜景が、眼下に広がっていた。
満を持して、みなさんにお見せしよう。これが「100億ドルの夜景」だ!
さすがカメラ歴15年の実力。目に見えている光景が、よりいっそう輝いて写し出されている。望遠レンズを使えば、赤くライトアップされた「若戸大橋」もバッチリ撮影できる。
筆者「さ~て、私も撮ってみますかね!」
普段はオートモードに甘えてばかりの筆者だが、今回は違う。自分なりにいろいろ試し、初めての夜景撮影に挑んだ結果がこれだ。
...何をどうしたらこうなるのか、自分でも思い出せない。闇よりも深い暗黒の世界が写し出されてしまった。
筆者「先生!なにも写りません!」
戸次さん「う~ん、これはひどいですねえ(笑)
夜景を撮るときはF値やシャッター速度を自由に変えれるマニュアルモード(M)をおススメします。ただこれはちょっと難しいので、初心者は絞り優先モード(A/Av)を使うといいと思います!」
※絞り優先モード...レンズから取り込む光の量(F値)を調節する「絞り」を手動で操る。F値を大きくすると絞りは絞られ、ピントの合う範囲は広くなり、写真は暗くなる。
戸次さん「F値は9.0くらいですかねえ...ISO感度は400くらいでどうでしょうか!」
※ISO感度...ISO感度を上げることで、カメラが光を捉える力が上がる。ISO感度が高いほど写真は明るくなるが、画質は悪くなる。
筆者「先生、暗いのにISO感度400は低すぎませんか?」
戸次さん「三脚にカメラを取り付けて撮影するときは手ブレの心配がないので、ISO感度を低くして画質を良くします。それに伴い、シャッター速度は長くなりますねえ」
筆者「三脚...だと...?」
戸次さんに言われるがまま設定すると、シャッター速度は6秒に。つまりどういうことか...シャッターを押したあと、6秒間カメラを固定しなければならないのだ。人力のみでは、まず不可能だろう。
というわけで、夜景撮影に「三脚」はほぼマストアイテム。ご参考までに、三脚を使わず四苦八苦しながら筆者が撮った写真がこちらだ。
正直に言おう。三脚なしはめちゃくちゃ撮りづらい。
てすりでカメラを支えても、微妙なブレが生じてしまう...。
戸次さん「夜景撮影に三脚はまず必須でしょうね!ない場合はどこかにカメラを載せるという手もありますが、落とすかもしれないのであまりおススメはしませんねえ」
筆者「うう...そうだったんですね...」
戸次さん「あっ、三脚を使う時はカメラの『手ブレ補正』を外してくださいね。誤補正されるかもしれないので」
そうこうしているうちに気づけば時刻は21時を回っている。私たちは皿倉山を後にし、次の夜景スポットへと向かった。
「工場夜景」も撮れる高塔山公園へ
皿倉山から車を約30分走らせると、次の目的地である高塔山公園(若松区)に到着した。
標高124メートルの高塔山山頂にある高塔山公園は、あじさいの名所として知られ、その数なんと約7万3500株。見ごろを迎える6月頃は、あじさいと夜景の両方を楽しむことができる。
皿倉山からは遠くに見えた若戸大橋が、高塔山公園の展望台からはっきりと見える。左手には大規模な製鉄所があり、工場夜景の撮影も可能だ。
北九州市といえば工場夜景。これを撮らずして東京には帰れまい...。
ということで、筆者も挑戦してみた。
戸次さんの写真と比べてしまうと残念に見えるが、皿倉山のような暗黒の世界ではない。教えてもらったことが確実に活かされている。
なんだか楽しくなってきたところで、ワンランク上の夜景撮影をするためのアドバイスを戸次さんからいただいた。
戸次さん「マニュアルモードかシャッター速度優先モード(S/Tv)で、シャッター速度を遅くすることで、車のヘッドライトとテールランプの光跡を撮影できます。若戸大橋を走る車が狙い目です!」
撮り方ひとつで、いつもの街が違って見える。夜景って奥が深い。
ラストは「関門橋」が見える和布刈公園第二展望台へ
高塔山から車で約40分、最後の目的地である和布刈公園(めかりこうえん、門司区)の第二展望台に到着した。長いようであっという間だった夜景の旅も、もうすぐ終わりだ。
こちらのスポットは本州(山口県下関市)と九州(北九州市)をつなぐ「関門橋」が目と鼻の先にある。左手には門司港レトロの華やかな光が、宝石のようにきらめいている。
ただ、ここで少し残念なお知らせが。
戸次さん「23時近いので、明かりが結構消えてしまっていますね...」
たしかに、全体的に心なしか暗い気がする...。日本新三大夜景の実力は、こんなもんじゃないはずだ。
戸次さん「和布刈公園は夕日が海に沈む様子も綺麗なんですよねえ。マジックアワーといってね...」
映画「ザ・マジックアワー」(2008、監督:三谷幸喜)のロケ地にもなっている和布刈公園第二展望台。もう少し早い時間に行っていたら、どんな景色が見えたのか――
読者のみなさんに、特別にお見せしよう。これがマジックアワーの関門橋だ。
どの夜景スポットにも「夕暮れ~日没」のタイミングがある。ちょっと早めに行って、空の色が移り変わる様子を撮影するのも乙だろう。
筆者「先生、今日は夜遅くまでありがとうございました!」
23時を回ったため、戸次さんとはここでお別れ。北九州市の夜景巡り、最高じゃないか...。前より綺麗に撮れるようになったし、これはハマってしまうかもしれない。
ちなみに。北九州市には今回巡った代表的な3か所のほかにも、夜景スポットが数多く存在する。
門司港レトロ展望室(門司区)、足立公園(小倉北区)、小倉城(小倉北区)など。一夜で制覇するのは難しいので、ぜひ泊りがけで夜景巡りを楽しんでほしい。
<企画編集・Jタウンネット>