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「被災地を観光する」岩手県陸前高田市【後編】:造成地に未来を描く 陸前高田にかけられた橋

中丸 謙一朗

中丸 謙一朗

2018.06.13 17:00
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地域を支えるソフトの再生

   中丸勝典さんの案内で、市内の米崎中学校の敷地内に併設されている「陸前高田グローバルキャンパス」を訪れた。これは陸前高田市の協力のもと、立教大学と岩手大学が中心となり発足した研究者、学生と地域住民たちをつなぐ「交流の場」だ。陸前高田の現状や未来を「つたえる、つなぐ、つくる」ことによって、街をソフトの部分から盛り上げていこうという試みだ。

中学校の教室を改装した「陸前高田グローバルキャンパス」の施設。講演や研究発表などが行われる。
中学校の教室を改装した「陸前高田グローバルキャンパス」の施設。講演や研究発表などが行われる。

   勝典さんとキャンパス内を歩くと、ここかしこから声がかかる。勝典さんは日常の業務のほかにも、趣味やボランティア活動などを通じて、こうした地域コミュニティに時折顔を出している。彼は配属先である陸前高田市農林水産部農林課で、主に中山間地域で営農する耕作条件が厳しい農業従事者への交付金の事務を担当する。また、地域振興のための交流イベントなどにも出向き、「たかたのゆめ」(陸前高田の新ブランド米)などの地元産品の販売・宣伝にも積極的に参加している。

   組織には目に見えない「ノウハウ」がある。地方行政における「住民への細やかな対応」というのもやはりひとつのノウハウなのだと思う。だが、逆を言えば、それをスムーズに生み出していけないことが組織の欠点であり、人の役に立つ知識やノウハウがきちんと蓄積されていないことが問題なのだ。

   「地道なことを、その地域の人に寄り添って長い間やり続ける。それがいちばん大事なのかなと思います。いろいろな活動をするときに、公務員であることの強みもありますが、また同時に自分の任務は一時的であるという無力感も感じています」。

   人が人を支えることの難しさがある。東教授は、今後の地方行政のあり方にこんなヒントを残す。

「生産年齢人口の減少で、これからの時代は、地域の人口規模・構造に見合った行政サービスが問われていくのではないでしょうか。もちろん、市町村合併も選択肢になる。そのとき、2万人規模の自治体がいいのか、10万人規模のより大きな都市の一部がいいのか、その違いをどう考えるかが問われる。また、さらに深刻化する高齢化・過疎化に対応していくには、行政だけでなく、それを補完していく地域コミュニティなどの機能を、誰がどのように担うのかということについても、考えていかなければならないと思います」。

箱根山の展望台から眺める陸前高田市内。U字型の平野部が見て取れる。
箱根山の展望台から眺める陸前高田市内。U字型の平野部が見て取れる。

   取材を一通り終えた後、勝典さんがプライベートな時間によく訪れるという場所に連れて行ってもらった。陸前高田の北東部、平野部の脇に位置する箱根山、その中腹にある比較的新しいカフェである。表のテラス席には、東北の緑豊かな樹々に囲まれた静謐な空間が拡がる。なにもかも忘れさせてくれる、そんな時間だ。

   近くにある展望台からは、湾に対峙した陸前高田の街全体が見下ろせる。恵みの海と入り組んだ陸地の輪郭線、穏やかな平野部と明るい日差しが形作った陸前高田の地。その歴史的な土地が津波よって蹂躙されるさまが脳裏に浮かび言葉を失う。いま自分が立っているここは観光地なのか。その問いは声になることもなく、ふたりは黙って街を見下ろしていた。

箱根山にある宿泊施設『箱根山テラス』ではカフェも楽しめる。
箱根山にある宿泊施設『箱根山テラス』ではカフェも楽しめる。

復興によって失うものがある
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