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「被災地を観光する」岩手県陸前高田市【前編】:傷跡から記念公園へ 原風景を失った街が目指す姿

中丸 謙一朗

中丸 謙一朗

2018.06.13 17:00
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被災地の傷跡を巡る観光

旧陸前矢作駅周辺で分断された鉄道路線。現在、陸前高田市までは別ルートで軌道を利用したバスが運行されている(BRT)
旧陸前矢作駅周辺で分断された鉄道路線。現在、陸前高田市までは別ルートで軌道を利用したバスが運行されている(BRT)

   奇跡の一本松から津波の襲った海を眺める。海からは小さい入江のようなかたちで水路が伸びており、その周辺はあまり整備されることもなく震災後の面影を残している。松の遠方には廃墟と化している宿泊施設があり、そのまた向こうに、震災後新たに建設中の巨大な水門が見える。

   公園というほどには整備されていない空間を少し歩くと、コンクリート製の巨大な橋桁のようなものが見えた。これも震災遺構だ。津波被害のひどかった中心部を嵩上げするために、市内西部の山を削り巨大なベルトコンベアで土砂を運搬していた時の橋桁だという。

   勝典さんが陸前高田を初めて訪問した折、何本も連結された巨大なベルトコンベアが作動している風景を目にした。それは東北赴任ではなく、まるでSFの世界に飛び込んでしまったかのような錯覚に陥った、と言う。

   周辺を歩く。観光地というほどには設(しつら)えられているわけではない。幾人かの観光客らしき人物と、工事用の鉄パイプで仕切った細い通路ですれ違った。正直、いままで見たこともないような不思議な光景が目の前にある。人の「生き死に」を感じるのかと身構えたが、そういう感じではなく、まるでスクリーンを眺めているような、強烈だが平板な風景だ。忘れがたい観光地だ、わたしはそう思った。

   陸前高田の震災遺構は、そこで死者が出ていないことが設置の条件になっている。多くの犠牲者を生んだ場所を「鎮魂的」に残すのではなく、災害を忘れないための「視覚的」効果としていくつかの場所が保存される。まだ午前中の逆光のなかにそびえ立った震災遺構は神々しくもありまた寒々しくもあった。

   被災地を見に来る。それはわかりやすい「傷跡」を感じに来る行為だ。この残酷とも取れる行為の是非は議論のあるところだが、自治体の「経営」上無視できるものでもない。現在、この場所は「記念公園」としてもう一度生まれ変わらせる計画が進行している。この場所が後年どのように評価されるのかはわからない。だが、より整備され設えられた観光地として、内外からの人々を待つことになるという。

現在のJR陸前高田駅(バス専用)
現在のJR陸前高田駅(バス専用)

任務遂行というやりがい
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