「吉野家の牛丼が食べたい」 プライドが高く「松阪牛」ばかり食べたがった母が、死の直前に望んだこと
牛丼に文句ばかりの母だったけど...
寿司屋の女将だったこともあり、母は非常にプライド高く、お肉が食べたくなると「松阪牛を買ってきて」と言うような人でした。しかし、離婚後、裕福でもない母には金銭的に無理があり、私が買ってくる肉はスーパーの安売り肉。それを母は「これ松阪牛?」と言いつつ食べておりました。
それから数年、母の病は進行し、ほぼ寝たきり状態に。悪性のリウマチでろくに手も動かず、起き上がることもあまり出来なくなったのです。
食欲も少しずつ落ち始めたので心配していた矢先、今度は肺炎にかかりました。お医者様は「病状が良くない」「出来ることがあれば積極的にやってあげた方がいい」と......。出来ることはやらないと後悔するという、いわゆる「余命宣言」と受け取れる話でした。
そこで、私は母に「何か食べたいものはないか?」と聞きました。すると彼女は「牛丼」と言います。
「吉野家の牛丼が食べたい」
以前は「肉が硬い、味が薄い、ご飯がまずい」「すき焼きとご飯なら食べる」などと言って、食べてもいないのに牛丼の文句ばかり言っていた母でしたので、私は信じられませんでした。
「本当に食べるのかい?」と聞き返すも、やはり「食べたい」と。そういうことならと、私は数日後、母のために牛丼を買いに行くことにしました。