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「吉野家の牛丼が食べたい」 プライドが高く「松阪牛」ばかり食べたがった母が、死の直前に望んだこと

福田 週人

福田 週人

2022.11.08 08:00
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シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Yさん(都道府県・年齢性別不明)

13年前、Yさんの母親は病気を患って他界した。彼女はプライドが高く、肉といえば「松阪牛」ばかりを食べたがるような人だった。

それなのに、死の直前に食べたがったのは「吉野家の牛丼」だったという。

母が最期にリクエストしたのは「吉野家の牛丼」だった(画像はイメージ)
母が最期にリクエストしたのは「吉野家の牛丼」だった(画像はイメージ)

<Yさんの体験談>

母はかつて、45年続いた地元では少し名の通った寿司屋を切り盛りする女将さんでした。

しかし、晩年は病に苦しみ、やがて夫婦仲も悪くなり離婚。1人住まいとなってしまいました。

そんな母が亡くなったのは、今から13年前の2009年4月のことでした。

牛丼に文句ばかりの母だったけど...

寿司屋の女将だったこともあり、母は非常にプライド高く、お肉が食べたくなると「松阪牛を買ってきて」と言うような人でした。しかし、離婚後、裕福でもない母には金銭的に無理があり、私が買ってくる肉はスーパーの安売り肉。それを母は「これ松阪牛?」と言いつつ食べておりました。

それから数年、母の病は進行し、ほぼ寝たきり状態に。悪性のリウマチでろくに手も動かず、起き上がることもあまり出来なくなったのです。

食欲も少しずつ落ち始めたので心配していた矢先、今度は肺炎にかかりました。お医者様は「病状が良くない」「出来ることがあれば積極的にやってあげた方がいい」と......。出来ることはやらないと後悔するという、いわゆる「余命宣言」と受け取れる話でした。

医師からの「余命宣告」で...(画像はイメージ)
医師からの「余命宣告」で...(画像はイメージ)

そこで、私は母に「何か食べたいものはないか?」と聞きました。すると彼女は「牛丼」と言います。

「吉野家の牛丼が食べたい」

以前は「肉が硬い、味が薄い、ご飯がまずい」「すき焼きとご飯なら食べる」などと言って、食べてもいないのに牛丼の文句ばかり言っていた母でしたので、私は信じられませんでした。

「本当に食べるのかい?」と聞き返すも、やはり「食べたい」と。そういうことならと、私は数日後、母のために牛丼を買いに行くことにしました。

最寄りの吉野家でも往復1時間弱だった

ただ、当時は最寄りの吉野家でも母の入院している病院からだと往復40分~1時間近くかかるところにあり、お店に行ってお弁当を注文し、持ち帰って食べるまでにかなり時間がかかってしまいます。

そんな事情を女性店員に伝えると、店長と思われる人と相談してくれました。店長は「それなら」とご飯とお肉を別々にして、肉も少しタレを切って、タレだけ味噌汁のカップに分けてくださいました。

店長さんが親切に対応してくれた(画像はイメージ)
店長さんが親切に対応してくれた(画像はイメージ)

病院に戻ってきた私は、分けて頂いた物を自前のどんぶりで合体させ、少し冷えた牛丼を母に食べさせました。

恐らく、できたての本来の味とはほど遠い食感や味ではなかったかと思います。それでも母は

「やっぱりおいしいねぇ」
「吉野家の牛丼おいしいねぇ」

と2口、3口と食べました。

「元気になったら吉野家の牛丼また食べたいねぇー」

老いた母はそこで、「おいしいけどもうおなかいっぱい。おまえが食べな」と食べるのを止めたので、私は母の隣で残った牛丼を食べました。その時「吉野家の牛丼は、前はいつ食べたん?」と聞いてみると「初めて食べた」と驚きの言葉が!

「一度食べてみたかったん。吉野家の牛丼、やっぱりおいしいねぇ」

その後、1週間ほどで母は急速に食が細くなり、約1か月後に亡くなりました。亡くなる数日前にも「元気になったら吉野家の牛丼また食べたいねぇー」と言っていました。

亡くなる直前も「また牛丼を食べたい」と言っていた(画像はイメージ)
亡くなる直前も「また牛丼を食べたい」と言っていた(画像はイメージ)

それから十数年が経った今、牛丼を食べていた在りし日の母の姿を思い出すと、「おいしいねぇ」といった後、「お店にお礼言った?」と私に尋ねていました。

購入した時は「サービスの一環かな?」としか思っておらず、そういえばお礼を言っていませんでした。

今思うと、ろくなお礼も言えなかった事がただただ恥ずかしく思います。

お弁当を購入しただけでしたが、色々ご配慮ありがとうございました。

誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!

名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな、あの時自分を助けてくれた・親切にしてくれた人に伝えたい「ありがとう」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。

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