美術館、「1時間」で何カ所ハシゴ観賞できる? 東京・上野でタイムアタック
「若冲展」の美術館は...
2016年5月27日14時ちょうど、JR上野駅の不忍改札をスタートした。まず訪れたのは、台東区立の下町風俗資料館。江戸の残り香がある「下町文化」を伝えるための施設だ。企画展として「我が家の処方箋 身近なものの意外な効き目」を開催中で、大正から昭和にかけての「民間療法」が紹介されていた。
あわてて建物を出ると、修学旅行だろうか、制服姿の男子高校生たちが大騒ぎしている。
「オレは、リアルな下町の風俗を学びたいんだ!」
と指差す先には、ピンクの老舗映画館「オークラ劇場」が。少年よ、ちょっと意味が違う気がするぞ。
上野の山をのぼって14時22分、国立西洋美術館前に到着した。舛添知事も「視察」したというカラヴァッジョ展をやっているが、視線の先には行列が。私には時間がない。今日はあきらめよう。
上野を歩いていて目立つのが、「国立西洋美術館を世界遺産に!」のノボリ。同館の建物をフランスの建築家、ル・コルビュジエが設計したことから、フランスや日本など7か国は現在、世界文化遺産登録にむけて活動している。なお16年5月17日には「『記載』が適当」との勧告が出ていて、近く登録される予定だ。
14時24分、国立科学博物館着。伊勢志摩サミットの会期中とあって、入場時には手荷物検査が行われていた。思わぬタイムロス。企画展「生きものに学び くらしに活かす」では、生物の形状や生態をモノづくりに応用した「バイオミメティクス」なるものを説いていた。たとえば「マジックテープ」(面ファスナー)は、ゴボウやオナモミの実が衣服に付きやすい性質を生かしたものだという。タメになる。
慌てて飛び出し14時35分、東京国立博物館へ。ふたたび手荷物検査を受ける。東博の特別公開は「伊東マンショの肖像」。天正遣欧少年使節としてイタリアを訪れた伊東マンショを描いた肖像画を「世界で初めて公開」するという。
マンショ好きの女子、通称「マンジョ」(いま名づけた)が殺到しているのかと思いきや、そもそもそんな人は存在しないのか、想像以上に落ち着いた空間だった。
最後にやってきたのは、東京都美術館。つい3日前まで「生誕300年記念 若冲展」が行われていた場所だ。若冲展の会期中は「5時間待ち」とも伝えられた行列は、もちろんすでにない。タイムリミットぎりぎりの14時57分、「公募団体ベストセレクション 美術 2016」の会場へすべり込んだ。
この展覧会は、全国27の美術公募団体から、151人の作品を集めている。リアリティあふれる作品から、私のような無教養には理解しがたいもの、「どうやって作ったんだろう?」と不思議に思うものまで、気鋭アーティストの作品がズラリと並んでいる。もうタイムオーバーであるが、しっかり鑑賞してから帰ろう。
当初の予想通り、上野であれば、容易に「ハシゴ」できた。4施設をめぐって、かかった入館料は2540円。せっかく自腹なのだから、もっとじっくり鑑賞して、美術的な「厳しい目」を養えれば――と思ったが、それは別の機会にしておこう。