水あめのようなミートソースの"ミラカン"とは? 愛知県名古屋市の「あんかけスパゲッティ」
■こしょうと極太麺のダブルパンチ
ヨコイは、あんかけスパゲティの考案者・横井博さんが1963年に創業した老舗。現在の本店は、商業エリアとして知られる中区栄の繁華街に建つビルの2階にあります。店の扉をたたくと、都会の騒がしさを忘れさせるレトロな空間が広がっていました。
案内してくれたのは、三代目の横井慎也さん。早速、あんかけスパゲッティを注文しようとメニューをめくると、そこに並んでいたのは謎の文字列。「ミラネーズ」「カントリー」「バイキング」「ピカタ」「サンジェルマン」……これは一体?
横井さん「創業当時からのメニュー名です。といっても、初代(横井博)がイメージでネーミングしたものなので意味はないんですけどね。そのなかであんかけスパゲッティの代名詞と言えるメニューが『ミラカン』です」
トッピング次第でさまざまな味が楽しめるあんかけスパゲッティのなかで、「ミラカン」はヨコイ以外の専門店でも取り扱いの多い人気メニューです。それでは今回は「ミラカン」を注文してみましょう!
横井さん「『ミラカン』は、ウインナ、ハム、ベーコンなど肉を中心にのせた『ミラネーズ』と、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームなど野菜をのせた『カントリー』を掛け合わせたメニューです。創業当時はメニューになかったのですが、お客さんの要望で定番になりました」
麺と具材の周りにかけられているのが、あんかけスパゲッティの名前の由来にもなったオリジナルのミートソース。牛肉、玉ねぎ、じゃがいも、にんじんといった具材をトマトペーストとともに形がなくなるまで煮込んだもので、中華料理のあんとは段違いの強い粘り気があります。その調理にかかる期間は、なんと1週間以上!
横井さん「初日と2日目は仕込みと煮込みに費やします。大鍋に入れて焦げないように様子を見ながら火にかけたあと、冷蔵庫で1週間熟成させます。そうして寝かせることで、コクやまろやかさ、辛さがバランスよくまとまっていくのです」
麺は太さ1.6ミリが主流のスパゲティとしては極太の2.2ミリ。水あめをからめるように、とろとろのソースとスパゲティをあわせていただきます。
一口食べて驚いたのは、ソースにたっぷり混ざったこしょうの辛み。体の奥がカッと熱くなるほどパンチが効いており、その刺激がクセになりそう。その後でソースに溶けた肉や野菜が織りなす酸味とコクがやってきます。さらに麺をぐっとかみしめれば、いつものスパゲティとは明らかに違う歯ごたえともちもち感が!
横井さん「芯が残るようにボイルするアルデンテに対して、うちのスパゲティは“逆アルデンテ”と言えます。まずボイルしたあとに、水で締めて粗熱をとることで弾力を出します。その後にラードで炒め直すことで、中はもちもちで表面はカリッとした食感に仕上げているんです」
そんなあんかけスパゲッティには、毎朝手作りしているマッシュポテトとコールスローがサービスでついてきます。こしょうの味が印象的なマッシュポテトは、同じくこしょうの効いたあんかけスパゲッティと相性抜群。塩もみや塩抜きでやわらかく仕上げられたコールスローは、少しすっぱくて口直しにぴったりです。
麺だけで230グラムとボリューミーな一皿ですが、スパイシーで後を引くソースと、シンプルな具材で飽きもきません。最近は女性客も増えていますが、意外にもぺろっと完食してしまうそうですよ。