冬の雪国には「名もなきヒーロー」がよく現れるらしい 秋田県民の体験談に4.3万人感動
秋田の雪道には「名もなきヒーロー」たちが〝よく〟現れる――。地元からの証言が、X上で多くの人の心を温めている。
2024年12月11日、北秋田市観光物産協会は公式Xアカウント(@kitaakitakankou)から、こんなポストを投稿した。
「秋田では、雪道で運転してスリップしてしまっておろおろしてる時に、わざわざ車を止めて『大丈夫だが』と声をかけてくれる人やトラックからロープを出してスリップした車を引っ張って救出してくれるだけでなく車の無事を確認すると『へばな』といって颯爽と帰る名もなきヒーローがよく現れます。
一度助けてもらうとそのありがたさを痛感して、今度はその人がスリップした誰かを助けたくなるという助け合いのリレーが生まれます。かくいう私も助けてもらった1人。雪道を運転するたび思い出してます」(北秋田市観光物産協会公式Xアカウント@kitaakitakankouの投稿)
秋田の雪道。想像するだけで凍えそうになるシチュエーションだが、そこで生まれている交流のなんと温かいことか!
冬の寒さも忘れられそうな体験談に、X上では4万3000件以上のいいね(15日朝時点)のほか、こんな声が寄せられている。
「雪国ならではのかっけぇヒーロー」
「へばな! 意味わからないけど、去り方がカッコいいよな!」
「受けた恩を他の人へと繋いでいく『ペイ・フォワード』。秋田のヒーローはネイガーだけじゃないんですね」
Jタウンネット記者は12日、話題のポストを投稿した北秋田市観光物産協会のX担当者・Aさんに話を聞くことができた。
「頭の中はパニック状態でした」
「印象に残っているのは一番最初にスリップしたときです」
Aさんは語る。それは数年前、雪が本格的に降り始めた、12月末ごろのこと。
特別寒かったその日は、道路も凍ってツルツル。Aさんはその道を、車で出勤中だった。
車たちは互いに車間距離をとり、ゆっくり慎重に走っていた。Aさんも、いつも以上に気を付けて運転していたという。
しかし、交差点に差し掛かってブレーキを踏んだ瞬間、車内に響いたのは「ガリガリガリガリ」とタイヤがスリップする音! ハンドルを左に切ることで前の車にぶつからずに済んだが、Aさんの車は縁石に乗り上げてしまっていた。
「動こうにも動かせない状況になってしまいました。しかも、通勤時間と重なったため、私の車の後ろには長蛇の列がてきてしまったのです。
『後ろの車を流すように誘導する? 誰かに助けを求める? 車が動かせないかもう一度チャレンジする?』と頭の中はパニック状態でした」(Aさん)
通勤時間に迷惑をかけてしまった申し訳なさと、皆に見られる恥ずかしさ。茫然自失となったAさんの前に、「名もなきヒーロー」が現れた。
去り際までカッコいい
Aさんのそばに、1台の軽トラックが止まった。そして、40代後半くらいの作業着を着た男性が降りてきたという。
彼はAさんに「スリップした? 大変だったな。ちょっと見てみるか」と声をかけると、Aさんの車と縁石の間を見に行き、
「あー、でかいトラックでもあれば引っぱり出せるんだけどな―。俺のじゃ無理だ」
と言いつつ、後続の車を誘導してくれたという。
「かなり混乱していた私にとってはその言葉だけでも救いで、『すみません! ご迷惑おかけして......』と言いながら、私も後続車を誘導していました」(Aさん)
すると、間もなくして今度は大きなトラックがAさんの前で止まり、中から50代くらいの男性が降りてきた。
その男性は、Aさんが状況を説明するまでもなくスリップした? 引っ張るか」と声をかけてきて、軽トラの男性とも
「どう? 引っ張れそうですか? 俺のじゃ無理そうで」
「ちょっとやってみるか」
などと会話を交わし、謝るAさんを横目に黙々と作業を始めたという。
「引っ張るぞ―。ニュートラルにしておいて。あと下に何かかませられればかませて」
大型トラックの男性のそんな指示を受けたAさんは、窮地を脱することができたのだった。
その後、Aさんが大型トラックの男性に謝罪とお礼の言葉を連呼する中、彼は「大丈夫そうだな。あとはもう行くから。へばな」と言って颯爽と走り去っていく。
作業の間、後続車を誘導してくれていた軽トラの男性も、Aさんがお礼を告げると、さも当然のことをしたかのように「へばな」と言って運転していったそうだ。「へばな」とは、「じゃ」くらいのニュアンスである。
「そのあと無事出勤できました。職場の人もその様子を見ていたようで、沢山の人に心配してもらいました。
混乱していた私にとってあの2人は本当に救世主で、今も鮮明にその時のことを覚えています」(Aさん)
そんな体験をしたことから、Aさん自身もバッテリ―が上がったりスリップして動けそうになかったりする車を見かけた時は、手助けに加わるようにしているそうだ。
「通勤時の時間の無いときにわざわざ時間を割いてくれたあの2人とくらべると『名もなきヒーロー』には程遠いかもしれませんね」(Aさん)
Aさんが北秋田市観光物産協会のXアカウントから発信したエピソードには、同じく「名もなきヒーロー」に助けてもらったことがあるというユーザーからの体験談も、数多く寄せられている。
「青森でもスタックすればどこからともなく空転するタイヤの音を聞き付けて人がわらわらと集まり、車を押してくれる人、ハンドル裁きやアクセルの踏み加減を指示する人、轍の雪を掻いてくれる人、自然に役割分担がなされる。 車が無事抜け出すと『良がったね~』と言いながら散り散りに戻って行くのだ」
「仙台でも、信号が青になった後にタイヤがスタックして走れずにおろおろしていると、横断歩道を渡る人たちがみんなで後ろを押して救出してくれることがあります。車が無事動くと皆さん『まずな』と颯爽と去っていかれます。みんながヒーロー」
「北海道でも、雪道で運転してスリップしてしまっておろおろしてる時に、わざわざ車を止めて『大丈夫かい?』と声をかけてくれる人やトラックからロープを出してスリップした車を引っ張って救出してくれるだけでなく車の無事を確認すると『したっけ』といって颯爽と帰る名もなきヒーローがよく現れます」
こうした反響に対し、Aさんは「秋田だけでなく雪国で暮らす人みんなが感じていることなんだなと実感しています」と感慨深げに述べる。
「雪国ならではの助けた助けられたエピソードを垣間見ることが出来て、温かい気持ちです。
冬の厳しい環境で暮らしているからこそ生まれる精神性かもしれませんね」(Aさん)
今年もまた、厳しい冬がやってきている。みなさん、雪道の運転にはお気をつけて。