「あまり良くない地区で新聞配達中だった僕。小汚い作業着のオジサンに『おい、兄ちゃん』と呼びつけられて...」(鳥取県・50代男性)
「おい、兄ちゃん」と呼び付けられ...
まずは右も左もわからない町で、250から300軒近くの配達先を覚える事からスタート。学校に通い始めると、朝はまだ暗い2時には起き、授業を途中で切り上げて午後3時からは夕刊配達。配達が終われば折り込み作業。集金に拡張(営業)と毎日毎日、学業と仕事でヘトヘトだった。
もうダメだ、もう止めよう。学校も仕事も投げ出そう、と思っていたある寒い冬の日。
いつものように朝の配達をしていると、お世辞でもキレイとは言えない作業服を着たおじさんに「おい、兄ちゃん」と呼び付けられた。
その辺りはあまり環境の良く無い地域だったので、嫌な予感がした。
それでも「はい」と答えて恐る恐る近寄ってみると、おじさんは「兄ちゃんどこから来たんや」と聞いてきた。僕は「島根県です」と一言答えた。するとおじさんは
「そうか大変やな~、頑張りや」
と言って、ズボンのポケットから小銭を出し、近くにあった自販機にお金を入れ、温かい缶コーヒーを買ってくれた。おじさんは僕に缶コーヒーを渡すとそのまま寒そうにどこかに行ってしまった。
おじさんが立ち去ったあと飲んだ缶コーヒーは、自分の涙の味でしょっぱかった。でもとても温かかった。