取材なのに、泣いちゃった... トーハク「150年後の国宝展」に集う宝物がエモすぎるから見てほしい
今はまだ、「私だけの宝物」かもしれない。でも、150年後の未来には「国の宝」になっていてもおかしくない――そう感じられるくらい大切にしているモノが、あなたにもあるかもしれない。
東京・上野にある「東京国立博物館」では現在、そんな「誰かの宝物」を集めた展覧会が開催されている。
その名も、「150 年後の国宝展―ワタシの宝物、ミライの宝物」。
今から150年後、「2172年」の未来に残したい・伝えていきたい宝物を、「国宝候補」として個人や企業から募集し、展示しているのだ。
「150年」というのは、東京国立博物館が2022年3月に創立150周年を迎えたことにちなんでいる。
この歴史ある場所に、いったいどんな宝物が集まっているのか――――Jタウンネット記者は、夢と希望そして期待に満ち満ちた特集展示を見に行ってきた。
長く大切にされてきた初代「ハローキティ」
「150 年後の国宝展」では企業が「日本文化の中に大きな価値や意味をもたらした」と考える商品やサービスを紹介するブースと、「ワタシの宝物、ミライの宝物」というテーマの一般公募で全国から集まったものの中から、博物館と5人の選考委員が「特別賞」として選んだ「国宝候補」を展示するコーナーがある。
いわば巨大な「宝箱」と言っても差し支えのないこの展示を巡っている間、実は記者はずっと感極まって、涙ぐんでいた。どれも「私」の宝物ではないが、「誰か」にとって大切なものだと思うと、こみ上げてくるものがあったのだ......。
今からご紹介するのは、記者が「150年後の国宝展」の中で特にぐっときた、エモすぎる「宝物」たちである。
企業部門の「国宝候補」の中で記者の心に最も深く突き刺さったのは、サンリオの「HELLO KITTY」だ。
幼い頃から今まで、見ない日はないんじゃないかと思うほどに身近な存在のキティちゃん。展示されていたのは1975年(ハローキティ誕生の翌年)に作られたというぬいぐるみ第1号だった。年季が入ってちょっと古ぼけた、そしてどこか懐かしいそのぬいぐるみだけでも、グッとくる。なのに、その影までもが記者の涙腺を刺激してきた。
キティちゃんを大切そうに撫でる人や嬉しそうに手を振る人、それにこたえるキティちゃん......という様々な影が、ぬいぐるみの後ろに映し出されるのである。
たくさんの人たちに愛され、大切にされてきたキティちゃんという存在、そしてキティちゃんを愛してきたたくさんの人たちの「思い出」に触れているような気持ちになって、記者の涙腺は崩壊してしまった。これからの150年もきっと、キティちゃんは同じようにたくさんの人に愛されていくのだろうと想像すると、もっと泣けてしまう。
企業部門では他にも、「ゴジラ」や「ガンダム」、「プリキュア」、「初音ミク」といったエンタメコンテンツや「湖池屋のポテトチップス(のり塩)」や「ポカリスエット」、「セブンイレブン」など私たちの生活にとっても身近なものたちも展示されていた。なじみ深い存在たちも、それぞれの誕生の背景や思い出などと共に展示されていることで、どれもかけがえのない「宝物」なんだと改めて思い知らされ、エモーションが止まらなくなってしまう。
「昔の日本人は魚のミイラづくりが得意だった」と思われないために...
そして、一般部門の宝物たちは、もっともっと身近なものばかり。中には極めて個人的すぎるものもあったが、それがよかった。
たとえば、子供の頃に遊んでいた「ファミリーコンピューター」や自身で作った「ウルトラシリーズ怪獣スクラップブック」、祖母が愛用していたという「ジャノメ製足踏みミシン」、自宅前の「電線と電柱のある風景」。「日本各地で集めた煮干しのコレクション」全27種類なんてものもあった。
これには、応募者が全国で集めた「珍しい煮干し」や「正体不明の煮干し」も含まれている。
応募者の「煮干し愛」の深さに驚くと同時に「煮干しってこんなに種類があるのか......!」と衝撃を受けた。
いま、スーパーに行けば簡単にだしの素が安く手に入るし、煮干しから出汁をとる人は、かつてほどは多くないだろう。そうすると、「マイナー煮干し」を作る人もどんどん少なくなってしまうのかもしれない。そして150年後、もし「だしをとる」という行為がレアになっていたら......未来の人たちは煮干しコレクションを見て「かつての日本ではいろんな魚をミイラにする技術がやたら発達していたんだなあ、何の意味があるんだろう」などと不思議に思い、その理由を熱心に研究し始めてしまうのではないか。
そんな努力をさせないためにも、「煮干し」という存在を残し、だし文化・和食文化を残していかなければ......! 記者はそんな使命感に駆られてしまった。
存在しない記憶が、蘇る!
こちらは応募者が40年前に、出張の多かった父からお土産でもらった「思い出のキーホルダー」だ。ご当地感あふれる、しかし最近はお土産屋さんでもあまり見なくなったようなデザインが並んでいて、ノスタルジーを喚起する。
父がくれた重みも大きさもいろいろなお土産袋にワクワクしたこと。未開封の袋を前にして、3姉妹でジャンケンしてからお土産を選んでいたこと。そんな応募者の思い出と共に展示されていて、平和でありふれた、けれど美しい日常の風景が思い浮かんだ。
キーホルダーたちが40年間も大切に保管されてきたのは、応募者がそんな日常をこの上なく愛しているからこそだろう。そう考えると、デザインから感じる懐かしさも相まって、胸がキュッと切なくなった。
そんな風に、すべての展示に胸を震わせていた記者。特に、コレがヤバかった。
「おばあちゃんの白いハヤシライスのレシピ」だ。
おばあちゃんが作っていたという「白いハヤシライス」の作り方を書いた、手書きのレシピだ。身近な材料だけで構成されたレシピ自体も、それを残しておきたいと思う気持ちも、ほろっと泣きそうになってしまうほど懐かしくて温かい。もちろん記者はこのハヤシライスを食べたことがないので、味の想像もつかないのだが、手書きのレシピを見ていると、「子供の頃に白いハヤシライスが食卓に並ぶのを楽しみに待っていた自分」という「存在しない記憶」がだんだん蘇ってくる。このレシピで作ったハヤシライスが自分の前に出てきたら、絶対号泣しちゃう......。
ほかにも、たくさんの思い出やエピソードと共に「誰かの宝物」が展示されている。見る人によって心に響く、そして涙腺を刺激する宝物はそれぞれ違うことだろう。
今回の展示品たちは、今後150年間、東京国立博物館で目録・記録として大切に保管されるそう。あなたにとっての宝物とは何かをきっと思い出せる――そんな「150 年後の国宝展―ワタシの宝物、ミライの宝物」は2023年1月29日まで開催中。東京国立博物館総合文化展観覧券、または開催中の東京国立博物館の特別展観覧券(※観覧当日に限る)で見ることができる。