「雨の中を歩く私に、後ろから寄ってくる車。不審に思っていたら見知らぬおじさんがドアを開け『乗れよ!早く!』」(福井県・40代女性)
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Aさん(福井県・40代女性)
その日、Aさんは一人暮らしをしていた名古屋から地元に戻ってきていた。
しかし、駅についたはいいものの、実家の近くまでいくバスがない。仕方なく徒歩で変えることにした彼女だが、途中で猛烈な雨が降ってきて......。
<Aさんの体験談>
もう25年以上昔の話になります。夏のある日、1人暮らしをしていた名古屋から地元に電車で帰省したのですが、時間が合わず駅から実家までのバスがありませんでした。
それなら歩いて帰るかと、駅から続くアーケード街を実家に向かって歩くことに。しかし、アーケードもなくなり、やっと実家のある校区に入ったところで、ゲリラ豪雨に降られてしまったんです。
「早く!何もしないよ!」
傘は持ってきていませんでしたが、もともとそんなに歩く予定ではなかったので、だいぶ歩きにくいヒールのサンダルを履き、大きな荷物を持ってたので走るのもイヤ。頑なにずぶ濡れのまま歩き続けて路肩の狭い橋を渡っていると、後ろから来た車が私にやたら寄って来るのです。
「私、そんな遠慮なく歩いているかな......」と更に端に寄って歩いていると、その車が確実に私の行く手を阻むように止まりました。
そして、助手席のドアが開き、中から作業服を着た50代くらいの見知らぬ男性が声をかけてきたのです。
「乗れよ!早く!」
突然のことに私は困惑し「は?あっ、イヤ......」と遠慮しましたが、運転手は「早く!何もしないよ!」と続けます。
この車が止まっているせいで後ろには渋滞が出来ていて、その列からは「早く乗ったら」という無言の圧力のようなものも感じられました。
そして「ほんとはこんな無防備な事はしちゃいけないんだ!」と思いつつも私は車に乗り込んでしまったのでした。
「正直に言ってくれよ」
「見ての通り仕事中だから安心してくれ、どこまでだ?」
男性にそう聞かれた私は、あるコンビニの場所を伝えました。私の異性関係に口うるさかった母がこのことを知ったらなんて言われるかと思い、なるべく実家のある通りに止まることは避けてほしかったのです。
そのコンビニは実際、実家の近くではあったのでそこまで連れて行ってもらえるだけで十分でしたが、彼はとても心配してくれていました。
「ほんとか?ほんとにそこなのか?」
「正直に言ってくれよ、こんなに降ってんだぞ?」
と何度も確認され、私は「ほんとに!大丈夫です!」と答えました。
そうこうしているうちに車はコンビニに到着。とにかく自身の軽率さに嫌気が差し、早くこの時間が過ぎたらいいとばかり思っていた私は、「ありがとうございます、すいませんでした!どうも!」と男性に言い残し、あれほど走りたくないと雨の中を歩いていたにもかかわらず、足早に立ち去りました。
傘もささずに歩いている高校生が目に付くたびに...
きちんとしたお礼も言わなかったばかりか、とても失礼な態度をとってしまったと、今更ながら反省しています。
あの時は母からのお小言が気がかりで「こんな事してくれなくてもよかった」という思いすらありました。乗せてもらったのは社用車のような感じでしたが社名を見ようともせず、お名前も聞いていません。
今では、自分でも車を運転するようになりました。あの時自分が受けた親切を、次は誰かにして揚げる番になったのじゃないかと思うものの、なかなかどうして、あんなことはしようと思ってもできません。雨の日、傘もささずに歩いている高校生が目に付くたびにしみじみと思います。
当のご本人には、もう覚えのない事なのかもしれません。ただ私は何十年たっても、雨の日には必ず思い出します。あの時、ろくに示せなかった感謝が、今更ながらでも彼に届くといいなと思いながら。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな、あの時自分を助けてくれた・親切にしてくれた人に伝えたい「ありがとう」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
Jタウンネットでは読者の皆様の「『ありがとう』と伝えたいエピソード」を募集している。
読者投稿フォームもしくは公式ツイッター(@jtown_net)のダイレクトメッセージ、メール(toko@j-town.net)から、具体的な内容(どんな風に親切にしてもらったのか、どんなことで助かったのかなど、500文字程度~)、体験の時期・場所、あなたの住んでいる都道府県、年齢(20代、30代など大まかで結構です)、性別を明記してお送りください。秘密は厳守いたします。
(※本コラムでは、プライバシー配慮などのため、いただいた体験談を編集して掲載しています。あらかじめご了承ください)