福井に向かっていたはずが、戦国時代に着いちゃった!? 歴史の中に入り込む「一乗谷・城下町探訪記」
日本で初めて発見された「トイレ」?
――勘の鋭い読者の皆さんはすでにお気づきのことだろう。
記者はタイムスリップしたわけではない。予定通り、現代の福井県に辿り着いている。
今回、やってきたのは国の特別史跡・特別名勝・重要文化財の3つに指定されている「一乗谷朝倉氏遺跡」(福井市)。
戦国時代、越前朝倉氏が約100年に渡って治めていた一乗谷には、1万人もの人々が暮らしていたこともあったと言われている。1573年に織田軍によって焼き滅ぼされた後400年以上も土に埋もれていたが、発掘調査の結果ほぼ完全な形で見つかった。
記者が歩いていたのは、そんな遺跡の内部にかつて栄えた城下町を再現した「復原町並」だ。
町で出会った人々は、「城下町生活再現」として復原町並内を周回しているスタッフの皆さん。地元の劇団員や一般応募で選ばれたメンバーが当時の町人の服装で歩いたり、会話したりしていて、リアルな「戦国時代の城下町」を演出している。
また、取材時はコロナ禍で休止中だったが、甲冑やお姫様の衣装を着られる着付け体験(500円)もある(記者が町の皆さんと同じ服を着させてもらったのは、特別だ)。
復原町並内はどこもかしこも興味深いものばかりだが、その中でも特に面白いと思ったのはこちら。中級武家屋敷群のなかにあった、当時の「トイレ」を再現したものだ。
武士という職業柄、後ろから切りつけられることがないように、今の和式トイレとは違い、当時のトイレは扉の方を向いていたそう。
一乗谷朝倉氏遺跡は日本で初めて「トイレ遺構」が考古学的に確認された場所。トイレの穴の前を覆う「金隠し」が遺跡から出土したことで、いくつも開いていた穴が「トイレ」としてつくられたものだと裏付けられた。
他にも、戦国時代の「暮らし」に触れられる多くの遺物、遺構が発掘されていて、復原町並だけでなく、「平面復原地区」も見どころだ。
たとえばこれは、第5代当主の朝倉義景が住んでいた館跡。
建造物の基礎となり柱などを支えている礎石(そせき)が発掘されたことや、茶器や花瓶などの道具が出土したことなどから、詳細な間取りが明らかになっている。また、発掘調査で見つかった中では、日本最古といわれる「花壇」の遺構も残っている。
その上、道具や素材も多く発掘されていることから、城下町にはどのような職人が暮らしていたのかまで判明しているのだという。
そんな場所だからこそ、当時の人々の生活をものすごくリアルに再現し、タイムスリップしたと思ってしまうほどに忠実な町並を復原することができたわけだ。
2022年10月1日にはそんな朝倉氏の歴史を学べる「一乗谷朝倉氏遺跡博物館」もオープン予定。この地で発掘された遺物や、城下町のジオラマがあり、5代当主の義景が暮らした「朝倉館」の一部を原寸大で再現したエリアもあるので、ぜひ足を運んでもらいたい。
日本初の「トイレ遺構」発見の立役者である「金隠し」も展示されている。