「特急『しなの』の揺れで酔ってしまった私。2席使って休んでいると、強面の男が『おい、姉ちゃん...』」(神奈川県・50代女性)
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Kさん(神奈川県・50代女性)
今から30年以上も前のこと。当時は短大生だったKさんはその日、特急電車「しなの」の激しい揺れでひどく酔ってしまったのだという。
気分が優れず、Kさんは仕方なく座席を2席使って横になった。そこに、1人のいかつい男性が声をかけてきて......
<Kさんの体験談>
私が短大生だった頃の話です。地元である長野から遠く離れた奈良の短大へ進路が決まった時は、嬉しい気持ちと初めて地元を離れる淋しい気持ちでいっぱいでした。
今はどうか知りませんが、当時、長野から奈良までの道筋は遠く、電車を乗り継いで片道6時間半という大旅行。
しかも、長野から乗る「しなの」という名古屋行きの特急は、途中の道が険しく、「振り子電車」という揺れの大きいタイプの電車だったんです。おかげで普段は滅多に乗り物酔いしない私でも、ちょっと油断すると酔ってしまうという難関の3時間でした。
怖そうなの男が話しかけてきて...
「しなの」に乗る時は、途中で物を食べ過ぎない、定期的に水分をとる、できるだけ窓の外を見る、などして、いつも具合が悪くならないよう気を付けていたんです。
でもその日、急に帰省しなければならなくなり、急いで身支度をして長野までの電車の乗り継ぎを確認し、奈良から電車に飛び乗ることになりました。
既に夕方に差し掛かっていましたので、「しなの」に乗車する時は夜になります。窓の外を見ても真っ暗なので、景色を見られずに具合が悪くなるのではと、私は少し不安でした。
そして案の定、「しなの」に乗り始めて1時間ぐらいしたところで、気持ちが悪くなってきました。
体調が良くなかったせいか腹痛もし始めたので、他にあまり人が乗っていなかったこともあり、私は隣の空席を使って体を横にすることに。
しかし、しばらくすると強面でいかついというか、一瞬「ヤクザかも」というような感じの男性が、いつの間にか私のいた席の横に立っていたんです。
「空いてんならどいてくれや」
「姉ちゃん、そこ空いてんならどいてくれや」
男性は私にそう声をかけてきました。どうやら私が横になって休んでいる間に、いつの間にか乗客がいっぱいになっていたようです。
私は慌てて身を起こそうとしましたが、お腹が酷く痛い上に気持ちが悪くて、お腹を抑えながらゆっくり起き上がったものの、どうにも上手く座る事ができませんでした。それを見た男性は、
「おい、姉ちゃんもしかして具合わりぃんか?」
と聞いてきました。私がゆっくり頷くと、男性は急に居なくなったと思ったらすぐに車掌さんを連れて来て、こう言ったのです。
「この姉ちゃん具合悪いんや、顔が真っ青やろ。何とかしたらんかい」
「とにかく休める場所をご提供します」
私は恥ずかしいやら恐いやら気持ち悪いやらで困っていると、車掌さんが
「とにかく休める場所をご提供しますので、よかったらお越しください。立てますか?」
と、私をどこかの個室のような場所に案内してくださいました。
トイレほどの広さの空間にイスがあるだけの場所でしたが、車両では開かなかった窓が開く部屋で、私はすぐに窓を開けてその横にぴったり座り、顔に当たる風に身を任せました。
少しずつ吐き気が薄くなっていくのを感じながら、そのまま長野駅まで休ませてもらう事ができました。
長野駅に下りた時、あのちょっと恐い系の男性の方はもういませんでした。
車掌さんに深くお礼をし、あの恐かった男性の方にも感謝の気持ちでいっぱいでしたので、電車を降りた後「特急しなの」に深く一礼をして、私は駅をあとにしました。
もう30年以上前の話ですが、今でもその方の容貌や服装、色付きのメガネからのぞくちょっと怖い目からは想像もできない優しさを思い出します。あの時は、本当にありがとうございました。
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