「真冬の荒れた海のそばに、独りで泊まる若い女。『訳アリ』を察した民宿の従業員が...」(神奈川県・50代女性)
1人で荒れた真冬の海沿いの民宿に
20歳の時の冬、父に自分の成人式の振り袖姿の写真を見せたいと思ったのが、旅の始まりでした。
父は母と離婚して家を出たあと、伊豆のとある町で旅館の料理人をしている、という噂を聞いていました。
ネットもない時代、私はその噂を手がかりに電話帳をめくり、その町の旅館一軒一軒に電話をかけることに。その甲斐あって、なんとか父のいる海沿いの温泉旅館を突き止めたのです。
そして、自宅から電車を乗り継ぐこと3時間。到着した旅館で案内された厨房の裏口で、驚いて涙目になっている父と再会しました。
あいにく父のいる旅館は満室だったので、その夜は近所にある古い民宿に1人で泊まることになったのですが......。
何も知らない民宿の人にとって私は、「真冬の荒れた海沿いの宿に独りで泊まる二十歳くらいの女」。何か思うところがあったのか、彼らはこわばった笑顔を浮かべていました。