「真冬の荒れた海のそばに、独りで泊まる若い女。『訳アリ』を察した民宿の従業員が...」(神奈川県・50代女性)
家族や友人との賑やかな旅も良いが、一人でゆっくりと静かに旅をするというのも良いものだ。
ただ、場合によっては、「こんな場所に1人で来るなんて......まさか、訳アリ?」と現地の人に勘繰らせてしまうこともあるらしい。
Jタウンネット読者のKさん(50代女性)は、20歳の時に1人で伊豆に行った時、まさにそんな体験をした。
Kさんは、伊豆の温泉旅館で料理人をしている父に会いに、一人でその旅館のある町へ。
季節は真冬。父のいる旅館は満室だったため、彼女は荒れた海沿いにある一軒の民宿に泊まることにした。
すると、そんな彼女に民宿に従業員たちはこわばった笑顔を見せ......。
1人で荒れた真冬の海沿いの民宿に
20歳の時の冬、父に自分の成人式の振り袖姿の写真を見せたいと思ったのが、旅の始まりでした。
父は母と離婚して家を出たあと、伊豆のとある町で旅館の料理人をしている、という噂を聞いていました。
ネットもない時代、私はその噂を手がかりに電話帳をめくり、その町の旅館一軒一軒に電話をかけることに。その甲斐あって、なんとか父のいる海沿いの温泉旅館を突き止めたのです。
そして、自宅から電車を乗り継ぐこと3時間。到着した旅館で案内された厨房の裏口で、驚いて涙目になっている父と再会しました。
あいにく父のいる旅館は満室だったので、その夜は近所にある古い民宿に1人で泊まることになったのですが......。
何も知らない民宿の人にとって私は、「真冬の荒れた海沿いの宿に独りで泊まる二十歳くらいの女」。何か思うところがあったのか、彼らはこわばった笑顔を浮かべていました。
「よかったらおじさんたちのダンス見る?」
その晩、民宿で私に出されたのは、一人では食べきれないほどの海の幸が並んだ豪華な夕食。
「隣のテーブルの2倍くらい量があるような......」と私が驚いていると、頼んでもいない大瓶のビールが手元にどん、と置かれました。
「サービス。わけありなんだろ?」
驚いて顔をあげる私に女将さんらしき人がそう言って、コポコポとグラスにビールを注いでくれました。
「何だか映画みたい!」と困惑していると、今度は板前さんらしき方々が現れ、
「ね、ダンス好き? よかったらおじさんたちのダンス見る?」
とおどけて見せるなど、とにかくものすごいサービスです。民宿の方々は、どうやら私が何ごとか思いつめているかのように見えていたんだと思います。
2時間おきに話しかけてくれた
夕食を終え、夜更けになっても、
「お布団、足りる?」
「湯たんぽい入れますか」
「明日の朝は一番風呂どうぞ」
と、民宿の皆さんが部屋のドア越しに、2時間おきに代わる代わる話しかけてくるんです。
いっそ、「自殺とかはしませんよ」とズバリ言ったほうが良いかも、なんて悩みながら朝を迎えました。
そして翌朝、チェックアウトの時間ちょうどに、民宿にレンタカーに乗った私の父が現れると、女将さんは安心したのかため息まじりの笑顔で送り出してくれました。
そんな彼女の姿に、「きっと過去には色んな『わけあり』のお客さんがいたのかな...」と、いろいろ想像しました。
それから1年後に、父は病死しました。けれど、父の命日にはあの時の伊豆での体験を懐かしく思い出します。
「忘れられない旅先でのエピソード」、教えて!
Kさんの身を案じて、色々と気を遣ってくれた民宿の人々。結果的には勘違いだったものの、Kさんにとっては温かい思い出になったようだ。
皆さんにも、旅先でのほっこりした話、素敵な出会い、思い出に残っている体験談はあるだろうか。
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