「水と米とくれば、お酒でしょ」 酒米栽培、新天地での酒造り...初挑戦づくしの「東川の日本酒」ができるまで
酒米の収穫時に予想外のことが...
一方、JAひがしかわは、農協として初めて酒米づくりに着手することを20年2月頃に決定。初めての試みということもあって、酒米生産者5軒が彗星・きたしずくの栽培を手掛けることになった。
彗星を育てた牧さんは、酒米づくりの話が農協に来た時の心境を「どんなものができるかもわからないし、栽培の仕方や環境もわからないというのが正直なところでした」と振り返る。
酒米栽培には主食用米「ななつぼし」を植えていた水田の一部を利用。
マニュアルや実際に栽培を行う友人の話を参考にしながら進行したが、収穫の際に予想外のことが起こったという。
「私は『彗星』と2品種の主食用米を栽培しており、収穫は生育期間を考えて『ゆめぴりか→ななつぼし→彗星』の順番で計画していました。
しかし、『ゆめぴりか』の収穫後、『彗星』の生育が『ななつぼし』より進んでいることがわかり、急遽刈り取りました」(牧さん)
収穫タイミングが遅れると、主食用米も酒米も色がくすむことがある。そうなってしまった場合、酒米に関しては「お酒に雑味が出る」といった影響があるため、収穫の順番を変更しなければならなかった。
また、収穫後にモミを乾燥させる場面では、酒米用の時間調整が必要になった。
「収穫後は乾燥機に入れて米を乾かし、主食用米だと8時間~半日ほどで仕上がります。しかし酒米は同じように乾燥すると、米がモミの中で割れる『胴割れ』という現象が起こることがあります。
そのため酒米の乾燥はゆっくり時間をかけ、丸1日ほどかけて仕上げました」(牧さん)
胴割れは主食用米に比べて酒米の方が起きやすい。
モミの中だけに限らず、米にスジが入って精米の際に割れるケースもある。芯の部分が割れてしまった米は醸造に使えなくなるため、胴割れ防止には細心の注意が必要だ。
「東川の代表として失敗できない」――そんなプレッシャーもある中、牧さんは毎日のように圃場を訪れ、水回りを確認した。乾燥機を使う際も、主食用米と酒米が混ざらないよう掃除を徹底するなど、あらゆる面で気を配った。
牧さんが作った彗星の収量は、予定よりも少し多く、心配していた胴割れもなかった。
一般的に、主食用米や酒米はタンパク値が低いほどおいしいとされており、そちらも基準値内に収まった。
彗星で作った日本酒を、初めて飲んだ時の感想を聞くと、
「彗星はすっきり飲めてキレが良く、非常に飲みやすいお酒でした。 僕が作ったお米だと聞き、余計においしく感じましたね。精米歩合が55%と45%の純米酒を飲みましたが、飲み始めのキレに違いがありました」(牧さん)
純米酒は、醸造アルコールを使わず、水、米、米麹のみで作ったお酒のこと。精米歩合は酒米を削って残った割合を指している。60%以下は「吟醸」、50%以下は「大吟醸」に分類され、精米歩合によって香りや味が変化する。
三千櫻酒造では、55%と45%の「彗星」「きたしずく」を販売。ふるさと納税の返礼品としては、それぞれ55%の日本酒を取り扱っているが、今後は45%がラインアップに加わる予定だ。