「水と米とくれば、お酒でしょ」 酒米栽培、新天地での酒造り...初挑戦づくしの「東川の日本酒」ができるまで
山田社長「まだまだ満足はできません」
三千櫻酒造が移転を決めた主な要因は、中津川にあった蔵の老朽化と、地球温暖化による影響。
蒸した酒米を冷却する作業が近年の暖冬で難しくなり、山田社長は東川町が行っていた公設民営酒造の公募に名乗りを上げた。
「心配事も多くありましたが、三千櫻ブランドの継続のため、東川町への移転を決断しました」と山田社長。社長と和枝さん、そして3人の蔵人(くらびと=日本酒造りに従事する人)全員が、慣れ親しんだ中津川の土地を離れて、20年10月に東川に移転した。
移転が決まった時の心境を、和枝さんは次のように語る。
「私は岐阜に13年ほど住んでおり、人とのつながりがやっと構築されてきたところだったので、寂しさがありました。 東川町のことは知れば知るほどワクワクしましたが、複雑な気持ちですよね。仲良くしてもらった方たちに後ろ髪をひかれるような思いでした」(和枝さん)
醸造作業は20年11月から開始。東川町で作りはじめた日本酒は、東川町産の酒米「彗星」「きたしずく」などを使用している。
きたしずくは以前から使用しているが、三千櫻酒造が彗星を使用するのは今回が初めてだ。
東川で作ったお酒の味に関しては、「中津川仕込みの酒と比べて、味がクリアですね。透明感が増した感じがします」と評価する山田社長。初めて飲んだ時の心境を聞くと、
「とりあえずホッとしました。一般消費者や販売店向けには十分合格点が出せるなと。 ですが、まだまだ満足はできません。それより先の世界がやっぱりあって、これはもっとこうした方が上がるよねっていうのはたくさんありますね」(山田社長)
彗星は一般的に「味が出にくい米」とされているそうで、山田社長は「麹の作り方を調整し、もう少し味の幅を持たせたいと思います」と話した。
東川町産の酒米「彗星」「きたしずく」を使った、三千櫻酒造の日本酒はどのような味なのか。編集部でも飲んでみたので、感想はのちほどお伝えしよう。
新しくできた酒蔵には、札幌や苫小牧など遠方から足を運ぶ人も。併設されたショップには小窓があり、そこから酒造りの様子を見学することもできる。
三千櫻酒造では東川出身の社員が一人増えるなど新たな出会いもあった。
「最近だと文房具屋さんと仲良くなって、おかみさんに頑張ってねと背中をなでられると涙がにじみます。地元の人にそういうことを言われると嬉しいですね。
東川の人は私たちが来るのを受け入れてくれて、本当に頑張らなくちゃな、というのを感じて励みになってます」(和枝さん)
三千櫻酒造の挑戦は、まだ始まったばかりだ。