キーワードは「東川らしさ」。人口8000人、北海道の小さな町が「普通のふるさと納税をやめた」理由
株主は「特別町民」
ふるさと納税という制度ができた時、東川町はそれを活用して「写真の町」として築いてきた関係をさらに強めようと考えた。
「もともと人脈はあるんだから、そこを『株主制度』に活かしていこうという考え方です」(菊地さん)
初年度、東川町の株主になったのは415人だった。株主の数はそれから毎年増え続け、2019年度には5万人以上になっている。初めは東川町の出身者、「写真の町」で東川町と関わった人などから口コミで広まっていき、今では様々な人が株主になっているという。
株主は投資の際に、東川町が行っている「『写真の町』推進事業」、「水と環境を守る森づくり事業」など10個ほどの事業の中から、どれに自分が出した寄付金が使われるかを決めることができる。
そうすることで、株主と「気持ちでつながろうと取り組んできた」のだそう。
「株主制度」を始めて良かったことは、どんなことだろう。菊地さんはこう語る。
「形として、人々とつながるツールができたのが第一ですよね。
ふるさと納税を活用しているので寄付するっていうことが大前提ですが、寄付をした方は東川とつながった、と思いますよね。
町からは、つながった証として『ひがしかわ株主証』を提供し、町外の株主の方は『東川特別町民』に認定し、認定証をお送りしています」
株主証を持っている人は、無料の宿泊施設を利用したり、公共施設を町民価格で使用したりできる。また、今年は新型コロナウイルスの影響により、オンラインでの開催が検討されているが、年に1度、東川町で「株主総会」も開催しているという。
「株主総会」は、7年ほど前に始まったもので、先着100人の株主が参加できる。希望者は年々増えており、毎年グループで参加するリピーターもいるそうだ。
総会のために東川町を訪れた株主はまず、町内にある「株主の森」へ赴き、投資対象でもある「水と環境を守る森づくり事業」の一環として、植樹をする。
その後、町内の講堂等に移動して「総会」が行われる。職員から東川町が行っているプロジェクト等について説明し、意見交換を行うのだそう。
その場では「この事業って何やってるんですか、具体的に教えてください」「東川町がやろうとしていることは何のためにやってるんですか?」などの質問が株主から出たり、建設的な意見が述べられたりするという。
「投資をしているということで、町づくりに参画しているという意識を持っていると思いますね」
と菊地さんは話す。
総会の後は様々なアクティビティを楽しんだり、みんなで食事をたべたりするのだが、株主たちはここでの町民との交流を楽しみにやってきているそうだ。
「一度、株主総会の参加者のみで焼き肉をやったら、一部から『町民とのかかわりが楽しみで来たのに、なんでなの?』という意見が出ました。
アンケートをとっても町民とのかかわりを望む声が多いですね」(菊地さん)
「株主」の存在は町民にも浸透し、「株主」が町にやってきたときには温かくもてなす環境もできているという。
「いろんな商店であったり、事業主さんにとって株主はただの初見のお客さんじゃなくて、町を支持してくれている人。
町に思いを持っている店は、株主さんがお店に来たときに、(株主であることついて)ありがとう、と言ってると思います。東川町には、東川が好きで店をやってる人が多いですから」(菊地さん)