<東京暮らし(13)>離島留学という選択肢
留学を決めた意外なきっかけとは
東京海洋大学品川キャンパスの会場を訪れると、予想よりずっと多くの人が集まっていた。42組85人もの中学生とその保護者が、久米島高校への留学に興味を持ち参加していた。
島外の中学から久米島高校に留学するには、(1)保護者と共に久米島に転居する (2)島内の方に身元引受人(島親さん)になってもらう――という2つの方法がある。
(2)を選んだ場合、町営寮から通う「寮型」(月額4万2000円)と、島親さんの元から通う「里親型」(月額7万円※町から2万円の補助あり)があって、住む場所と食事が提供される仕組みだ。
寮と同じ場所に町営塾もあり、これまで琉球大学や和歌山大学などの国公立大学に進学した生徒もいて、進路指導も手厚く行われている。ハワイの高校との交換留学制度もあり、取材した限り、学業の充実ぶりは都市の高校と遜色ない印象だ。
現在、計32名の離島留学生が在籍しており、生徒全体の1割強を占めるという。ちなみに関東出身者は15人で、内訳は東京5人、神奈川4人、千葉が3人。この離島留学制度は、応募者が年々増加しているが、町営寮の定員が32人のため、里親希望者を増やすなどしない限り、年に10余人程度の留学生しか受け入れられないのが実状だ。
その説明会に100人近い方が興味を持って参加をしていることに驚いたが、実際に留学中の生徒さんと、別の保護者の方に話を聞いてもっと驚いたのは、多くの選択肢の中から久米島高校を選んだその理由だった。
何も特別な事情があって留学したのではなく、「たまたま行った家族旅行で久米島が気に入ったから」、久米島高校へ行きたいと思ったのだそうだ。何ともライトな自然体の答えに、今の若い人の多様な価値観を見た気がした。
話を聞かせてくれた留学生は、現在3年生の丸山和馬君。東京都足立区の出身で、留学のきっかけは小学生の時に家族で行った久米島旅行だった。以来、久米島とは縁がなかったが、高校受験の際にどこを受けるか調べているうちに留学制度を知り、あの久米島に行きたくなって受験。見事合格、入った野球部もこの夏引退し、充実の高校生活もあと少しとなった。
――寮生活、さびしくない?
丸山君「入学してから一度もさびしくありません。1年に夏と冬、1週間ずつしか東京に帰ってないです(笑)。自然がきれいだし、島の人たちも温かくて、同級生のお父さんお母さんとご飯食べたりもするし、とにかく島が楽しいです」
――久米島に来て自分が変わったと思う部分はある?
丸山君「人前で話すのが苦手でしたが、2年生の時寮長をやったこともあって、皆の前で話す力がついたと思います。あと、中学までは洗濯も親にやってもらってましたが、寮生活で特に野球部だったので洗濯も自分でするようになって、自立できてきたと思います」
――3年生だと進路は決めているのかな?
丸山君「はい、東京の実家に戻って、歯科の専門学校に通う予定です。将来の仕事は、高齢化が進む離島で、自分が身に着けたスキルを使って手助けをしたいです」
真っ黒に日焼けし、白い歯を見せてはにかみながら笑う丸山君は野球青年らしく何ともすがすがしい。久米島の生活がさぞ楽しく充実しているんだろうなと思わせる、明るさがある。