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「医療ツーリズム」で地方創生目指す、仙北市「国家戦略特区」構想の中身

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2015.04.18 11:00
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秋田県仙北市。温泉などで有名なこの町が、世界に開かれた「医療ツーリズム」「ヘルスツーリズム」の一大拠点への進化を目指している。

台湾との交流が盛ん

秋田県仙北市は、水深日本一の田沢湖、武家屋敷で有名な角館、乳頭温泉郷、玉川温泉などを有する、県内屈指の観光都市だ。自治体としての歴史は新しく、2005年に角館町・田沢湖町・西木村が合併して誕生した。

秋田市と盛岡市の中間に位置し、秋田新幹線が田沢湖と角館の2駅に停車する好条件もあって、年間約600万人の観光客が訪れる。
海外からの観光客も積極的に受け入れていて、とくに台湾との文化交流が盛んだ。田沢湖と台湾南部の澄清湖は姉妹湖の協定を締結しているし、台北市の北投温泉と仙北の玉川温泉は温泉提携協定を結んでいる。

通年を通して湯治客の受入れをしたいという気持ちと、落ち込んでいる観光客をどうやって下げ止めするか、そして農林業における所得減退にどう対応していくか――。これらの課題に対する答えが「国家戦略特区」の提案だった。

市が昨年8月に国に提出した「国家戦略特区提案ヒアリング用資料」によると、特区構想の柱は以下の3つ。

(1)外国人も含めた、温泉活用・湯治型の医療ツーリズム推進
(2)食のトータルプラン(食農林観連携)の推進
(3)医療・観光拠点開発のための公共施設・交通などの改革

テーマ1「外国人も含めた、温泉活用・湯治型の医療ツーリズム推進」の概要(仙北市資料より)
テーマ1「外国人も含めた、温泉活用・湯治型の医療ツーリズム推進」の概要(仙北市資料より)
テーマ2「食のトータルプラン(食農林観連携)の推進」の概要(仙北市資料より)
テーマ2「食のトータルプラン(食農林観連携)の推進」の概要(仙北市資料より)
テーマ3「医療・観光拠点開発のための公共施設・交通などの改革」の概要(仙北市資料より)
テーマ3「医療・観光拠点開発のための公共施設・交通などの改革」の概要(仙北市資料より)

この提案を受けて国は、仙北市を地方創生特区に指定する方針を3月19日に表明した。

湯治場本来の姿に回帰!?

安くて良質な治療を求め、患者が国境を超える医療ツーリズム。医療費が高いヨーロッパや医師不足が日本以上に深刻な英・カナダ人が、アジア諸国で高度医療を受けるケースが知られている。
仙北市の提唱するプランはそれと一線を画す。仙北市の定住対策推進室担当者は目指す医療ツーリズム・ヘルスツーリズムのビジョンを次のように語る。

「温泉浴や飲泉、その土地の自然環境、食事等が総合されて行われる温泉療法を想定しており、旅行をかねて湯治にいらっしゃる方々の健康回復や健康増進を図ることを目指していきたいと考えています」

イメージとしてはドイツのクアオルト(長期滞在型健康保養地)に近い。ドイツ各州政府が認定した場所は約370カ所あり、町全体が1つの医療センターとして機能する。
温泉療法だけでなく、泥治療や吸入・飲泉、電気・磁気治療、マッサージなどが受けられる。サウナ、プールといった療法施設、客同士が交流を深めるセンター、運動療法に適した公園、クリニックなどが揃う。
中でも有名なのがドイツ南部のバーデンバーデン。ローマ帝国時代からの伝統を誇るクアオルトで、ヨーロッパ中から長期滞在客がやってくる。

ドイツのバーデンバーデン公式サイト日本語版
ドイツのバーデンバーデン公式サイト日本語版

秘湯の佇まいは残す

仙北市の提案書には、湯治ニーズに対応した外国人医師の受け入れ促進、病院内の空きスペースを活用した個人診療所の開業解禁、温泉療養を公的医療保険の適用対象とすること、医療費控除の対象施設要件を緩和することなどが盛り込まれている。

観光産業の活性化だけでなく、温泉療法導入によって医療費の抑制効果が期待できると、担当者は胸を張る。

「温泉を核としたヘルスツーリズムを実施することで、病院等での治療より温泉療養の方が治療者の負担も抑えられることが期待されます。加えて従来の温泉療法である『温泉』に『食』『運動』『環境』の4つをバランスよく組み合わせることで、心身のリフレッシュと生活習慣病の改善と自然治癒能力を高め、医療費の抑制を図り、ツーリズムによる新たな健康産業の創出ができると考えます」

外国人医師の受け入れ促進については次のように説明する。

「(日本人)医師の確保が困難というのは現状としてあります。しかし、医師確保のためという考えよりは、主は北投石(※編注:鉱物の一種。台湾の北投温泉と玉川温泉でしか産出しない)をご縁に台湾との交流実績も市民レベルで拡大していることなどからも、国際交流を更に充実させていくために、外国人医師を受け入れていきたい考えです」

うまくいけば国内外の観光客が増えるのは間違いない。医療関係にとどまらず各種企業から問い合わせが寄せられている。
外部資本が参入ことで秘湯の風情が失われないか気がかりだが、

「仙北市が提案した内容では、現在の温泉施設等を活用した内容となっているため、温泉利用の形態が大きく変わることは無いと考えております」(市の担当者)

と説明する。

温泉好きを自認する日本人。しかし江戸時代に広まった湯治の習慣は軽視されがちで、団体や家族での温泉旅行が主流となっている。
斬新なプランが並んでいるように見える特区提案だが、実は原点回帰といえそうだ。

北東北の交流拠点都市となることができるか

4月3日、地域限定で規制を緩和する国家戦略特区での追加緩和策を盛り込んだ「国家戦略特区法」改正案が国会に提出された。成立すれば特区構想がいよいよ動き出す。 具体的な事業内容の審議はそれからだが、医療ツーリズム以外にも次のようなアイデアが市や政府から飛び出している。

  • 仙北市の約71%を占める国有林で小型無人飛行機「ドローン」の実証実験
  • 国有林で動物の生育・放牧
  • 免税店の手続き簡略化

自然環境と歴史遺産に恵まれた仙北市だが、面積は1094平方キロと東京都の2分の1もある。一方で人口は約2万8000人しかいない。

外国人観光客と地域住民が安心して居住できるようにするためには、公共交通機関や救急時の搬送体制の整備など、解決すべき問題は山積する。特区指定はその特効薬となり得るか。

「本市の特徴である観光地としての強みを活かし、温泉を核としたヘルスツーリズムを提供することで、温泉施設利用者と観光客数の増加を図り、地元企業等の活性化を目指します。また医療体制が充実することで、国内外からの観光客はもちろんグリーンツーリズムを通じて来市される方々に対して、医療に対する安心感を与え、農林業体験や地域文化との触れあいにより、地元農家の働き甲斐へとつなげ、中山間地域や農山村地域の活力向上も目指していきたいと考えます。 そして各種規制緩和が実現することにより、民間投資の拡大を図り、落ち込んでいる地域経済の回復や新たな雇用の創出、産業生産額の向上を目指します」(市の担当者)
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