「住み込みバイトで寝るのは6人の相部屋。布団をかぶった私の横で、同室の連中が...」(千葉県・50代男性)
「オレが山をおりたら...」
声をあげてくれたのはNさんという人だった。
それ以来、自分はNさんと親しくなり、山に来た理由や悶々と過ごす日々のこと、自身の境遇をポツリポツリと話すようになった。
その内飲みにも誘ってくれたり、おどけて雪山に飛び込んだり、「大丈夫だから」と寮のもう時間外の風呂に忍び込んで入ったり......。Jさんは、オレを笑わせようとしてくれた。
そして、ある日、Nさんが言った。
「オレは明日、山をおりる。そしたらこの袋をホテルの売店にいる山田って女の子に、オレからだと言って渡してくれ」
「いいですよ」と請け負ったが、内心自分で渡せばいいのにと思っていた。
その後、「オマエ電話番号教えてくれよ。オレのも教えておくから」と言われたのだが、怖いボクサーのような鋭い目をしたNさんに、オレは実は心を許しきれていなかった。
おそらくそんな雰囲気が顔に出たのだろう。Nさんは「心配するな電話はしねえよ」とメモを渡してきて、オレに山田という人に渡してほしいという袋を預け「じゃあな頑張れよ」と部屋を出て行った。
翌日、売店の山田さんを尋ねたが、店員は「山田なんて人はいないよ」と言う。訳分からず部屋に戻って袋を開けてみるとたくさんのお菓子が入っていた。
袋のお菓子は自分への餞別だったのだろう。東京から山奥に独りやってきた生意気な若造を、Nさんは気にかけてくれたのだと思う。
山を降りてNさんに電話してみたが、その番号は通じなかった。
あれっきりNさんに会う事はなかった。「ありがとう」や「さようなら」も言えず終いで最後までクソガキのまま別れてしまったこと、今でも悔いが残っている。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」「あの時はごめんなさい」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
Jタウンネットでは読者の皆さんの「『ありがとう』と伝えたいエピソード」「『ごめんなさい』を伝えたいエピソード」を募集している。
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