「残ったドリンク流す場所」じゃありません えちごトキめき鉄道の観光列車に残り続ける「昭和の遺産」
突然だが、みなさんは「痰壺(たんつぼ)」をご存じだろうか。
その名の通り、痰を吐き入れるための壺である。明治時代には結核の予防のために、学校や病院、駅や電車内などにそれを設置するよう省令が出されるなど、人が集まる場所にはあって当然の存在だったようだ。今となっては公共の場で見かけるケースはまずなくなったと思っていたのだが......。
実は、現役の鉄道車両の中に残っているものがあるらしい。
こちらはXユーザーのろくいち(@east_japan)さんが2023年8月28日に投稿した写真。新潟県上越市の鉄道会社「えちごトキめき鉄道」が運行する観光急行の洗面台を写したものだ。その脇に小さな丸いものが見えるだろう。
これについてろくいちさんは、次のように呟いている。
「洗面台をよく見ると脇に痰壷(たんつぼ)が残ってるんだよ。今の鉄道では絶滅したものだからある種時代の記憶ともいえる」
本当に、痰壺なのか? Jタウンネット記者は31日、えちごトキめき鉄道を取材した。
昭和のなつかしさを感じる特急列車
同社経営企画部総務課の広報担当・高地久美子さんによると、洗面台の脇にあるのは痰壺で間違いない。観光急行の1号車であるクハ455-701という車両に設置されているという。
「この車両は、サハ455-1として1971年に完成しました。1986年に実施された先頭車化改造によりクハ455-701となりましたが、当時のままJR西日本からいただいたので痰壺も残っています」
洗面台と同様に痰壺も現役ではあるのだが、「車両清掃にあたっている会社によりますと、これまで使った形跡はないということです」。そもそも乗客が痰壺と認識していない場合も多いそうだ。
「455系」の車両は急行電車用に大量に製造され、かつては日本中を走り回っていたという。しかし現在では老朽化が進み、現役で動いているのは「クハ455-701」だけ。非常に貴重な車両だ。
しかも、車内の中吊りでは1968年のダイヤ改正や1970 年代に国鉄が行っていた「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンの広告の掲出や、壁面にも国鉄時代の地図の貼り出しなど、ノスタルジーに浸ることができるような環境作りも行っているという。
装飾だけでなく、「朝から夕まで455」という企画も実施。8時間40分、クハ455-701のボックス座席を占有して連続乗車ができるコースで、"昭和の長距離急行列車の旅"を満喫できる。
観光急行は、土休日と一部の平日に運行。痰壺も含めて昭和の鉄道の雰囲気が味わいたい人は乗ってみてはいかが。