「貧乏旅中の若い僕を自宅に招いてくれた中年女性。風呂を借り、食事までしていると彼女の姑が現れて...」(福島県・50代男性)
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Oさん(福島県・50代男性)
30年ほど前、Oさんはバイク旅行をしていた。その日は自然の中に存在する温泉――野湯を探していたという。
しかし、やっと見つけたその場所はとても入浴できる状態ではなかった。
期待が外れガッカリしていた彼に、1人の女性が話しかけてきた。最終的に、Oさんは彼女の自宅の風呂に入ることになり......。
<Oさんの体験談>
今から約30年前、バイクで日本一周の貧乏旅をしていたときのことです。その日は野湯を探しながら川沿いを走っていました。
なんとか露天風呂を発見したのですが、近づくと石作りの浴槽には大量の砂が......。とても入れる状態ではありません。
残念と思いながらしばらく眺め、バイクに戻ると近くで農作業中だった50~60代の女性から
「そんな大荷物でどこから来たの?」
と声を掛けられました。
「良かったらうちの風呂入っていく?」
福島から来たと答えると「こんなとこに何しに?」と聞かれたので、
「ここの温泉に入るために来たけど、残念ながら入れませんでした」
と答えると、彼女は温泉について教えてくれました。曰く、数年前の大雨で水没してしまい、整備するにもお金が掛かるし、マナーが悪い連中もいるから直していなかったそうです。
そして彼女は「良かったらうちの風呂入っていく?」と提案してくれたのです。
最初はお断りしたのですが、
「そこの温泉と同じ湯が家で入れるよ。せっかく来たんだから入っていきな」
と言うのです。それがどういう意味かよくわからなかったのですが、「せっかくだから」と言われて結局ご自宅にお邪魔することになったのでした。
食事していたら、お姑さんが...
すぐ近くにあった彼女のお宅のお風呂は、源泉かけ流しのお湯が流れていて、まるで小さな温泉旅館のような感じでした。
どのぐらい入ったか分かりませんが、元々長風呂なので、少し長い入浴だったと思います。あがってから「すごく良いお湯でした、ありがとうございます」とお礼を伝えると、
「何もないけどご飯も食べてきな」
と言ってくださいました。「いやいや結構です」とお断りしたのですが、テーブルの上にすでにご飯が準備されていました。
またしても「せっかくだから」というお言葉に甘えてごちそうになっていると、彼女は別の部屋へ。その間に、今度はもう少し年上の、お姑さんだと思しき女性が現れました。
「嫁には内緒だけど、これ食べな。美味しいから」
おばあさんはそう言って別のおかずを出してくれました。そしてまた、「嫁には内緒だよ!」と言って去っていったのでした。
嫁と姑とはこんな感じ?
その後、私を家に招いてくれた女性が部屋に戻ってきました。
そこで「今、ばーちゃんですかねー?これもらいました」とお伝えすると「ばーちゃんは何でもあげるんだから」とつぶやいていました。
そんな彼女もまた、別のおかずを持ってきていて「これ食べてみな。美味しいから」と私に出してくださいました。そして、
「ばーちゃんには内緒だよ」
と、おばあさんと同じ言葉を口にしたので、とても驚いたことを覚えています。
当時21歳だった私は、「嫁と姑」とはこんな感じなのか、仲がいいのか悪いのか、わかりませんでした。けど、2人とも優しい人だなーと思いました。
腹ペコで、運動部所属でもあった私は出していただいたご飯は全て美味しくいただきました。その食べっぷりには彼女も驚いたことと思います。
そして、お暇するときには「これ晩に食べ」とおにぎりまで持たせてもらいました。
あれから約30年が経ち、今となってはもう一度あの場所に行くことも、あの素敵な2人の女性にもう一度お会いすることも出来ません。
お腹も心もいっぱいにしていただき、ありがとうございました。そして本当にごちそうさまでした、と改めてお礼を伝えたいです。
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