福井の食通たちが選ぶ「究極のメニュー」がこちらです 越前がにからこだわりフレンチまで...超絶品を食べつくす!
寒い冬が、またやってきた。
吹き荒れる木枯らしが肌を突き刺すのを感じながら、筆者は未だ果たせずにいる「ある野望」を思い出す。
――2021年3月、筆者は「幸福度日本一の県民は、いったい何を食べてるの? 東京で買える『福井グルメ』を食べつくしてみた!」という記事を書いた。
東京にある福井県のアンテナショップを巡り、ご当地グルメを食べつくすという内容である。ソースカツ丼やセイコガニ、サバのへしこ......様々な福井の名物を食べた。どれもおいしかった。
おいしかったのだが、食べ終えた後で筆者を支配したのはこんな気持ちである。
「やはり現地で、思う存分食べたい!」
再び冬が来て、筆者の中に再びその思いが湧き上がってきた。このままでは冬が来るたびに現地に行けなかった後悔に苛まれるかもしれない。過去に縛られたまま生きるのは嫌だ。そうならないためには、「やはり福井に行くしかない」。
こうして筆者は、最高の福井グルメに出会う旅に出た。
現地の食通を数珠つなぎ!
福井駅に到着してすぐ、恐竜のお出迎えを受けたところで、ある問題にぶち当たった。初めて訪れた福井県で「最高のご当地グルメ」を探す見つける方法とは?
ネットやガイドマップを見れば多くの情報が得られるだろう。でも、そこから「最高」を選べる保証はない。かといってその辺を歩いている地元民に話しかけるのは怪しすぎる。
どうすれば最高の福井グルメにたどり着けるのか。必死に考えてみたら、あるアイデアが浮かんだ。
福井県の食通に教えてもらえばいいんだ!
というワケでさっそく筆者が知る福井の食通、福井県庁のAさんに連絡を取ったところ......あっさり快諾してくれた。
こうして教えてもらったのが、越前海岸にある海鮮レストラン「魚屋の喰い処まつ田」。
「福井の冬と言えばマストの越前がにを様々な料理で楽しめます。カニが生息する越前海岸を眺めながら食事を楽しめるのもポイントです」
と、まつ田の魅力を語るAさん。そんなカニ料理の中から特におすすめされたのが、「まつ田ずわい丼」である(※福井で水揚げされたズワイガニを「越前がに」という)。
越前がにに翻弄される
ずわいがにを丸々1杯剥き身にして、蟹がらでとっただし汁で炊いたご飯に乗せた「まつ田ずわい丼」。
たっぷりと敷き詰められた身は見ているだけでも満足してしまいそうだ。いざ口に入れてみると、ミルキーで濃厚な旨味が口いっぱいに広がってくる。
そこに、まつ田が独自で調合した「カニ酢」をかければおいしさは倍増。さっぱりとしたカニ酢が濃厚な身の味わいを引き立たせている。
しかも、これで終わらないのがまつ田ずわい丼。甲羅を外せば、かにミソがお目見えするのだ。
口に入れた瞬間、急襲するまろやかで濃厚な味わい。そして磯の香りが気持ちよく広がっていく。
瞬く間に体の力が抜けていき、身も心もかにミソが与える快楽の奴隷となっている。無抵抗な埼玉県民はなすすべもなく、極楽を体感させられてしまった。
なんという威力だろうか。あまりの衝撃に一度顔をあげ、どんぶりから目をそらした筆者。するとそこで、またやられてしまった。
窓の外にはこのカニの生まれ故郷である偉大なる日本海の絶景が広がっていた。舌だけでなく、視覚まで奪ってくるとは......。
もはや海なし県民になすすべはない。まつ田ずわい丼に魅了されてしまっただけでなく、もはやこの大いなる海を持つ福井県そのものに心を奪われそうになっている。
カツだけが主役じゃない! オールスターキャストの新次元カツ丼に衝撃
越前がににぶちのめされてしまったが、これだけで帰ってはもったいない。筆者はAさんに再び連絡を取り、
「あなたが知っている福井県民の中で、一番の食通を教えてほしい」
と頼み込んだ。
食通から食通へ――数珠つなぎの要領で教えてもらえば、まだまだ最高の福井グルメに出会えると見込んだのだ。
そしてAさんが紹介してくれたのが、福井テレビのディレクター・小島梨花さんだった。
グルメロケの経験も豊富だという小島さんが
「今回は撮影などで出会った忘れられない丼をご紹介いたします!」
と紹介してくれたのが、福井県の内陸部・大野市にある「そば処 梅林」の「しょうゆかつ丼」。
福井県といえば、筆者も昨年食べたソースカツ丼がすでに名物の地位を確立しているが、大野市ではしょうゆかつ丼も有名だという。
トッピングは店によってそれぞれ異なり、梅林のしょうゆかつ丼は、ご飯の上に玉ねぎなどの辛味野菜。そして福井のソースカツ丼同様に薄いカツが3枚、その上に大根おろしと温玉、カイワレが乗っている。
ここに甘めのかつ丼用のしょうゆをかけて頂く。
かつ丼なのだから、当然カツがメインであろう。野菜はせいぜい付け合わせにすぎない――そう考えていた筆者が、馬鹿でした。
まろやかな温玉と甘めのしょうゆによって、カツの旨味がグンと引き上げられているのはもちろん、大根おろし、かいわれ、玉ねぎといった辛味のある野菜たちまでもが覚醒。甘さとまろやかさがほどよい辛味が引き出し、もっと野菜がほしくなってしまうのだ。
脇役と思っていた野菜たちが、カツに並ぶほどの存在感を見せつける。それは、例えて言うなれば「太陽にほえろ!」で新人刑事に負けず劣らず輝いていた小野寺昭さんや竜雷太さんを想起させる活躍ぶり。
カツの一人芝居かと思いきや、オールスターキャストで舌を満足させてくれる逸品だった。
王道福井グルメの元祖! 肉厚の鯖からあふれ出る旨味に感激
筆者の福井グルメ旅はまだまだ続く。小島さんが「福井で一番の食通」として紹介してくれたのは、ナレーターやラジオのMCを中心に活躍する岡田健志さんだ。福井では声を聞かない日がないほどの存在である。
そんな彼が教えてくれたのは、坂井市三国町にある「越前三國湊屋」の「元祖 焼き鯖寿司」。
「福井県の北の端にある小さな港町・三国町。愛すべき我が故郷のとっておきのグルメをご紹介します」(岡田さん)
越前三國湊屋は、福井名物「焼き鯖寿司」発祥の店。同店を運営するスターフーズの代表・中本貴久さんが「三国町の名物を作りたい」という思いで2000年5月に生み出したご当地グルメなのである。
今でこそお馴染みの存在になっているが、元祖の味が楽しめるのは越前三國湊屋だけ。この味を知らずに福井名物を食べた気になってはいけないのかもしれない。
包みを開けると、ずっしりとした焼き鯖寿司が登場する。鯖の脂の香りがふんわりと漂ってきて、食欲が増す。
断面を見ると、ふっくら肉厚の鯖が圧倒的な輝きを放っている。食べれば真っ先に飛び込んでくるのも、もちろん鯖の味。食べ進めるほどに広がりを見せる鯖の旨味。すぐ虜になってしまった。
そして、越前三國湊屋オリジナルのお酢、コシヒカリの醸し出す甘味と、鯖以外の食材の味わいもたまらない。
そこに大葉とガリが絶妙な酸味をもたらし、口の中が脂っぽくならず、さっぱりする。この酸味があるからこそ、鯖の旨味が常に新鮮に感じられて箸が止まらなくなってしまうのだ。
正直1人で食べきれるか不安になる大きさだったが、気づけば包みの上から寿司はなくなっていた。もし、お土産用に余分に買っていたら、それも食べきってしまっていただろう。
毎日でも食べたい「温泉ナポリタン」
まつ田ずわい丼、しょうゆかつ丼、焼き鯖寿司――福井ならではのメニューを味わってきた。
お次はどんな名物が食べられるのかと期待を膨らませる筆者に、岡田さんが紹介してくれた食通は、ウォーキングインストラクターの笹井杏奈さん。勧めてくれたのは、意外なメニューだった。
あわら市にある「Pasta&Wine 1803」の「温泉ナポリタン」だ。
「あわら温泉街に佇む隠れ家的ダイニングワインバーのお店です。
福地鶏卵の温泉ナポリタンはとろっと濃厚な味わいでお勧めです。温泉後に立ち寄るのも旅の思い出に良いですね!」(笹井さん)
福井県屈指の温泉街として知られるあわら温泉。その玄関口の1つである「あわら湯のまち駅」(えちぜん鉄道)から徒歩9分ほどの場所にPasta&Wine 1803はある。
2021年6月に開業したばかりで、地元出身のオーナーシェフでソムリエの関山耕人(せきやま・こうじん)さんが選んだこだわりのワインや、地元食材を使ったメニューが楽しめる店だ。
そんな大人な雰囲気の店で提供されているのが、笹井さん推薦の「温泉ナポリタン」。鮮やかな色合いのパスタに福井県の地鶏「福地鶏」の温泉卵が乗っている。
最初の一口でトマトソースの酸味と甘み、ウスターソースの風味が飛び込んでくる。おしゃれでありつつも、どこか懐かしい。
そこに、温玉のまろやかさが加わると味が柔らかくなり、上品さも生まれてくる。
また明日もコレが食べたい――そう思わずにはいられないような、クセになる味わいだった。
福井食材が豪華なフレンチに変身
「福井で一番の食通」たちのおすすめメニューを食べ尽くす旅も、次の店でいよいよ最後。
笹井さんが繋げてくれた最後の食通は、インスタグラムで福井の魅力を発信する「村上姉妹」の姉・村上仁美さんだ。
数多くの福井の観光地や飲食店を紹介してきた彼女が紹介してくれたのは、フランス料理店「cadre (カードル)」のランチメニューだった。
2019年10月に開業したカードルは、食材はもちろん、食器からシェフが使用する刃物まで福井産。旧・朝日町(現在の越前町の一部)出身のオーナー・林真史さんの地元愛があふれる店なのだ。
村上さんおすすめのランチ「シェフのおまかせコース」も、福井の素材を生かしている。
お出迎えのスープとしてテーブルに運ばれたのは若狭湾の甘えびを使ったコンソメスープ。濃厚な磯の香りと深いエビの風味に魅せられる。正直、フレンチとは縁のない筆者は入店から緊張しきりだったが、このスープのおかげで肩肘の張りがかなり落ち着いた。
スープに続いて登場したのが指でつまんで食べる3品が乗ったアミューズ。それぞれ福井産の食材を使用している。
最初に食べたのが白米と黒米を焼いたおかきのようなものの上に甘えびが乗った1品(写真左)。甘えびの濃厚な旨味に気を取られてしまうが、お米の素朴で落ち着いた甘味も楽しめる。
福井産のカリフラワーが使われたタルト(中央)は、クリーミーで重厚感のある甘味で満足感抜群。福井の名産・つるし柿が使用されたフォアグラのマカロン(右)のクリームは塩味と甘味が絶妙に混ざり合っていて、香り高いほうじ茶を使った生地とのコンビネーションが実に優美だった。
アミューズの次に出てきたのは美浜町のブランドぶり「ひるが響」が使われた冷たいブリ大根。軽くあぶられたブリからあふれ出る旨味はクラクラするほど。紅くるり大根や紅芯大根といった色とりどりの大根やオリーブオイルやお酢などをベースにしたビネグレットソースのさっぱりとした風味が合わさることで、程よい余韻だけを残してくれるのが気持ち良い。
続いては、里芋の揚げ団子が運ばれてきた。里芋はもちろん福井産だ。団子の中には池田町で捕獲したイノシシのすね肉を煮込んだものを使い、ソースはあんかけ、上には白髪ねぎを乗せ、山椒とショウガの香りを加えて中華テイストに仕上げている。
パンチのある濃い味付けが魅力的で、とろみのある里芋とイノシシのすね肉の旨味が洪水のように溢れ出してくる。しかし、山椒とショウガのキレの良い香りで調和が取れ、後味がしつこくない。
いよいよ魚料理の順番がやってきた。越前河野のさわらを炭火焼で仕上げ、福井の白菜を使ったチップス、白菜の芯を使ったソースとチョリソーオイルを合わせた1品である。
メインであるさわらの旨味もさることながら、魚のおいしさを引き立てる白菜の活躍に驚かされてしまう。深みがあり、料理全体にボリュームを与えるような白菜のソースと香ばしいチップス。さわらの炭火焼が出てくるだけでも十分満足しただろうが、白菜の存在によって料理が無限の広がりを見せていた。白菜のパワーに感服するしかない。
メインディッシュは、永平寺町で作られる純米吟醸「黒龍」の酒粕で育ったブランド豚「黒龍吟醸豚」を使った1品だ。90分かけてゆっくり火を通した肉を、肉汁ベースのソースで味わう。
しっかりとした弾力がある黒龍吟醸豚からあふれる肉汁、さらにソースの旨味が一気に爆発し、たちまちおいしさの大花火大会が開幕する。何口食べても飽きることはなく、この幸福が永遠に続かないかと祈らずにはいられない。
付け合わせのペーストはトマトや赤パプリカ・ニンニクなどが使われた、ツンとした酸味を持っているもので、これがまた肉と相性が良い。肉の味のキレの良さを際立たせてくれる。この1品が出てきたら最後、「おいしい」という感情からもう逃げられない。
最後に待っていた驚きのデザート
福井にこだわり抜き、かつ独創的なフレンチの数々に驚かされてきた筆者だったが、最大の衝撃は最後に待っていた。カードルでは、最初に席に着くと、料理に使われる食材だけが書かれたお品書きが用意されている。その末尾には、「香り牛蒡(ごぼう)」と書かれていた。
コースの締めがごぼうとは何なのか――そんな疑問を持っていたせいか、その全容が明らかになったとき、思わず声が出てしまった。福井市にある「農園たや」で収穫された「香りごぼう」のデザートだったのだ。
ごぼうをふんだんに使用したアイスクリームと、チップス。アイスを口に入れた途端、豊かで心地良いごぼうの香りがいっぱいに広がってきた。今までの人生で食べてきたもので言えば、カフェオレ風味のスイーツに最も近いだろうか。上品で落ち着きのあるごぼうの風味とミルクの甘味の相性は完璧だ。チップスもほのかなごぼうの香りがアイスの魅力を増幅させる良い役目を担っていた。
2021年にアンテナショップを巡り、それで人よりは福井のグルメを知っていた気になっていた自分が恥ずかしい。やはり、現地でしか味わえない魅力というものがある。
今回は1泊2日の行程だったが、次はもっと長期間の滞在にしなければ。そうでなければ福井の美食沼は極められないはず。
絶対また来るから、待ってろよ――恐竜に誓いを立てて帰路に就いた筆者であった。
<企画編集・Jタウンネット>