幸福度日本一の県民は、いったい何を食べてるの? 東京で買える「福井グルメ」を食べつくしてみた!
新型コロナウイルスの影響で満足に旅行、帰省もままならなかった2020年。
その年末に放送された『第53回年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)で、五木ひろしさんが1973年リリースの名曲『ふるさと』を歌い上げた。
川のせせらぎ、子供の頃にかけ回った野山、忘れ得ぬ友の顔――コロナ禍で遠い存在になってしまった、かけがいのない宝物を思い起こさせた五木さんの歌声は、多くの人の心を打ったことだろう。
埼玉県民の筆者もその一人であったが、それには理由があった。
実は、昨年秋に福井県に訪れる予定があったのだが、コロナの影響で立ち消えになっていたのだ。
関東を飛び出せる久々の機会がなくなり、諦めも感じていた中、福井県・美浜町出身の五木さんが届ける故郷への歌は、福井への思いを再び強くさせるには十分すぎた。
「全47都道府県幸福度ランキング」(日本総合研究所)で2014年、16年、18年そして20年にも1位に輝いた福井県。
県民の日々の生活に幸せをもたらし、おそらくは五木さんの優しい笑顔の源にもなっているであろう「福井の食」を、どうしても味わいたい。
だからといって今、福井に行くのはいくらなんでもマズい。そこで筆者は、都内にあるアンテナショップへ向かうことにした。
1日のすべてを福井のグルメで!
日々、朝食を食べない生活を送る筆者は、どうせなら1日の食事すべてを福井県で染めてしまおうと考えた。
最初に向かったのは、東京の一等地・西銀座に構える「食の國 福井館」。
「福井県の美味しい『食』の専門店」を名乗るこの場所では、多くの食材や酒類の販売も行っている。
店内にはイートインスペースもあり、今回筆者はそこを利用。「かれい漬丼」や「チカッペカレー」といったメニューに誘惑されながらも、まずは昼食として事前に調べて気になっていた、「越前おろしそば」と「ソースカツ丼」をいただいた。
福井の2大ソウルフードと名が高い2品。同時に食べるとかなり量が多いのだが、「食の國 福井館」では欲深い筆者のような人のために、2品を無理なく食べられる「まん福セット」が用意されている。
まず手を伸ばしたのは、「越前おろしそば」。
平たい麺にたっぷりの大根おろし。そして、かつお節。見慣れない組み合わせのそばは、かつて昭和天皇も太鼓判を押したとの逸話も残っているそう。
さっぱりとした風味で非常に優しい味わい。そばというと、つゆや汁の味に引っ張られてしまう場合もあるが、「越前おろしそば」では、そばが持つ甘みと気品のある香りが口を支配し、大根おろしの淡い辛みとかつお節がそれをより引き立たせてくれる。
ジャンキーで味付けの濃い料理ばかりの不摂生な食生活を送っている筆者は、優しい味で体全体を包み込んでくる「越前おろしそば」に母性すら感じてしまった。体は本来、こういう料理を求めているはずなのに、いつもごめん。
と、福井のそばに癒されたところで、続いては、ソースカツ丼をいただく。
ソースカツ丼といえば、福井だけでなく、福島・会津若松などの名物でもある。特に福井にこだわる必要のないメニューにも思えるが、出てきた品を見て驚くばかり。ほかの地域では見かけない、キメの細かい衣に包まれた薄いカツに目を奪われる。
フルーティーで甘みのあるソースと、旨味がギュッと詰まった薄いカツは新鮮だ。カツはカットされていないが、肉が非常に柔らかいため、かぶりつくと簡単に噛み切れてしまう。
ご飯との相性も抜群で、箸がどんどん進んであっという間に完食してしまった。これならミニサイズでなく、並盛でも我を忘れ食べきれていただろう。己の胃袋を過小評価してしまったのが悔やまれる。
温かいご飯にカツだけの非常にシンプルなメニューではあるが、満足感は高級フレンチのコースと同等ではなかろうか。
表参道で福井が楽しめる「ふくい南青山291」
イートインでの食事を満喫し、ここで夕食の調達を...と考えていたが、ほかの客の会話が耳に入ってきた。
「表参道のほうにも福井のお店あったよね?」――これは聞き捨てならない。
調べるとアンテナショップが多く集まる銀座・有楽町エリアではなく、なんと南青山の一等地にも福井のアンテナショップがあるのだ。
筆者はさっそく、そちらに向かった。
表参道駅より徒歩5分程度。骨董通りの近くにある商業施設「グラッセリア青山」内にある「ふくい南青山291」だ。
南青山のおしゃれさに馴染んだセンス抜群の外観。ここでは銀座の「食の國 福井館」と同じく県内のグルメのほか、工芸品なども取り扱っていて、より深く福井の魅力に触れられる。
筆者が店内に入ると、店長の古市宏樹さんが話しかけてきてくれた。
「福井の食材で今日は腹を満たしたい」
そう伝えると店長は、店内を案内してくれただけでなく、おすすめ品まで教えてくれた。
福井愛溢れる店長の熱弁に感銘を受け、おすすめされるがままに商品をカートに入れていく筆者。
気づいたら、とんでもない量の福井グルメを購入していた。
紙袋いっぱいに商品を詰めて、埼玉に帰還。早速、調理して食べたいところだが、その前にこちらを紹介したい。
朝食は食べないくせに15時のおやつはしっかり食べる筆者。
店長おすすめの、福井のロングセラー商品「五月ヶ瀬」をいただく。福井土産のエースであるこの商品は、随分と和風な見た目で、南部せんべいのような印象を受ける。
ところがどっこい。食べてみると、ビスケットやクッキーのようにまろやかなバターの味わいが口に広がり、ピーナッツの香ばしさが味の幅を広げてくれる。見た目に反して、味は洋菓子風。なんとも嬉しい裏切りを用意してくれる憎いお菓子だった。
こんな豪華な食卓が許されるのだろうか
おやつを食べてのんびりしていたらすっかり日も暮れて夕食の時間に。アンテナショップで調達したグルメで、埼玉にいながら福井を味わっていこう。
まずは、太白胡麻油100%で揚げた、谷口屋(坂井市)の「太白おあげ」から。
店長によると、福井は油あげ消費量日本一という、超がつくほどの「おあげ県」。
好きだからこそ品質には厳しい福井県民に愛され、油あげのレストランまで運営しているのが、谷口屋だ。
谷口屋では、菜種油でじっくり長時間かけて揚げた「谷口屋のおあげ」が看板商品なのだが、あまりの人気ぶりに、あいにくアンテナショップでは完売していた。そこで、もう一つの看板商品、ラスト1つだけ残っていた「太白おあげ」を購入。
今回は、これをフライパンで焼いて、たっぷり刻みねぎと適量の醤油を掛けて、シンプルにいただいた。
ふわりとした油あげの食感を感じたのも束の間。大豆の旨味と甘みが広がり、頬がゆるんでしまった。
油で揚げられていながらさっぱりとしていて、それが大豆の良さを引き立てており、箸が止まらなくなってしまう。1パック丸々食べたくせに、まだ足りない。一度食べたら、もうおあげの虜になるのは必至だ。
埼玉県で福井のカニを堪能
福井の特産品、カニ。ズワイガニのトップブランド「越前がに」がよく知られている。
アンテナショップに行く前はカニを買って鍋にでもしようと思ったが、店長が意外な商品を勧めてきた。 それが「せいこがにの甲羅盛り」だ。
せいこがにとは、ズワイガニのメスのこと。メスのズワイガニは、産卵で成長が止まってしまうため、オスに比べると非常にこぶりではある。
ただ、メスにしかない魅力がある。それが外子と呼ばれる受精卵、内子と呼ばれる卵巣だ。これに、かにみそ、身の部分と、メスのカニの魅力をいいとこ取りしたのが「甲羅盛り」。
「これはおすすめの珍味です。今日僕に会ったからにはぜひ」
と店長から念押しされただけあり、プチプチ食感に潮の香りが漂う外子。深みのある高貴な旨味をじっくり味わえる内子、さらにかにみそと身の王道と、小さいながら魅力は無限大だ。
せいこがにの甲羅盛りは、もちろん白米にも合うのだろう。ただ、それ以上に合うのが「かに釜めし」だ。
こちらもアンテナショップで手に入る品で、ベニズワイガニを100%使用し、出汁にもかにの殻が使われている。ご飯に加えて炊くだけでできる簡単さも魅力だ。
付属のかにみそも投入して炊き上げると、自宅で炊いたご飯とは思えないほどの芳醇なカニの香りが食欲をそそる。 溢れる旨味はこれだけでも十分に満足だが、外子や内子といった「甲羅盛り」の中身と一緒に食べれば有頂天になってしまうこと請け合いだ。
「目には目を歯には歯を」という言葉があるが、カニにはカニが一番合う。せっかくの贅沢な夕食をより良くするためにも、釜めしは必須メニューとも言える。
これぞ冬の晩酌の最高峰!
アンテナショップで購入したグルメは、まだまだ尽きない。
福井といえば、これを思い浮かべる人も多いだろう「へしこ」もしっかりゲットした。
へしことは、日本海沿岸の漁師町を中心に古くから作られてきた福井の郷土料理で、サバなどの魚をぬかと塩で漬け込んだものだ。
たくさんとれた魚を腐敗させないための保存法で、福井では家庭でも作られているという。
これを食べずして福井を語るわけにはいかないだろう。
今回は五木ひろしさんの地元・美浜のおっかさんたちが手作りする美浜町なぎさ会の商品を選んだ。
へしこは、少しずつ切り取って、糠を多めに残して火で炙るのがポイント。ただ、今回はへしこが半身もあるので家族から「俺にも食わせろ」との圧力を掛けられたため、仕方なく半身をほど良くカットして、すべて焼いた。
糠漬けとはいえ、臭みはなく、むしろ香りは良い。
そのため、開封した瞬間に期待度が高くなってしまい、つい欲張ってしまいそうになるが、あまり大きめにカットしないことを勧めたい。
というのも、今回筆者は初めてへしこを食べたのだが、思った以上に塩気が強かった。さすがに一気に多くの量を食べるのは難しい。少しずつ、一切れを大切に食べれば、塩気が引き立てる芳醇なサバの味を堪能できる。
そして、ここまで塩気が強いものを食べると欲しくなるのが、お酒。もちろん、合わせるのは福井の地酒だ。
今回店長におすすめされたのは、福井の地酒「一本義」(勝山市、一本義久保本店)の中でも、春の季節酒である「アラバシリ」。酒を絞る際に最初に出てきたものをアラバシリと言うそうで、かつては酒造り人しか味わえなかったそう。
味が安定しているという、中間に出る部分「中取り」と違い、荒々しい味わいが特徴だとか。
実際に飲んでみると、角の取れた風味で非常に飲みやすい。フレッシュでジューシーな味わいで、すっきりとしている。後味もフルーティーで、華やかな余韻が体に染み渡ってくる。
へしことの相性は言うまでもなく、福井のつまみと酒だけで、ハートエイクは吹っ飛んでいくだろう。
冬の福井ならではのデザート
食後のデザートは福井の冬の名物・水ようかんだ。
今でも県内80のメーカーがひしめく、福井の水ようかん市場。
福井県が作成した水ようかんに関する冊子によると、「雪が降る寒い時期に、こたつに入って、冷やした水ようかんを食べるのが福井の習わし」。
糖度が低く、腐敗しやすい水ようかんだが、冬の福井では廊下や縁側が自然の冷蔵庫の役割を果たす。そのため、気温の低い時期が「旬」になったといわれているという。
アンテナショップにもいくつも並んでいたが、今回目をつけたのが、「シュトラウス金進堂」(越前市)の水ようかんだ。
ドイツ・ウィーン洋菓子のお店で作られた、水ようかんとしては異質な存在。実は、シュトラウス金進堂はもともと、1924年に創業した和菓子店だったそう。
水ようかんには、一般的な黒糖ではなく、三温糖が使われている。王道とは一線を画す存在ではあるが、美味しさは一級品。
なめらかな水ようかんから放たれる控えめな甘さは、くせになること間違いなし。
実のところ、甘味やようかんが苦手な筆者は、おすすめされるがまま購入して少し後悔もあった。ところが、絶妙な甘さと余韻の少ないさっぱりとした味わいにイチコロ。クラスでは地味で目立たない女の子の魅力に気づき、恋い焦がれた青春を想起させる。
11月から3月頃までしか味わえない、冬の天使。福井の水ようかんを食べるなら今しかない。
食前のおやつから、食後のデザートまで。贅沢な時間を過ごし、大満足の筆者。
ただ、食を通じて、福井への思いはより強まってしまった。やはり現地で、思う存分食べたい!
<企画編集・Jタウンネット>