江戸の宿場町から昭和の港町まで... ローカル線&路線バスで巡る「なんちゃってタイムスリップ福井旅」
歴史を感じる赤レンガ造りや長い年月によって味わいを増した木造建築の柱の色味、そして新しい建物にはなかなか施されないような立派な装飾――古い建物って、たまらなく魅力的だ。
そんな建物がずらりと並ぶ中は、歩いているだけでワクワクする。歴史の香りが色濃く残る街並みやレトロスポット......日本各地に存在するそれらのなかで、今回筆者がご紹介したいのは、福井県南部にある「嶺南(れいなん)地方」だ。
江戸時代の町屋や明治時代の赤レンガ建築、そして重厚感あふれる昭和の銀行建築と、ここでは様々な時代の街並みを満喫することができるのだ。
まるでタイムスリップを繰り返しているような、レトロで不思議な旅の一端を、皆さんにお伝えしよう。
江戸時代の茶屋街を散策
まず筆者が降り立ったのは、福井県南西部・小浜市にあるJR小浜駅。
向かうは駅から10分ほど歩いたところにある「小浜西組」地区だ。
明治期から昭和期にかけての歴史ある建物などが多く存在する場所で、市の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されている。
表通りから何本か奥に入ったところにある三丁町は、昭和初期まで茶屋町として栄え、その面影を色濃く残す。筆者が訪れた日は平日だったこともあってか、とても静かだった。
広くはない道の左右には、風情ある木造建築がずらりと立ち並ぶ。目の細い千本格子の家が目立つのが花街らしい。
他にも、1889(明治22)年に建てられた元薬店蔵の「白鳥会館」や1925(大正14)年に建てられた「高鳥歯科医院」など、国の登録文化財に指定されている西洋風建築もある。和風と洋風、どちらも一気に見られるなんてお得だ......!
明治時代の芝居小屋へ
小浜西組地区から駅の方に向かって表通りを戻っていくと、道なりにぽつぽつと灯篭(とうろう)が並んでいた。明治期に芝居小屋として栄えた「旭座」のものだ。秋祭りやクリスマスイルミネーションの時期などに期間限定で設置されているという。
旭座は福井県に現存する近代最古の芝居小屋で、昭和中期に酒造店の倉庫として使用されていたのを最後に、長く手つかずになっていた。しかし県の建築士会青年部や市民有志からの保存と活用の要望を受け、2014年に市の文化財に指定。2016年には、まちの駅として移築・復原された。
旭座自体は明治初期から劇場として営業していたとされているが、現在復原されているのは1910(明治43)年に整備されたときの姿だと考えられている。今も、当時の木材等が約40%残っているそうだ。
一般の観光客でもまちの駅の案内所で声をかければ中を見学することは可能とのこと。早速、中に入れてもらった。
中も、花道や桟敷席、舞台と当時の雰囲気をそのままに、見事に再現されている。
各所に古く太い柱や梁が使われており、なかには明治時代の職人が残したメモのようなものも見ることができた。100年以上前の人たちの息づかいを感じる......。
この旭座は現在、落語や演奏会、映画の上映会等で活用されているそうで、舞台設備やトイレ、楽屋などは最新のもので整えられていた。
今度は観客として訪れて、芝居小屋としての熱気を味わってみたいものだ。
「鯖街道」随一の宿場町
明治から昭和の雰囲気を存分に楽しんだ筆者が次に向かうのは、江戸時代。
JR小浜駅から西日本JRバスに乗り、約30分。到着したのは、「熊川宿」だ。
若狭で獲れた魚介類を京都に運ぶために使われ、中でもサバが人気だったことから「鯖街道」と呼ばれた街道の宿場町として賑わったこの地にも、当時の街並みが残っている。
こちらは、1624年から44年の寛永年間に当時の小浜藩主・酒井忠勝が設けたとされている「熊川番所」。2人の役人が勤めており、厳しい統制や物資への課税等を行っていたそう。
番所廃止後はしばらく民家として活用されていたが2002年に復原され、現在の形となった。
当時を再現し、2人の役人の人形が展示されているほか、番所内には刺又や突棒など、罪人を捕えるのに使用していた道具が展示されている。
また、熊川宿には「前川」と呼ばれる用水路が流れている。
かつては人馬の飲み水や生活用水にも使用されていた、豊富で激しい水流が特徴的な水路だ。平成の名水百選にも選ばれていて、今でも農業用水として用いられているらしい。
筆者が訪れたときはのんびりとした空気が流れていた熊川宿だが、現代にも残っている番所や水路、そして町家の数々を見ていると、活気ある宿場町として賑わっていたころの様子が目に浮かぶようだった。
鯖街道らしいメニューで一服
小浜から引き続き、たくさん歩いて小腹が空いてきた。どこかにお店はないものか、と探していたら立ち並ぶ古民家のなかにオシャレな看板を発見。早速入ってみよう。
ここは東京都台東区蔵前発のコーヒーショップ「SOL'S COFFEE」の系列店、「SOL'S COFFEE LABORATORY(ソルズコーヒーラボラトリー)」。築130年の土蔵を改築したという店内は明るく、コーヒーのいい香りが漂っている。
コーヒーやカフェオレといった飲み物だけではなく、軽食もいくつかカウンターに並んでいる。どちらのメニューも豊富で悩んでしまったが、最終的には人気の「鯖キッシュ」と本日のコーヒー(各税込500円)を注文した。
キッシュにサバを入れる発想はなかったが、食べてみてびっくり。バターが効いたさくさくとしたパイ生地と、しっかりした味のサバの身(ごろっと入っていた!)は相性抜群で、色鮮やかな野菜もアクセントになっていてとても美味しい。
これならいくらでも食べられそうだ。サバの新たな楽しみ方を教えてくれるとは、さすが鯖街道......。
同店スタッフによれば、県内企業で生産されているサバの水煮缶を使用しており、特に大切にしているのは「サバの存在感」。キッシュはテイクアウトもでき、夏には冷やして食べるという人もいて、おつまみとしても大人気らしい。
美味しいコーヒーとキッシュで温まったところで、1日目は終了。
西日本JRバスとJR小浜線を乗り継ぎ、2日目に散策予定の敦賀方面に向かった。
甘くない抹茶パフェ...だと?
2日目は、古代三大要津(港)のひとつで、明治時代にはヨーロッパと日本を結ぶ窓口となった「敦賀港」周辺を、「ぐるっと敦賀周遊バス」を使って巡る。
現在も大型船舶が多く乗り入れる西日本の一大ターミナルでありながら、歴史ある街並みを多く残している。敦賀駅前から周遊バスに乗り込み、まず降りたのは「気比神宮」の近く。
最初の目的地である「中道源蔵茶舗」が、この神社のすぐそばにあるのだ。
江戸から明治にかけて運送業に携わり、戦後に日本茶専門店となったというこの店。
店内には「日本茶を日常に届ける」をモットーに、日本茶ソムリエの資格を持つ店長の中道尚子さんが選んだ茶葉や茶器などが並ぶ。
以前は、主に100や200グラム単位で茶葉を販売していたが、最近では1杯分の5グラムや、50グラム程度の使い切りサイズの販売もしているそう。普段茶葉でお茶を入れる機会の少ない人にも嬉しい計らいだ。
「家族の人数が昔と比べて減ってきている今、新鮮な茶葉でお茶を楽しんでもらうために少量での販売をはじめました。日常的に、毎日美味しく飲めるようなお茶を煎茶やほうじ茶、番茶、玄米茶...と12種類ほどセレクトしております」
と中道さん。中でもオススメとして、最もポピュラーで人気もあるという深蒸し煎茶の「あさつゆ」を紹介してくれた。
同店では近くに気比神宮があることから「参拝される方にゆっくりしていただければ」との思いで、2018年から喫茶営業も行っている。
寒すぎる冬の日ではあったが、その魅力的なビジュアルに惹かれ、筆者は一番人気の「お濃茶パフェ」(税込880円)を注文した。
ひとくち食べてみて、びっくり。
なんと抹茶ソースが甘くないのだ! しかし、ソフトクリームや小豆の甘さと抹茶本来の濃厚な苦みがぴったりで、どんどんスプーンが進んでしまう。
これは、甘党の人はもちろん、甘いものがあまり得意じゃない人でも美味しく食べられるのではないだろうか。しっかりとお茶の香りと味がするパフェは、まさにお茶屋さんならではといったパフェだった。
港町らしい建物と街並み
腹ごしらえを済ませた筆者は再び「ぐるっと敦賀周遊バス」に乗り、様々な場所を巡る。
例えば「博物館通り」で降りれば、町屋を活用したカフェやショップ、毎年9月に行われる「敦賀まつり」で巡行する山車が展示されている「みなとつるが山車会館」や高木栄子さんの作品が展示されている「創作和紙人形 紙わらべ資料館」など、敦賀の歴史に触れられる施設がずらり。
その中でもひときわ目立っていたのが、昭和初期に建てられた旧大和田銀行本店(現在は敦賀市立博物館)だ。堂々とした建物から当時の銀行の繁栄を感じ、圧倒された。
また、「金崎宮」停留所で下車すれば、列車の灯火に使用されるカンテラの燃料を保管する油庫として使われていた「旧敦賀港駅ランプ小屋」や、1905(明治38)年に外国人技師の設計により石油貯蔵庫として建てられた「敦賀赤レンガ倉庫」などレンガ造りの建物が見られる。
旧敦賀港駅ランプ小屋は、まるで絵本の中に出てくるような、まさに「小屋」といった小さくて可愛らしい見た目でほっこり。また、海に向かって並ぶ頑丈そうで立派な赤レンガ倉庫には、港町らしさを感じた。筆者が訪れた日は休みだったが普段は国際都市敦賀の街並みを再現したジオラマを展示した「ジオラマ館」や、レストランとして賑わっているようだ。
ヨーロッパへの玄関口 「敦賀港駅舎」を再現
港町らしい異国情緒あふれる雰囲気を楽しみながら、そのまま道なりに進んでいくと、「敦賀港駅舎」に辿りつく。
かつてシベリア鉄道を経由してヨーロッパへと続いていた「欧亜国際連絡列車」の発着駅だった「敦賀港駅」。その駅舎を再現したこの建物は、現在「敦賀鉄道資料館」として活用されている。
そして港沿いには、こんなレトロな倉庫群も。
1933(昭和8)年に建てられ、今も現役で使用されているこの倉庫群。「旧敦賀倉庫株式会社新港第一号・第二号・第三号倉庫」として2014年、登録有形文化財に指定された。シンプルなデザインや水平に連続して並ぶ窓などからは、当時世界的に流行していた「国際様式」という建築様式の影響を見ることができる。
小浜や熊川宿とはまた違う雰囲気の、どっしりと重厚感のあるレトロな建物がいっぱいな敦賀の街。
冬の海風を感じながら、敦賀港を眺めていたら、だんだんと暗くなってきた。しかし、今日はここで帰るわけにはいかない。なぜなら、筆者が訪れた日は北陸最大級のイルミネーション「ミライエ」が実施されていたからだ。
2021年は11月3日から12月25日まで実施されていた「ミライエ」。敦賀港の年末の風物詩である。
一面に光る青い電球や光のトンネルは圧巻で日本海側ではじめて鉄道が敷かれた敦賀らしいSLや気比神宮の鳥居といったご当地ならではモチーフのものがあるのも可愛らしい。
きらびやかなイルミネーションを見て――急に令和に戻ってきたような気持ちに。この2日間は、まるで江戸時代から現代まで、タイムスリップを繰り返しながら駆け抜けてきたみたいだった......。
歴史やレトロスポットに目がない皆さん、一気にいろんな時代を楽しみたいなら福井・嶺南に足を運んでみてはいかが?
今回筆者が巡ったルート以外にも、福井県内にはレトロで魅力的なスポットが色々ある。だが、港町や宿場町としての福井の歴史に触れることができる「嶺南レトロ旅」を、ぜひおすすめしたい。
冬空の下で見るレトロな街並み、最高だった。
<企画編集・Jタウンネット>