「怖い体験」を100円で買い取ってくれるお店があった 尼崎の怪談作家が営む「売買所」に注目集まる
「怪談を百円で買い取る男」
「私はもともと怪談作家をやっており、実際にあった怪異な体験を集めて、それを本にまとめたり、怪談ライブで語ったりしています。そのようにして発表された怪異な体験は『怪談実話』、あるいは『実話怪談』と呼ばれます。怪談実話は自分で考えたり作ったりすることが出来ないため、取材が不可欠となります。
ところが、誰もがそのような体験をしている訳ではなく、またそのような体験があったとしても、本に収録したり、ライブで語るほどの希少性やインパクトを持ち合わせているとは限りません」
以前は周囲の人に聞いたり、さらにその人の友達や家族を紹介して貰ったりして、何とか怪談実話を集めていたのだが、それにも限界があった。
そこで、効率良くそのような体験談を集める方策として、何となく夢想していたのが「怪談売買所」だったという。
「自分から探しに行くのではなく、自分は一つ処にじっと座って待っていると、向こうから体験談を持ってやって来てくれる。そんな状況があれば、どれほど楽かと。
しかし、当初それはあくまで夢想していただけで、そんな企画をやっても誰にも相手にされることはないだろうと思っていました」(宇津呂さん)
転機が訪れたのは、2013年。以前から懇意にしていた尼崎市の三和市場にあるイベントスペース「とらのあな」店長から、「今度、市場で屋台村イベントがあり、畳二畳ほどの場所を提供できる。何かやりませんか?」という話を持ち掛けられた。
「そこで冗談半分に怪談売買所の企画を話したところ、店長は面白がってくれて、やってみることになりました。
結果としては、お客さんも市場の関係者も皆さん面白がってくださり、私の予想に反して興味深いお話がたくさん集まりました。
店長からもまたやって欲しいと言われ、そこからたびたび出店するようになったのです」(宇津呂さん)
最初は三和市場で年に数回出店する程度だったが、続けていくうちに新聞やテレビなどでも取り上げられるように。
地元での知名度も少しずつ上がってきたことにより、次はいつやるのかと聞かれたり、三和市場以外からも出店依頼が来たりと、徐々に「怪談売買所」は周囲に浸透していったという。
「最初の出店は2013年6月のこと。その際は確か8組ほどの方々が来られました。それ以降、三話市場以外の場所も合わせて年に8回から10回出店しています。
毎月出店するようになったのは、2019年3月から。出店するたびに、3組から多い時で20組以上の方が来られます。誰も来られなかったことはほとんどありません。
来られた方の正確な人数は分かりませんが、ざっと数えてみて延べ600組ほどの方々が来られたかと思います」(宇津呂さん)
冗談半分で始めた企画だったとのことだが、なかなか繁盛しているもよう。
ついには怪談売買所で集められた怪談ばかりを、取材の模様とともに収めた書籍も刊行され、宇津呂さん自身も「怪談を百円で買い取る男」なる二つ名で呼ばれるようにもなったという。