広島から事故と渋滞がなくなる日 誰もが安心して暮らせる街へ...「未来の広島」の姿とは
右折車両の存在を運転士に通知
実証実験プロジェクトは、中電技術コンサルタントを中心に、広島大学、東京大学、自動車技術総合機構交通安全環境研究所、広島電鉄、マツダの6産学官がコンソーシアムとして手を組み、2019年から開始。
19年度にシステム構築、機能試験をしてきた広島市内2か所に「通信型ITS路側機」、路面電車4両、路線バス3両に「通信型ITS車載器」を設置し、20年7月から通常運行で交通信号情報の受信が可能になっている。
そして10月14日に行われた試乗会では、ITS車載器を実験用の普通自動車にも搭載。交通信号情報のほか、一般車両の位置情報も路面電車、路線バスで受信していた。これらの仕組みは、総じて「安全運転支援システム」と呼ばれている。
安全運転支援システムを路面電車に搭載することで、広島の交通はどう変わるのか。電車に乗って揺られていると、さっそく情報が送られてきた。
届いたのは「信号情報」。現在は「青」だが、車内に設置された支援モニタには、現在の信号と「赤」に変わるまでの残り時間が表示されている。信号機に取り付けたITS路側機から受信した情報だ。
取材時点で信号情報を受信できる交差点は、20年1月に設置した舟入本町と千田町3丁目の2か所。主な技術面を担う東京大学生産技術研究所の須田義大教授によれば、今後は市役所前(国道2号)に設置を予定しているという。
そして今回の試乗会で実験を行ったのが「支援情報」の受信。ざっくり言えば、接触事故を防ぐため、運転士を支援するための情報だ。
モニタの信号情報の下に表示されていて、左の車線に右折自動車がいることを教えてくれた。
信号が赤に変わり、モニタに右矢印が表示されると、赤い自動車が前方を右折していった。この自動車は今回の実験用にITS車載器を搭載しており、右折情報が路面電車に伝えられたというわけだ。
このように車と車の間で行われる通信は「車車間通信」、先ほどのように信号機(道路)と車の間で行われる通信は「路車間通信」と呼ばれる。
そして、しばらく走っていると再び支援モニタが反応。
今度は交差点の右方向から赤い車が登場した。
当然ながら、今回の実証実験では、ITS車載器を搭載した実験用車両の支援情報しか届かない。
だが、もしすべての自動車にITS車載器を実装し、路面電車や路線バスの運転士を支援することができれば――きっと、接触事故のリスクは大きく減ることになるだろう。
なお、通信型ITSではほかにも、交差点を渡る歩行者情報(路車間通信)や、路面電車に隠れている対向右折車の存在(車車間通信)を受け取ることができる。
筆者が乗車したのは路面電車だったが、支援モニタは同時に実験を行っていた路線バスにも設置されていた。こちらも同様に、横断歩道上の歩行者の存在情報や電車の接近情報を、路車間通信や車車間通信を介して受信することができる。