被災した子供達のため、売上は全額寄付 宮城の酒蔵が造り続ける「恩返しの酒」
宮城県の「一ノ蔵」と聞けば、日本酒好きな人なら、思わず目を細めるかもしれない。知る人ぞ知る銘酒を醸(かも)す酒蔵だ。
その一ノ蔵が、東日本大震災で被害を受けた子供たちのために、あるプロジェクトを行っていることをご存じだろうか。その名は、「3.11未来へつなぐバトン」。この名称を掲げた特別純米原酒が販売され、その売上金の全額が子供たちの支援のために寄付されているという。
ツイッターにはこんな声が寄せられ、話題となっている。
「一の蔵は安くて美味しい、本当にいいお酒ですね。 恥ずかしながらこの取り組みを知りませんでしたが、ますます好きになりました」
「なんと素晴らしい企画なんでしょう。 知らなかったです」
「これは本当に素敵な取り組みだと思います。 人の心や成長にも復興が必要ですからね」
いったいどんなプロジェクトなのか? Jタウンネット編集部は、2020年3月13日、一ノ蔵の担当者を取材した。
寄付総額は約5300万
――特別純米原酒「3.11未来へつなぐバトン」の企画意図は?
「東日本大震災直後、先行きが見通せない不安の中、全国はもとより、世界中の皆様からたくさんの温かいご支援を頂戴し、それが心の支えとなり弊社は早期に事業を再開することができました。その時に賜りました『ご恩』に対して、ご支援いただいた皆様に何か報いる術はないか社内で協議してまいりました。
そんな折、津波被害を受けた地域の社員から、子どもたちがとても困難な状況にあることを知らされ、将来の日本を担う子どもたちを救うことで皆様から賜ったご恩を次代に送ろうと考え、2011年12月に社内プロジェクト『未来へつなぐバトン醸造発酵で子供たちを救おうプロジェクト」を発足し、12年2月より『3.11未来へつなぐバトン』のお酒を、タンク1本分(白米総量3000キログラム)造り、弊社売上金全額を被災した子どもたちの学習や生活支援をされている『公益社団法人ハタチ基金』様へ寄付することといたしました」
一ノ蔵の19年の寄付額は約628万円、12年から19年までの寄付累計金額は約5300万円に及ぶという。
また、特別純米原酒「3.11未来へつなぐバトン」の原料米には、宮城県の酒造好適米「蔵の華」が使われている。蔵の華は、松山町酒米研究会が農薬や化学肥料に頼らず丹精込めて栽培した、環境保全米だ。
「子どもたちの支援だけでなく、原料米には農薬や化学肥料に頼らない地元米を使用して、ふるさと(宮城県大崎市)の自然を守り、豊かな自然を子どもたちに残していこうという思いも込めました」と担当者は語る。
―― 「一ノ蔵」と「ハタチ基金」とのつながりは?
「『ハタチ基金』様を支援先にした理由は、震災直後から被災地に入り子どもたちの支援を積極的に行われていたことと、震災時に0歳だったお子さんが20歳を迎えるまでご支援される趣旨に賛同したからです」
そう、ハタチ基金とは、「東日本大震災発生時に0歳だった赤ちゃんが、無事にハタチを迎えるその日まで」をコンセプトに、被災地の子どもたちのサポートを継続的に行う期限付きの基金だ。
この基金は、被災孤児、及び被災地の子どもの心のケアに合わせ、学び・自立の機会を継続的に提供するために設立された。東日本大震災発生時に0歳だった赤ちゃんが震災の苦難を乗り越え、社会を支える自立した20 歳へと成長するよう、活動を続けている。
ハタチ基金を通して支援されるのは、たとえば次のような団体だ。
認定NPO法人フローレンス。生活再建をしながらの子育てを支える保育園兼相談所「おうち保育園」を運営している。仙台市で、親子を支えるセーフティーネットとなる「保育ソーシャルワーク」機能を果たしている。
認定NPO法人カタリバ。「コラボ・スクール」という愛称で親しまれる放課後学校を岩手・宮城・福島の3県で運営している。各年齢に合わせ、心のケアと学びの機会を提供している。
NPO法人トイボックス。南相馬市で、「みなみそうまラーニングセンター」を運営している。発達障害やさまざまな課題を抱える子どもたち、そして地域の子どもたちへの総合学習支援を行っている。
その他、塾・予備校・習い事などに利用できる「スタディクーポン」を提供する公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンや、受験指導「タダゼミ」や自習学習スペース「Sリビング」などで支援するNPO法人キッズドアなども含まれる。
読者が特別純米原酒「3.11未来へつなぐバトン」を購入すると、その売上金が「一ノ蔵」から「ハタチ基金」を経由して、上記の団体に届けられるのだ。
一ノ蔵「3.11未来へつなぐバトン」を飲むと、東北の子どもたちを助けることにつながる。 どうせ飲むなら、こんな酒を飲みたい。