明治時代にタイムスリップ! 「岩手銀行赤レンガ館」の内部建築が最高すぎる
岩手県の県庁所在地・盛岡市は、旧南部藩の城下町であり、石川啄木や宮沢賢治が青春時代を過ごした街としても知られる、歴史と文化を誇る都市だ。ここに1911年(明治44年)に建てられたという赤レンガ造りの洋館がある。「岩手銀行赤レンガ館」だ。
場所は、啄木が「不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の心」と詠んだ、盛岡城(旧不来方城)のすぐ近くだ。北上川の支流・中津川に架かる中の橋付近で、盛岡市中心部のランドマークとなっている。
この「岩手銀行赤レンガ館」について、2020年1月15日、次のようなツイートが投稿され、話題となっている。
2012年まで盛岡市の岩手銀行中の橋支店として使用されていた旧岩手銀行本店本館が内部公開されてんだけど、フラッと寄ったら想像以上に最高だった。
— 幣束 (@goshuinchou) 2020年1月15日
明治44年の建築で国指定重要文化財。営業中から既に重文指定されていたそうで。こういう国内美しい近代建築をもっと見て回りたいものです。 pic.twitter.com/rgIq89s2pc
「フラッと寄ったら想像以上に最高だった」という感想と共に、投稿者の幣束さん(@goshuinchou)が撮影した写真が添えてある。
この建物は、東京駅の設計者として名高い辰野金吾の設計。1994年に国の重要文化財に指定され、岩手銀行中ノ橋支店として2012年まで営業を続けていた。その後、復元工事に入ったと聞いていたが、内部公開が始まっていたのだ。
ツイッターには、「何回か前を通ったことあるけど、内部も見ることができるのか」「天井高いっすね~」などといった反響が寄せられ、22日15時時点で6600を超える「いいね」が付けられている。
Jタウンネット編集部は、「岩手銀行赤レンガ館」について詳しい話を聞いてみた。
内部公開の見どころは
Jタウンネット編集部の取材に答えてくれたのは、岩手銀行広報CSR室の担当者だ。
まず、内部公開のきっかけを聞いた。
「1994年(平成6年)に現役の銀行として初めて国の重要文化財に指定され、2012年(平成24年)8月まで営業していましたが、建物の老朽化、東日本大震災の影響もあり銀行としての営業を終了しました。
その後、地域の賑わいを生み出す建物として活用しようと、約3年半に渡る保存修理工事を行い、現在は公開施設としています。
銀行時代に営業室として使用していた多目的ホールは、地域の方々の発表会、作品展などに活用していただいています」
内部公開の見どころについては、
「旧建築様式が復元されたエントランスホール、応接室、金庫室など、創建当時の様子が伺える空間がご鑑賞いただけます。多目的ホール上部のシャンデリアも見どころのひとつです」
と話していた。
設計は辰野金吾の他に、岩手出身の協力者がいたそうだが、
「辰野金吾と、その教え子で盛岡出身の葛西萬司があたりました。館内装飾のどこまで辰野金吾が手がけたのかは分かりません」
とのこと。
そこで、Jタウンネット記者は葛西萬司について調べてみた。
「葛西萬司は1863年(文久3年)7月21日,盛岡上衆小路(現:盛岡市下ノ橋町)にて盛岡藩士鴨澤舎の次男として生まれた。盛岡藩士であり,のちに岩手銀行頭取となる葛西重雄の養子となり葛西姓を名乗る。
12歳で上京した後,慶応義塾,第一高等中学校をへて,1890年(明治23年),帝国大学工科大学造家学科を卒業した。同年,日本銀行建築科へ技師として就職,そこで辰野金吾とともに建築の仕事に従事した。1903年(明治36年)8月,辰野とともに辰野葛西建築事務所を開設する」(盛岡市のホームページ内『盛岡の先人たち』第44回より)
全国を駆け回っていた辰野金吾に代わって、盛岡市内の現場の細部にまで目を配っていたのは、盛岡出身の葛西萬司であったかもしれない。九州佐賀の唐津藩出身の辰野よりも、盛岡出身の葛西の方が自然に力が入ったのではないだろうか。
また明治時代後期、地元の人々が話す南部弁を九州人の辰野が正確に理解するのは、相当に難しかったはずだ。単に方言だけでなく、気質の問題もある。そこで盛岡出身の葛西に頼る部分も多かったのではないかと、Jタウンネット記者は想像する。
「東京駅に似ている」と言われるが...
もう一つ注目すべき点は、1911年竣工という時期である。東京駅開業が1914年(大正3年)だから、3年前だ。外観を見て、東京駅に似ているという人が多いが、正確には、東京駅が岩手銀行に似ているのだ。東京駅のモデルケースが、この岩手銀行というわけだ。
東京駅の設計も、辰野葛西建築事務所が手がけた。葛西萬司は辰野金吾とともに大いに力を発揮したのだ。岩手銀行で試した技術を、東京駅に応用してみたなんてこともあるかもしれない。建築素人のJタウンネット記者の妄想はまたまた膨らんでしまった。
岩手銀行赤レンガ館の内部を見学するとき、東京駅と比較してじっくり細部を見るのもおもしろいだろう。辰野金吾と、盛岡出身の葛西萬司の力作は、必見ものだ。
観光客の反響はいかがですか? と聞くと、
「観光誌等でも取り上げていただいているため、多くの観光客の方に訪れていただいています。海外からいらした観光客の方も多いです」
と、広報担当者。
投稿は目下SNSで拡散中だが、
「直接の反応はいただいておりませんが、SNSで拡散していただいているのは拝見しています。もともと『地域の賑わいを生み出したい』という目的で公開した建物ですので、多くの方に知っていただき、盛岡、岩手に来ていただくきっかけになれば嬉しいです」
と話している。
盛岡に行く機会があれば、岩手銀行赤レンガ館の中をぜひ探訪したいものだ。