湯と梨と浜、だけじゃない! ブックカフェにミニシアターも...「田舎ぐらし」のイメージ変わる湯梨浜カルチャー探訪録
「地方に移住する」――そう聞いて皆さんが思い浮かべるのはどんな生活だろう。
やはり、切っても切り離せないのは「自然」かもしれない。海、山、湖......豊かな自然に親しんで、きれいな空気の中でのびのびと体を動かす。その自然が育んだ、新鮮な作物をいただく。
Jタウンネットではこれまで、まさにそんな体験ができる場所として鳥取県湯梨浜町を紹介してきた。
鳥取県のほぼ中央にあるこのまちで、東郷湖から湧き出る温泉や「グラウンド・ゴルフ」、SUP(スタンド・アップ・パドルボード)に釣り、地元の名産品である梨の収穫など、様々なアクティビティを楽しみ、レポートしたのだ。
もちろん、どれも魅力的な体験だった。しかし、これだけでは読者の皆さんの中に誤解が生まれてしまうのではないだろうか?
湯梨浜町は"アウトドア派向けのまち"であると......。
しかし、湯梨浜町にはそれだけではない魅力がある。
読書に映画――そんなワードに心が躍る皆さんにこそ読んでほしい「湯梨浜探訪記」。いざ、スタートです!
本や音楽の世界に飛び立つ「空港」
――東郷湖の南東に、ちょっと不思議な本屋さんがある。
今回の旅に出る前、筆者はそんな噂を耳にしていた。
湯梨浜と、不思議な本屋さん。なんだか今までのイメージとはギャップを感じる組み合わせだ。
いったい、どんな場所なんだろう? 気になった筆者は、JR松崎駅からほど近い場所にあるその書店「汽水空港」を訪れた。
道路に面してポツンと建っている小さな小屋。一見するとこぢんまりとした印象を受けるが......。
中はこの通りかなり奥行きがあり、様々な本がズラリと並んでいる。
一角には小さなカフェスペースがあり、オリジナルブレンドコーヒーやチャイなどを注文可能。木のぬくもりを感じられる店内で、ドリンク片手にゆったりしながら、本の世界へ......。とても贅沢な時間を過ごせそうな空間だ。
「汽水空港のキャッチコピーは、『世界に幅と揺らぎあれ』。 『幅』というのは、人間の生き方や常識、選択肢の幅で、それらをもっと広げたい。また、『揺らぎ』は人の考え方や価値観。それらは、今見えてる物がベストなわけではなくて常に移り変わりゆくものだから、人間や他の生物がよりのびのびできる世界を夢見て、そのために何が必要かということを考えていく場所にしたい」
店主のモリテツヤさんは、そんな思いを込めて汽水空港を運営している。
「どこかの田舎で農業をしながら本屋を開く」。そんな目標を持ち、かつては全国を放浪していたというモリテツヤさん。
鳥取県にやってきたのは2011年。最初の家はもっと山奥にあったが「そこでは本屋をやるビジョンがあんまり見えなかった」。
「そんな時に湯梨浜に遊びに来て、のちに『たみ』というゲストハウスを開くオーナーたちと知り合って。湖や温泉があるし、駅も近いし、ゆくゆくはそういう施設もできるなら『ここで本屋をやってもいいかも』と思って、湯梨浜に移り住んだんです」(モリテツヤさん)
そんなモリテツヤさんが湯梨浜の地に根を下ろして作った汽水空港は、書店ではあるものの、ミュージシャンによるライブや、近隣の飲食店とコラボしたイベントなど、様々な催しも行っている。
本好きに限らず様々な人が立ち寄り、そして本や音楽、料理の世界に飛び立っていくこの店は、まさに「空港」のような場所と言えるだろう。
「戸惑い」を感じて欲しい
汽水空港のすぐそばにある小高い丘を登っていくと、そこには廃校になった旧湯梨浜町立桜小学校の跡地がある。
そんな場所に来てどうするの? と思われるかもしれないが、実はこの建物の中には「映画館」が入っている。
その名も、「ジグシアター」だ。
いわゆる「ミニシアター」と呼ばれるタイプの映画館で、月に10日前後を1サイクルとし、1つのテーマに沿った映画が何作か上映されている。「この期間は○○監督の作品を特集する」といった具合だ。
運営しているのは、愛媛県出身の柴田修兵さんと、大阪府出身の三宅優子さん。
それぞれ大阪で音楽系イベントの主催などの仕事とデザイン系の仕事をしていた2人は、2018年に子供が生まれたことをきっかけに移住を検討。育児休暇中の旅行も兼ねて候補地を探し回った結果、大阪とも程よい距離にありつつ、自然豊かで食べ物も美味しい鳥取県が「ちょうどいい」と考えた。
そして2021年に湯梨浜へと移り住み、同年7月にジグシアターをオープンしたという。
「もともと、大阪では劇場の大小を問わずよく映画館には行っていました。ただ、鳥取にはいわゆるハイ・バジェット(高予算)な映画を上映するようなシアターしかなくて、それはちょっと寂しいなと思って。なら自分たちでミニシアターをやってみようと思ったんです」(柴田さん)
湯梨浜にも、都会にあるようなミニシアターを作りたい。そんな思いで生まれた「ジグシアター」。
そのコンセプトとして、柴田さんは「戸惑い」というキーワードを挙げた。
柴田さんいわく、ジグシアターで上映される映画は、観客に良い意味でも悪い意味でも「戸惑い」を与えるものだ。
「自分が知らない世界をイメージする窓となるだけでなく、今まで自分が知っていたものが全然違うものに変わる、というのが映画の強さだと思うんです。ここで映画を観ることで、シアターを出た後に周りの景色とか体の動き方とか人間関係とか、そういったものの見え方が違って感じられるかもしれない。そんなことを感じる時に、人は戸惑うと思う。そんな『戸惑い』を感じて欲しいんです」(柴田さん)
東郷湖を見下ろす丘にある小学校跡地に開かれたシアターで、映画鑑賞を通じて「戸惑い」を感じる──たまにはそんな不思議なひと時を過ごしてみるのも良いかもしれない。
わたしが湯梨浜で暮らし続けていきたい理由
モリテツヤさん、柴田修兵さん、三宅優子さん。湯梨浜町では彼らのようにまちの外から来た人々が生き生きと、自分の「やりたいこと」に取り組んでいる。
そして、彼らの後に続くように、湯梨浜での人生を歩もうとしている人たちもいる。
湯梨浜町の地域おこし協力隊員、林雅子さんと池本亜希子さんだ。
空き家の利活用に関する業務や移住希望者のサポート、町外の人に湯梨浜町の魅力を発信する活動などに携わっている2人は、3年の任期を終えた後も湯梨浜町に残り、生活を続けたいと考えている。
なぜそう思うのか? このまちの魅力とは、どんなところなのか。筆者は2人に尋ねた。
東京時代の友人が13年前に湯梨浜のお隣・倉吉市にUターンしたことをきっかけに、彼らに会うため鳥取中部を訪れていたという林さん。その訪問の中で知人ができたこともあり、地方移住を検討するにあたって一番最初に思い浮かんだのが湯梨浜・倉吉エリアだった。
景観の美しさや食べ物の美味しさにはもちろんだが、まちの住人になってみると「地元民の優しさ」も心に沁みる。
「優しくて穏やかな人が多いんです。困っていると助けてくれたり、仲良くなると野菜や果物をくれたり。かといって過度にグイグイ来るわけではなくて、『なんとなく見守ってくれてる』みたいな、ちょうどいい距離感なんです」(林さん)
池本亜希子さんは鳥取市出身で2年前に東京から湯梨浜にJターン。故郷・鳥取市への移住も視野に入れていたが、相談に乗ってくれていた移住コーディネーターに勧められたことを機に、湯梨浜の地域おこし協力隊になったという。
そんな彼女は、季節の移ろいを食べ物や自然の景色で感じられる湯梨浜での暮らしに魅力を感じている。
「家の前の田んぼでコメができたら『秋だな』って感じたり、芝桜が咲いていたら春を感じたり。町の景色が季節ごとにはっきり変わるところが好きです」(池本さん)
移り住み、大好きになった湯梨浜という場所。林さんは空き家を改修したギャラリーやイベントスペースを作ること、池本さんはヨガインストラクターの仕事を軌道に乗せることを目指しているそうだ。
そして、最終的な目標は「定住」。2人の活動は、このまちにまた新たなカルチャーを花開かせていくのだろう。
興味がわいたら気軽に相談を
さて、いかがだろう。汽水空港やジグシアターの存在はあなたの「湯梨浜町」や「地方移住」へのイメージを、少し変えたのではないだろうか。
実際に足を運んで、自分の目でまちを見てみたいと思った読者も、居るはずだ。
そんなあなたの力になってくれるのが、「湯梨浜まちづくり株式会社」だ。同社は、町からの委託を受けて、移住検討者へのコーディネート業務などを行う企業。空き家を探している人に物件を案内したり、移住をするにあたってどんな補助があるか説明してくれたり、とにかく移住に関することなら何でもござれ。
「今は町から委託を受けての仕事をしていますが、行く行くは自主事業でも町に貢献しつつ、会社を大きくしていきたいというのが目標です 」(同社専務・中本賢二さん)
現在はお試しで湯梨浜に短期間滞在したいという移住希望者に向けた、無料の町内案内サービスも実施している。「空き家を探したい」「どんな小学校があるか知りたい」など、移住者の目的によって臨機応変にプランを考えてくれるそう。
ちょっとでも気になった人は、気軽に「湯梨浜まちづくり」へ問い合わせてみてほしい。
湯梨浜町には他にも魅力的なスポットがいっぱいなので、あわせて巡ってみるのも、オススメだ。
湯梨浜巡りの拠点にいかが? オススメ宿泊先情報
東郷湖畔にあるレイクサイドSPAリゾート「グランレイク鳥取」。
湯梨浜町出身の若本修治さんが「湯梨浜の魅力を活用して地元に貢献できる事業がやりたい」と2024年9月にオープンしたばかりのグランピング施設。
白い半球はドームテント型の客室で、7棟すべてがこのスタイル。そのうちの1棟は客室専用のバレルサウナも設置されており、どの部屋からでもレイクビューが楽しめる。
すべてのドームテントに居心地がよいガゼボが併設されていて、食事スペースやトイレだけでなく、東郷池から湧出する天然温泉かけ流しの浴室まで完備。ドッグラン併設の棟も用意されているので、愛犬家にもピッタリ。
さらに、施設内にはエストニア産サウナまであって、サウナの中からも、外気浴中も、湖を間近で眺めることができる。
「源泉掛流しの温泉+湖畔に位置するグランピング施設、というのは全国でも数少ない施設です。温泉・ロケーション・食、と三拍子がそろったこの施設で、最高の非日常体験をご提供したいと考えております」(若本さん)
グランレイク鳥取
JR松崎駅から徒歩8分、倉吉駅からはタクシーで10分鳥取砂丘コナン空港からタクシーで約35分、米子鬼太郎空港からはタクシーで約1時間20分
チェックイン場所:鳥取県東伯郡湯梨浜町龍島562-1
公式サイト:https://www.lakesideglamping-tottori.com/
湖屋は、はわい温泉の東郷湖畔にあるグランピング施設。敷地内のどこからでも雄大な東郷湖のレイクビューが望める絶好のロケーションで、特に、アウトドアメーカーのスノーピーク製モバイルハウス「住箱-JYUBAKO-」からの眺望は格別。
東郷湖の湖底から湧き出ている天然温泉かけ流しの露天風呂や、地元食材を使った窯焼きピッツァや特製カレーを味わえる「湖屋カフェ」も併設。雄大な湖を眺めながら、食事ができる。
水景色の指定席「湖屋」
JR松崎駅から車で約5分、倉吉駅からは車で約10分所在地:〒682-0715 鳥取県東伯郡湯梨浜町 はわい温泉15番地
公式サイト:https://www.yurihama-koya.com/
企画編集:Jタウンネット