客を愛し、愛された名喫茶「蘭」閉店へ 市村正親も魅了した「絶品ナポリタン」
帝劇のミュージカルのように
東京メトロ有楽町駅から筆者は向かった。帝劇ビル地下街から国際ビルヂングに移動し、一つ上の階にあがる。タニタ食堂の隣、レトロな雰囲気が魅力的な蘭が現れた。
蘭は帝国劇場の楽屋入口のすぐ近くにある。それもあってか市村さんをはじめ、数多くの著名人も訪れるという。
平日の14時ごろ、店内はビジネスマンを中心ににぎわっている。4人用と2人用のテーブル席のほか、ジグザグに作られたソファー席もある。
早速、名物のナポリタンとセットのアイスコーヒーを注文。温かい橙色の照明のせいか目をつぶって眠ってしまいそうな居心地の良さに甘えた。
客席は商談やほっと一息つきたいビジネスマンなど様々な目的を持っている。店員さんは訪れた客を家族のように迎える。常連と思われる人には雑談もする。
あまり見なくなったアットホームな雰囲気もまた心地よい。
店の雰囲気を一頻り味わったところで、ナポリタンが来た。
サウザンドアイランドドレッシングドレッシングがかかったサラダもついている。血糖値が気になる人にはうれしいサービスだ。
ケチャップが主体となるナポリタンであるが、見た目はそこまで鮮烈な赤みはない。トマトの酸味が効いた香りが程よい。
サラダを食べ、ちょっと粉チーズ振りかけてフォークで麺を巻き付ける。
ケチャップの強烈な味を予想したが、実際はピザソースのように後を引く濃厚な甘みと柔らかく、粘りけのある麺が舌の上で踊りだす。思わず目をつぶって味を堪能してしまう。
具材はナスやニンジンなどバラエティに富んでいる。そのため、濃厚なソースと麺で飽きてしまうことはない。
往年の名俳優ハンフリー・ボガートのように気障な渋味がアクセントのナス。酸味の後に短い甘みをくれる強がりの玉ねぎ。3枚目でちょっと舌を緩ませてくれるハムとソーセージ。薄くカットされながらも旨味の強い個性派のニンジン。それぞれが主役の麺とソースと絡むことで強い存在感を示し、下の中で次々と幕を変えていく。食べ終わると自然とカーテンコールが始まり、拍手を送っている自分がいる。食後のコーヒーに今日の劇は素晴らしかったとつい語りかけてしまいそうだ。
この味も間もなくで食べられなくなると勿体ない。この味を食べるために丸の内にオフィスを置く会社に転職したいくらいだ。