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客を愛し、愛された名喫茶「蘭」閉店へ 市村正親も魅了した「絶品ナポリタン」

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2018.11.25 08:00
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日比谷通り沿い、帝国劇場と合築の国際ビルヂング地下に店を置く喫茶店「蘭」。市村正親さんら著名人も愛したというこの名店が、2018年12月9日、53年にわたる営業に終止符を打つ。

ナポリタン
ナポリタン

閉店を目前に控えた11月22日、Jタウンネット編集部は蘭を訪れ、名物であるナポリタンを食べた。

帝劇のミュージカルのように

東京メトロ有楽町駅から筆者は向かった。帝劇ビル地下街から国際ビルヂングに移動し、一つ上の階にあがる。タニタ食堂の隣、レトロな雰囲気が魅力的な蘭が現れた。

蘭の看板
蘭の看板

蘭は帝国劇場の楽屋入口のすぐ近くにある。それもあってか市村さんをはじめ、数多くの著名人も訪れるという。

平日の14時ごろ、店内はビジネスマンを中心ににぎわっている。4人用と2人用のテーブル席のほか、ジグザグに作られたソファー席もある。

早速、名物のナポリタンとセットのアイスコーヒーを注文。温かい橙色の照明のせいか目をつぶって眠ってしまいそうな居心地の良さに甘えた。

客席は商談やほっと一息つきたいビジネスマンなど様々な目的を持っている。店員さんは訪れた客を家族のように迎える。常連と思われる人には雑談もする。

あまり見なくなったアットホームな雰囲気もまた心地よい。

店の雰囲気を一頻り味わったところで、ナポリタンが来た。

蘭の名物「ナポリタン」
蘭の名物「ナポリタン」

サウザンドアイランドドレッシングドレッシングがかかったサラダもついている。血糖値が気になる人にはうれしいサービスだ。

ケチャップが主体となるナポリタンであるが、見た目はそこまで鮮烈な赤みはない。トマトの酸味が効いた香りが程よい。

サラダを食べ、ちょっと粉チーズ振りかけてフォークで麺を巻き付ける。

麺は少し太めだ
麺は少し太めだ

ケチャップの強烈な味を予想したが、実際はピザソースのように後を引く濃厚な甘みと柔らかく、粘りけのある麺が舌の上で踊りだす。思わず目をつぶって味を堪能してしまう。

具材はナスやニンジンなどバラエティに富んでいる。そのため、濃厚なソースと麺で飽きてしまうことはない。

往年の名俳優ハンフリー・ボガートのように気障な渋味がアクセントのナス。酸味の後に短い甘みをくれる強がりの玉ねぎ。3枚目でちょっと舌を緩ませてくれるハムとソーセージ。薄くカットされながらも旨味の強い個性派のニンジン。それぞれが主役の麺とソースと絡むことで強い存在感を示し、下の中で次々と幕を変えていく。食べ終わると自然とカーテンコールが始まり、拍手を送っている自分がいる。食後のコーヒーに今日の劇は素晴らしかったとつい語りかけてしまいそうだ。

この味も間もなくで食べられなくなると勿体ない。この味を食べるために丸の内にオフィスを置く会社に転職したいくらいだ。

来る人、全員が家族

食後、この店で働く本合(ほんごう)典子さんに話を伺うことができた。

今回はナポリタンをいただいたが、ほかのおススメについて聞くと、

「全部です」

と答えた。筆者は少し驚いてしまった。というのも、入り口にあるサンプルを見るとジャンルを問わずに様々なメニューが並んでいる。人間が作っている以上、不得意なメニューがある方が自然だろう。

入り口の食品サンプル
入り口の食品サンプル

入り口の食品サンプル
入り口の食品サンプル

特に食べてもらいたいのはナポリタンとしつつ、好きなものどれを食べてもおいしいというのがこの店一番のセールスポイントだ。

料理の幅広さだけでなく接客も重要なポイントだ。

「おいしいのも重要だけど、雰囲気づくり。忙しい中に家庭的な雰囲気を」

実際、筆者が目撃した楽しそうな客とのやり取りも蘭の特徴なのだ。

その接客術は驚くもので「一度来たら覚える」、「モーニングは聞かなくても頼むものがわかる」と超人的なものだ。これについて本合さんは、

「気遣い、心遣いができる店」

アットホームな雰囲気は店員のこうした意識があるからこそ成り立っている。

そうした信頼関係が構築されていることもあり、10数年通う常連客もザラだという。一方で閉店の告知で悲しむ客も多く、中には泣いてしまった人もいる。そういった惜しむ声を数々受け止めた本合さんは、こう話す。

「こんなに愛される店だったんだ」

閉店を惜しむのは本合さんも同じ。最初はきつかったが、唯一無二の空間が出来上がったことを振り返り、

「寂しい、残念もあるけど最後まで泣けない」

閉店までに筆者のような新しい人が来るかもしれない。そうした人のことも考え、グッと感情をこらえる。

仕事でずっと訪れた常連客がリタイアするときは入り口で握手し、見えなくなるまで見送ると本合さん。今度は店が別れを告げる番だ。

閉店の知らせは徐々に周知され、レジには手書きで綴った告知のコピーが積まれている。

閉店の知らせ
閉店の知らせ

家族のような間だからこそ、泣いたり笑ったり様々な感情がそこにあった。「ただいま」と言える場所はできることなら永遠にあってほしいと願うもの。しかし、そこは家族だからこそしっかりと決断し、伝えなければならない。

この知らせを伝えなければならない、感情は筆者では到底わかりえない。今回、本合さんはしっかりとわかりやすく伝えてくれたが、それ以上の万感の思いが渦巻いているように感じた。これだけ思われている蘭の客は幸せと言わず何といえる。

私もこの店の家族になりたかったな。

(Jタウンネット編集部 大山雄也)

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