スマホの「漫画バナー広告」は、どうやって作られているのか?
スマートフォンを使っていて、こんな広告見たことありますか?
インパクトある一コマに、興味をそそるようなフレーズ。どんな話なのか、思わず気になってしまう......。
作品を選んでいるのはいったい誰?
これは、電子書籍配信ストアが配信している「漫画バナー広告」だ。いろんなサイトに載っているので、「進撃の巨人」を読んだことがない人はいても、こういう広告を「一度も見たことがない」という人は、なかなか珍しいのでは。
たとえば、「善悪の屑」(渡邊ダイスケ、少年画報社)。犯罪者に私刑を下す「復讐屋」を描くこの作品、その強烈な一場面を描いたバナーは話題を呼び、電子書籍が大ヒットしただけではなく、「紙の本」も品薄になるなど、ちょっとした「社会現象」に......。
「ああいう広告って、いったいどうやって作られてるの?」
「載る作品は、どのように選ばれてるの?」
そんな素朴な疑問を調査すべく――。
Jタウン探検隊、今回は「BookLive!」や「ハンディコミック」の運営会社・BookLive(東京・港区)にお邪魔して、その舞台裏を聞いてみた。
「善悪の屑」、実は女性にも人気!?
話を聞かせてくれたのは、マーケティング部門のマネージャー・藤川大祐さんと、広告担当の久保田ゆりえさん(残念ながら写真はNG)。
――いきなりなんですけど、「善悪の屑」についてちょっとお聞きします。2016年、多くの電子書籍ストアでトップ人気を得たこの作品。BookLiveではかなり早い時期から配信されていたかと思うのですが――。
藤川 そうですね。「BookLive!」と「ハンディコミック」で、他店さんよりいち早く出すことができました。
――元々は「知る人ぞ知る」という作品だったものが、配信を機に一気に話題になりましたね。
久保田 こうしたバナー広告では女性向けを意識することが多く、「善悪の屑」のような男性向けバイオレンス物は、これまであまり取り上げたことのない、受けていないジャンルだったんです。ところがふたを開けてみれば、ものすごく効果が良かった。実は、意外と女性にも読まれたんです。
――えーっ、女性に?
久保田 被害に遭った女性に代わって、犯人に復讐する、という話も多いので......そこが女性にも受け入れられて、ヒットの一因になったのかもしれません。
藤川 我々も、後で分析して驚いたポイントですね。
思わぬヒットを生んだ「カマかけたらクロでした」
――ほかのヒット作と言いますと......。
久保田 こちらの作品ですが(印刷されたバナーを取り出す)、「カマかけたらクロでした」(うえみあゆみ、KADOKAWA/メディアファクトリー)というエッセイコミックです。あまり他社さんで配信していなかったので、弊社で半分独占するような形になったんですが......。
――あっ、見たことあります!
藤川 エッセイコミックもそれまで、あまり当たった作品がなかったんです。しかし、「流れが若干来ているな」とこのジャンルから読み漁って出してみたところ、効果がとても大きかった。人気の流れにうまくリンクできたと思います。
――確かにこの1年ほど、エッセイコミックはブームですね。むしろストア側で「推した」ことも、その流れを作っている一因のようにも思います。
過去のデータと、「先読み」のバランス
――それにしても、こうした掲載作品は、どうやって選んでいるんでしょう?
藤川 弊社、そして広告代理店とで候補作をまず出してきて、そこから「選定会議」を行い、選ばれたものがバナーとして作られていくという形です。
――とすると、藤川さんも久保田さんも......?
藤川 もう、チーム総出で、普段から漫画をたくさん読むようにしています。代理店にも「発掘部隊」がいて、専従でずっと探している人がいると聞いていますね。
久保田 これまでのヒットの傾向というものは、「女性向けで、不倫、結婚、出産、あるいは死が絡んでくるもの」など、ある程度あるんです。そうした過去のデータから当たりを付けて探してくるんですが、ただそこだけにこだわるのではなく、今まで「出したことのない」ジャンルやストーリーのものに積極的に切り込んでいく、ということも意識しています。
――データだけを見るわけではない、ということですか?
藤川 過去のデータも大切なんですが、逆にとらわれすぎちゃうと、選定の幅がシュリンク(狭まる)しちゃうんです。当たったものだけをただ出して行けばいいわけではない。これまでのデータと、「次は何が来るのか」というニュートラルな目での先読み。そのバランスですね。「善悪の屑」も、その中から出てきました。
普段から「バナー」にしたときのことを考えつつ
――なるほど......。
藤川 もちろん前提として、広告の運用基盤ができていないと、いい作品を選んでも当たりませんし、逆もまたしかりなんです。ギャンブルじゃないんで、一か八かで1つ作品を選んで、ということじゃない。たとえば少額で10本出して、数字が上がらないもの9本を外し、数字のいいもの1本に集中して予算をかけていく。いかにPDCAを早く回すかなんですよね。そして推移を見ながら、広告効果が落ちてきたら下げる。平均2カ月くらいですかね。
――単なる「カン」の世界ではないんですね。
藤川 また、他社のストアで売れているからといって同じ作品の広告を出しても、そこまで効果は上げられないんですよ。先行者メリットじゃないんですけど、他社に先駆けて、「一番乗り」でヒットコンテンツを出稿していく。そこに重きを置いています。
――となるとますます、常日頃から広くアンテナを張り続けなければいけない。
藤川 そういうことです。あとは、読むときには同時に「バナー」にしたときのことも考えていますね。「すごいストーリーは面白いんだけど、どうも絵になるところがないな」とか、「もしバナーにするならこのコマだな」とか。
――ははははは。言われてみると、自分が知っている作品がバナーになっていると、「えっ、こういうマンガだっけ!?」と驚くことがありますね。切り取りの妙といいますか。
藤川 (作中のコマを使った)GIFアニメという今のスタイルは、何百回というABテストを繰り返して確立されたものですが、ただこういった手法も、もう飽きられているのかもしれない。次の一手としてどういう見せ方がいいのか。そういうことは、いろいろ考えています。
「書店」として本をレコメンド
――それにしても、バナー広告で取り上げられるのは、それまであまり知られていなかったような、意外な漫画が多いとは思っていましたが、こうして聞いてみるとなんとなく納得がいきました。
藤川 広告とはいえども、「書店」としての立場で、漫画好きの人に「こういう作品もあるよ」と情報提供したい、という思いがあるんです。有名作品は、広告打たなくてもみんな知っているわけですから。そして、皆さんの「漫画ライフ」をより楽しいものにしてほしい。
――本屋さんがPOPで、一押しの作品をレコメンドするような......。「善悪の屑」にしても男性誌(ヤングキング)連載ですから、普通ならなかなか女性読者が知る機会自体がなかったはず。そうした作品との出会いの機会になった、という意味では、まさに「書店」としての役割を果たした好例と言えるかもしれませんね。
藤川 我々も「書店員」として、やっぱり「本が好き」、ということがまずあるので。もちろん有名な漫画やメディア化で話題の作品なども是非読んでいただきたいですが、本当は面白いのに、目に触れることがないために読まれていないという作品。業界全体の活性化のために、そういう作品も一緒に紹介していきたいと思っているんです。