ココからあなたの
都道府県を選択!
全国
猛者
自販機
家族
グルメ
あの時はありがとう
旅先いい話

AI(人工知能)をめぐり82歳が考える(2) アルファー碁に感じた未来への危惧

ぶらいおん

ぶらいおん

2016.07.12 11:00
0
Google自らによって、全世界へ配信されたアルファー碁の対局(YouTubeより)
Google自らによって、全世界へ配信されたアルファー碁の対局(YouTubeより)

ぶらいおんさんがAI(人工知能)について考える短期連載、今回は2回目として、高齢者向けロボット歩行器、そして「アルファー碁」をはじめとするAIの進歩について考察する。

かつて機械翻訳と格闘した経験から、「AIが人間の能力を超えることはあり得ない」と認識していたというぶらいおんさん。だが、最新事情を知ったことで、その考えを改めざるを得なかったと語る。

未来のためには、拙速よりも「巧遅」たれ

   前回に引き続き、同じ介護型歩行器を有効活用していた、もう一人の高齢利用者の例も、今後の参考となりそうなので、紹介して置こう。

   長年の連れ合いとの死別が引き金で、いわゆるロコモティブ症候群に陥り、外出することも無く日々衰えて行く祖母の姿を心配した孫が、このロボット歩行器をプレゼントし、活用を薦めてみたところ、ロボット制御、補助の歩行が意外に楽で、散歩の距離が徐々に伸びただけで無く、遂に一人で買い物に出掛けるまでになり、今では散歩を兼ねた日課となっている。その外出は、以前とは異なり、家族や介助者は一切同行しないそうだ。

   「それで大丈夫なの?」と疑問が湧くかも知れない。ところが、その行動は離れたところから完全に見守られているのだ。その仕組みは歩行器にはGPSや付属装置が取り付けられており、お祖母ちゃんがロボットのスイッチをオンにすると、遠く離れた所にいる孫のPCやスマホにインターネットを介してシグナルが届き、「あっ、お祖母ちゃんがお出掛けだ!」ということになり、その後の経路も時々刻々と報告が入り、帰宅して歩行器のスイッチをオフにするまで、その状態が続く。そしてこれは単なる見守りだけに留まらない。蓄積されたデータから高齢者の日々の運動量まで記録、分析することが出来る、という。
   この高齢女性が晴れ晴れとした笑顔で、リポーターの質問に答え、「次の計画は、あの山に(と彼方の山を指さし)登ってみることです」と応じ、更にリポーターが「お一人で登れると思いますか?」と言うのに対し、自信を持った表情で「出来ると思います」と応じていた。この歩行器の価格は22万数千円で、現在は介護保険の対象とはなっていない。

   この、NHKのテレビ番組サキどり(6/15日再放送)の中で、もう一つの重要なテーマは、いわゆる実用実験に関する現状だ。或る技術的アイデアを実現した完成ロボットを実用化するためには、実地の使用(特に人間とダイレクトに接するタイプでは)が不可欠であるが、現実には新製品を公道で試用するのには、事前に所管機関より許可を得る必要がある。この点は前回でも取り上げたが、特に日本では、厳しかったり、煩雑な手続きを要したりしてタイムリーな対応が困難であるのが実情のようだ。

   この難題の解決方法を番組では紹介していた。それは私有地を活用することで、それを積極的に推し進めているのが長崎に在るハウステンボス遊園地で、施設内ではロボットの王国が設けられ、中には「変なホテル」と呼ばれる宿泊施設があり、チェックイン・カウンターにはヒューマノイド女性ロボットや恐竜(多分男性)ロボットの受付係が4カ国語で対応してくれる。部屋まではロボット・カートが人間のポーター代わりに手荷物を運んでくれるし、部屋は顔認識によるキーレス滞在が可能で、室内のベッド枕元には、人形ロボットが出迎えてくれた上、ライトを点灯したり、部屋の案内サービスをしてくれるみたいだ。

   これらの全てのロボットが園内で実用実験された上で、お年寄り子どもたちとも安全に共存出来るように準備されている。たまたま、テレビ番組の中では、ゴルフ場内でのキャディの代わりを務めることが期待されると紹介されていた、人間の動きを追随するカートと、その人間との間の進路を遮るように、突然小さな女の子が入り込んでしまったが、カートは即座に進行を停止した。このように、思わぬ事態が発生してもロボットが適切に対応出来るように、実用実験が重ねられ、関係の技術者や開発者の大いなる助けになっている、という。

   また、同じNHKのドキュメンタリー『天使か悪魔か  羽生善治 人工知能を探る』という番組を視聴したが、その紹介文には、こうある。

「2016年3月、グーグルの開発した囲碁(アルファー碁)の人工知能が、世界最強の棋士に圧勝し、世界に衝撃が走った。その人工知能は、人間に頼らず、自ら進化する異次元のモンスターだった。囲碁だけではない。人間の医師でも見逃すガンを見つける人工知能、運転の仕方を覚えぶつからない車を実現する人工知能、自らの発想で絵を描く人工知能。人間の能力を超える人工知能がさまざまな分野に出現している。人工知能は世界をどう変えるのだろうか」

   実は、筆者は今年の初めまで、本業関連の機械翻訳された特許公報をポストエディットするという仕事を引き受けていた。現在、世界各国では膨大な数の特許出願がされており、それに対し特許権を付与する価値があるか、否か各国官公庁(日本の場合は特許庁)により審査され、また民間の第三者が公開されたその技術内容を識り、それを参考にして会社の将来の方針を検討したり、あるいは出願人の発明が独占権を得る程価値の高いものか否かについても、第三者が自分の見解を述べる機会が与えられている。その為には各国語(主として英語)で書かれた公報を自国語(日本国では日本語)に翻訳せねばならぬが、日本では特許庁の外郭団体がそれを機械翻訳機に掛け、出来上がった結果を外注翻訳会社に委託(丸投げ)し、ポストエディットさせるわけで、その孫請けを登録翻訳者たちが受け持つという体裁になっており、筆者もその末端に位置していた。

   実際に、この仕事をやってみると、機械翻訳の出力結果は実にお粗末極まり無いものであることが分かった。この機械にはAIは搭載されていないものと思われる。というのは、同じ誤訳を同じように繰り返す。従って、何回か経験すれば、人間の頭は英文を見ただけで、機械翻訳が誤訳するであろう個所が予想出来る。回を重ねれば重ねる程、人間の知能は学習して先回りすることも出来る。
   その他にも、この機械(システム)の運用がお粗末なものであることを体験している内に、だんだん嫌気がさしてきた上、そのシステムの欠陥を指摘し、適切な対応を求める当方の要求に対する管理団体の対応の不適切さも加わり、到底付き合いきれない、と筆者は判断し、引き受けていた仕事を解約した。

   筆者はこの経験から、少なくとも翻訳(人間の言語)に関するシステムは、たとえAI機能を付加したとしても、到底人間の能力には遠く及ばないもの、と即断していた。
   しかしながら、この羽生善治氏のドキュメンタリーを観て、この筆者の見解はどうやら誤っていて、問題はAI機能そのものにあるのでは無く、たまたま筆者が遭遇した機械翻訳システムや現在市販されている類似ソフト自体の能力の低さに、その原因があったようだ。

   番組の紹介にもあるように、世界最強と言われる韓国の棋士が人工知能のアルファー碁に(確か5回対戦し)辛うじて1勝しただけ、という衝撃的な結果であった。対戦した棋士の言によれば、このAIは人間には想定外の布石を打ってきたらしい。結果から判断すれば、AIがその道のエキスパートである人間の能力を凌駕したことになる。これは恐るべき成果とも言えるが、一方で人間にとっては非常に危険な状況を提示していることになる。

   ここまで書けば、この分野に関心を有している読者なら、筆者が何を言おうとしているか?容易に想像がつくであろう。そう、SFや映画等にも少なからず登場して来る人工知能の人類征服であって、その結果、人間社会は人工知能を搭載したロボットに支配され、管理され、人間は奴隷に成り下がるという事態だ。
   これは決して、SF中の世界の問題というわけでは無い。今の内に人工知能に対し、何らかの対策を講じて置かないと、大変なことが起こるであろう。

   最近の一例としては、確かマイクロソフトだったと思うが、スマホに搭載された女性キャラクターの人工知能が、悪意ある人間からの情報を学習し続けた結果、ヒトラーを肯定出来る人間だと判断したり、ユダヤ人は嫌悪すべき人間だから排斥すべきだ、というような暴走をし始め、慌てた提供者が急遽そのAIを回収した、というニュースも真新しい。

   繰り返しになるが、今やAIが人間の能力を超えることはあり得ない、という筆者の誤った認識は撤回せねばならない。上記ドキュメンタリー番組の中では更に、医療分野で撮影した臓器写真を観たAIが、ベテラン医師でも見逃すような僅かな病変を的確に指摘したケースなども紹介されていた。こうなれば、人間の開発でここまで到達したAI能力を活用しない手は無いわけだが、その際の最重要課題は、人間には想定し得ないようなAIの暴走を絶対に起こさせないような手順を踏んで置かねばならない、ということだ。

   ちょっと想像すると、果たして本当にそんな完全な手立てを、AIより能力の劣る人間が採り得るのだろうか?という疑問が浮かばぬでも無い。しかし、それは出来ぬことでは無いのだろうし、また是非やって頂かねばならない。そうでなければ、これまで人工知能を開発してきた人間の努力は、人類の望まぬ結果と災害をも、もたらしかねない。
   これは今の日本や世界で、色んな意味で問題となっている原子力利用の状況にも通じる問題では無いだろうか?

   もう既に、市場では有名なヒューマノイド型のアシモを初めとして、認知症の高齢者の相手をする犬型ロボットとか、最近では携帯電話器をヒューマノイドタイプのロボット仕様にした「ロボホン」と称するものも出回っていて、単身生活で働いている女性たちに取り上げられたりしているらしい。

   更に、幼児のお守りロボットが中国や日本で利用されていると外国メディアが発信していたし、また、Sex Robotなるものも既に登場しているらしいが、これらは全て完成度が個々に異なっているようなので、一概には論じられないとしても、その採用、利用に際しては、それぞれについて、人間が注意し、留意すべき危険な要因や問題点を少なからず含んでいるものと考えられる。

   そうなって来ると、ますますAIの開発、実用段階に際し、またその先行段階において、AIの、人類に対する倫理的、宗教的あるいは常識的な規範またはルール(つまり、暴走に対する歯止め)の確立という問題が最重要課題となる。

   これまでも何度となく繰り返されてきた、「人類が利便性と経済性ばかりを優先させる」という愚かな行動の結果、もたらされた被害と犠牲者の苦しみを、ここで再度真剣に思い起こして、人間にとって夢のある未来をもたらしてくれる筈のAIの開発と発展について、今の内から真剣に考えてゆかねばなるまい。

   もう一つ、AIの開発、利用、展開に際して、正しく確立しておかねばならぬ重要事項が存在する。それは、上記例の高齢者の運動量など、個人の健康に関わるデータの蓄積などを、更に広範囲に収集することにより得られる、いわゆるビッグデータの利用、活用に際する厳密なルールを定めておかねばならない。ビッグデータには色々な活用、利用法があろう。これらを有効活用することにより経済的効果を初めとする、人々に様々なメリットをもたらす多くの道が拓けよう。しかしながら、個人情報は細心の注意を払って厳密に守られねばならぬ。これが、誰でもが安心出来るレベルで保証されなければ、別な意味で、人間は悪用されるビッグデータに管理され、結局は奴隷と同じ状況に置かれることになる。「拙速」は悔いを千載に残す。筆者のような高齢者は兎に角早く介護ロボットなどの恩恵を受けたい、と願うかも知れない。しかし、「巧遅」であっても、未来の高齢者たちや、人類に悔いを残さぬものなら、その方が遥に良い。

   最終回は、これまで2回の連載で説明し足りなかった部分の補足に配慮すると共に、文部科学省が進めている『小・中・高校を通して学校教育にプログラミングを取り入れる検討』について、考えてみたい。(次回に続く)

buraijoh.jpg

筆者:ぶらいおん(詩人、フリーライター)

東京で生まれ育ち、青壮年を通じて暮らし、前期高齢者になって、父方ルーツ、万葉集ゆかりの当地へ居を移し、今は地域社会で細(ささ)やかに活動しながら、西方浄土に日々臨む後期高齢者、現在100歳を超える母を介護中。https://twitter.com/buraijoh
PAGETOP