水しぶき、轟音とともに30トンの鉄の扉が上がる...「日本のパナマ運河」小名木川の扇橋閘門
プレジャーボートもカヌーも「タダ」で通行可
小名木川はその最初から、急増する江戸の物資需要を満たすための運搬を担い、江戸時代から川幅を広げて舟運が盛んだった。一方で、江東、墨田、江戸川などの東部地域はもともと低地だったが、明治時代以来の産業用水確保のための地下水くみ上げのため、さらに地盤沈下が進んだ。西側で小名木川が接する隅田川は東京湾の干満も影響して2m近く水位が上下する。結果として、小名木川の西と東で大きな高低差が生じるようになった。
このため、小名木川の水運を確保すると同時に、低い東部地域に隅田川からの水流を制限して水害を防止するために作られたのが、「ミニパナマ運河」の構造を持つ扇橋閘門だ。約30億円をかけ、5年の歳月をかけて1977年に完成したというから、まだ40年もたっていない。
編集部が見学していた時には、小さなカヌーが一艘やってきたこともあったが、その際も、先のプレジャーボートと同じ工程を繰り返した。ちなみに通行料はタダだ。
昨年までは小名木川沿いにあった製粉工場に運ぶための小麦粉を積んだ大型の平べったい船が毎月のように扇橋閘門を通っていたが、その工場もなくなった。産業用水運は陸運にとってかわりつつあり、最近では、土日ともなると、扇橋閘門を行き来するのは、クルーズ船や屋形船、練習用ボートが多くなった。
2015年9月の鬼怒川の堤防決壊は、河川の氾濫の恐ろしさをまざまざと見せつけたが、国土交通省などのシュミレーションによれば、荒川が決壊すれば東京都心部の大方が水に沈むとされる。扇橋閘門は、そうした東京の水害を防ぐ重要な関所でもある。
扇橋閘門という装置は、役割を少しずつ変えてきた小名木川とともに生き続けている。