東京の子供たちが「ずら」「もんげー」と方言をしゃべりだしたのは「妖怪」の仕業だった
2014.06.27 17:45
文学に親しんだ人なら、芥川龍之介が1922年(大正11年)に発表した「トロッコ」を一度くらいは読んだことがあるだろう。
主人公は8歳の良平。小田原~熱海(あたみ)間に敷設される軽便鉄道の工事現場でトロッコを目撃する。彼はそれに乗りたいと思っていたが、2月初旬にその夢を果たす。ところが、自宅から遠い場所まで運ばれた後、一緒にいた作業員たちから無造作にこう告げられ、良平はあっけにとらえる。
「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」
「あんまり帰りが遅くなるとわれの家(うち)でも心配するずら」
かれこれ暗くなる時刻に1人取り残される――ストーリーの転換点となるこのセリフは、地域の言葉「ずら」と相まって読者に強烈な印象を残す。舞台となった熱海や伊豆をはじめ東海・甲信地方の方言だが、使う人は徐々に減っている。