前回の記事では、「こうじまち」駅の表記が、「麴町(旧字体)」なのか、「麹町(新字体)」なのか、というテーマを追った。 片や旧字体、片や新字体の「こうじまち」 その過程で気になったのが、駅名以外の「こうじまち」はどうなっているのだろうか?ということだ。道路標識や住所表示、建物名――地上に繰り出した記者は、街中の「麹町」「麴町」の文字にフォーカスを合わせた。 千代田区は「旧字体が正式」だというけれど まずはやはり、自治体関係の表記だろう。調査に先立ち記者は、千代田区に電話で確認してみることにした。 「町名としては難しい方、『麴町(旧字体)』が正式ですね。自治体としてはしっかり決まっています」 コミュニティ振興課の女性職員は、そう即答した。 では、実際のところはどうか。大通り沿いの電灯に取り付けられた街区表示板を見ると――。 しっかり決まっているはずなのに...... 新字体だよこれ! 肝心の自治体が、いきなりぶれている。 防災地図も、「麴町駅」などは旧字体だが、日本テレビなどは「麹町(新字体)」表記だったり、「麴町大通り」は旧字体だが、「麹町南通り」は新字体だったり。もちろん、建物や通りごとの正式名称に合わせたのかもしれないが。いや、そもそも隣り合う通りが、なんで片方は旧字体で、片方は新字体なのか。 新字体と旧字体が混ざっている 道路の看板も、大通りは旧字体だが... 一筋奥の「南通り」は新字体 警察といえど問題からは逃れられない 続いて訪れたのは、このエリアの代表的な施設の1つである「警察署」だ。大通りを直進して1丁目に入ると、赤レンガ風の重厚な建物が見えてくる。さて、その表記は――。 警察はやはり旧字体 「麴町(旧字体)警察署」だ。 年季の入った表看板を始め、比較的最近作られたとみられる縦長の看板も、「麴町(旧字体)」を採用している。さすが警察。漢字の方も格調ある旧字体で統一しているのか――と思いつつ、ぶら下がっている垂れ幕に目を転じる。 ......新字体である。 警察署以外での表記はどうだろうか。たとえば四丁目にある交番の看板は「麴町(旧字体)」だが、そのすぐそばにある案内看板は「麹町(新字体)」だ。 銀行そばにある交番。ここは旧字体 そこからわずか数十メートルの距離にある看板は新字体 また防犯シールなどでは「麴町(旧字体)警察署」となっているが、事故防止などを呼びかける看板などは「麹町(新字体)警察署」。 割と年季の入った防犯シール。ここでは旧字体 警察といえども、麴町・麹町の混在からは逃れられないらしい。 普通のビルなどはどうなっている? では、街角のビルやお店の名前は? 大通りを歩きながら、シャッターを切って回った。 駅直結の商業ビル こちらは、麴町駅に直結するビル「クリスタルシティ」だ。 表の植え込みにある看板では「麹町(新字体)」なのだが――。 入口の看板は「麴町(旧字体)」。 ほかの箇所にあるビル名の表記も、新字体と旧字体とが入り乱れている。 ここでは旧字体だが こちらは新字体 街を見渡した限りでは、比較的古めの建物では旧字体の「麴町」、新しい建物では新字体「麹町」としている傾向があるが、必ずしもそうとばかりは言えない。数でいえば、新字体が旧字体に2~3倍の差をつけている印象か。 レトロな字体の表看板。これは旧字体 比較的新しい学習塾の看板だが旧字体 スポーティーな新字体 レトロな手書き地図も新字体 地区の歴史を記した案内板。看板自体では旧字体だが、その横に貼ってあるステッカーは新字体 都営バス取材は思わぬ展開に 最後に、地下鉄に続く交通の足として「都営バス」を紹介したい。 一帯では「こうじまち」の名がある停留所として、「~二丁目」「四丁目」「五丁目」の3カ所が存在している。 二丁目のバス停留所 このとおり、「二丁目」は看板や屋根などいずれも新字体の「麹町」だ。 ところが、そこに書き込まれている路線案内では、いずれも旧字体。 停留所自体は新字体なのに... 大通り沿いにある「四丁目」は新字体だが、 少し奥まった路地にある反対車線の「四丁目」は旧字体だ。 こっちは旧字体 そう、メトロと同様、いや、それ以上にバラバラなのだ。 東京都交通局に電話してみたところ、こちらも、応対した担当者が丁寧に調べてくれた。 「都営バスでは、いずれの停留所も新字体の『麹町』で管理しており、国交省にもそのように登録しております」 なんと、意外にも都営バスは「新字体」が正式派だった。こちらはメトロとは逆に、設備更新前の箇所が、旧字体の「麴町」になっているのだという。ところが、担当者の方の話は思わぬ方向に――。 「ただ、いずれどちらかに統一しないといけないですね。地名が旧字体ということでしたら、今後停留所の方も、そちらに合わせて変更するかもしれません。ご教示いただきありがとうございます」 ええっ!? こちらとしては単に素朴な疑問を追いかけていただけのつもりだったのだが、まさかこれがきっかけでバス停の名前が変わるかもしれないなんて......。 旧字体の四丁目バス停 好奇心がもたらした思わぬ展開に驚きつつ、ひとまずこの「麴町・麹町」問題は幕としたいと思う。