〝行くべき52か所〟選出で「複雑」「バレてしまった」の声も 富山市のインバウンド対策、どうなってる?観光協会に聞く
何気ない日常こそ、特別な体験
NYタイムズ紙の「2025年に行くべき52か所」選定について、どのように受け止めているか? と尋ねると、富山市観光協会の担当者は、こう答えた。
「このような名誉ある選出をいただき、大変驚いています。そして世界に『Toyama(City)』の名前が発信されたことは非常に嬉しく感謝しております」
「今回選ばれた理由には、『能登の復興支援』という意味も含まれています。そのため、富山市を玄関口として、訪れる方々に滞在を楽しんでいただき、県内や能登(石川)、さらには北陸地域を周遊してもらうことで、能登の復興に貢献できることを願っています」
NYタイムズに富山市を推薦したのは、アメリカ出身、日本在住の作家・写真家のクレイグ・モド氏。
富山市の見どころとして、隈研吾氏が設計した「富山市ガラス美術館」や、富山市八尾町で9月に実施される行事「おわら風の盆」に言及。ワインバー「アルプ」、富山おでんを楽しめる居酒屋「飛騨」、スパイスカレー店「スズキーマ」、鉄道模型が走る喫茶店「珈琲駅ブルートレイン」、音楽を楽しめるバー「ハナミズキノヘヤ」など、地元の飲食店も紹介している。
富山での体験を語り、「行くべき場所」に都市を推薦する理由のひとつとして、「観光客向けに形づくられたのではない〝実際の生活〟が営まれている様を見ることができる」という点を挙げた(原文は英語)。
富山市観光協会の担当者は、モド氏のこの評価を誇らしく感じているという。
「私は、普段、X(旧Twitter)で、『雄大な立山連峰』『スーパーで買った新鮮な魚』『街を行き交う路面電車』『ガラス細工』など、今の富山市の日常をリアルタイムに発信しています。そして、3~4年前くらいから、地元では当たり前で何気ないものが、富山ならではの魅力として大きな反響(バズる)をいただくことが増えてきました」
「これらの反応から、訪れる方々が富山市の日常にこそ魅力を感じていることを体感しています。そして、地元の人たちが、富山市の日常の魅力を誇りに感じ、積極的に発信するようにもなりました」(富山市観光協会担当者)
「富山市の魅力は、他の観光地に比べると派手さがないかもしれませんが、立山連峰をはじめとする自然の風景や、新鮮な食材、そして地元の人々の何気ない暮らしの中にこそあります。それが、訪れる方々にとっても特別な体験を提供する大きなポイントだと考えています」
「地元の人々の暮らしや風景を尊重し、それを観光客に紹介して来てもらうことが、より持続可能で誠実な観光地作りに繋がると信じています」(富山市観光協会担当者)
世界一キレイなスタバ、町中でふらりと入った居酒屋や食堂で安くて旨い魚が食べられること、スーパーのお刺身・お寿司コーナーも充実していること、路面電車に乗ってゆっくり市内観光ができることなど、富山市の旅の楽しさを挙げていけば、切りがない。もちろん3000メートル級の立山連峰がすぐ間近に見えることも、ごく日常の一部だ。
そして、その〝日常〟が観光客の増加によって損なわれるのではないか? という不安が、人々に「富山の魅力がバレてしまった」という複雑な思いを抱かせているのだろう。
「行くべき52か所」に選ばれたことによる観光客の増加が予想される今、富山市のインバウンド対策は充分なのだろうか?