特別なことは何もない「日常の風景」が素晴らしい 岩手・遠野市立博物館のシリーズ投稿に反響
柳田國男の『遠野物語』の舞台として知られ、河童や座敷童子などが登場する「民話」のふるさとして名高い岩手・遠野。
そんな街の市立博物館の公式Xアカウント(@tonomuseum)が投稿する写真に、注目が集まっている。
例えば2024年5月22日に紹介されたのは、こんな1枚だ。
田植え後の水田が広がる、なんとも清々しく気持ちの良い光景。
この写真には「春の遠野」というコメントが添えられている。
博物館の投稿といえば、展示会やイベントの告知が主だと思うが、遠野市立博物館アカウントの過去のポストを覗いてみると、「○○(季節)の遠野」というタイトルの風景写真シリーズがひんぱんに投稿されている。しかも3000件以上の「いいね」が付けられていることも......。
ユーザーたちから寄せられているのは、こんな声だ。
「これが日本の風景」
「懐かしい」
「とっても空気が澄んでいるように美しい」
「思いっきり 深呼吸したくなりますね」
「素敵なところですね」
「この緑感~カッパが、紛れていてもわからないね」
「行ってみたい」
美しさや懐かしさが人々の心を打っているらしい「○○の遠野」シリーズは、いったいどんなきっかけで生まれたのだろう? そして、何のために風景を紹介しているのだろう?
Jタウンネット記者は遠野市立博物館に詳しい話を聞いてみた。
遠野の魅力は何気ない日常の風景にある
「○○の遠野」シリーズは、いつ、どんなきっかけで生まれたのか? 取材に応じた担当者は次のように答えた。
「遠野の風景シリーズは2021年夏ころから掲載を始めました。博物館では、遠野の魅力の一つは何気ない日常の風景にあると考え、1年をとおして風景写真を掲載することにしています。
『春の遠野』シリーズだけではなく、『夏の遠野』、『秋の遠野』、『冬の遠野』と遠野の季節ごとの風景を発信しています」(同担当者)
同館のアカウントでは、博物館の常設展示や特別展などのイベントの情報の他、『遠野物語』と遠野の魅力を発信することにしているという。
その遠野の魅力発信の一貫として、「遠野の風景」シリーズは続けられてきた。
その狙いは、多くの人々に博物館や遠野という場所そのもののことを知ってもらい、そして、実際に現地に来てもらうことだ。
「観光客に訪れてもらうには博物館だけの情報を発信していても、訪れるきっかけとしては十分でないと考え、魅力的な遠野の風景を掲載することによって、遠野を訪れるきっかけの一つになればという思いで季節ごとに写真を投稿しています」(同担当者)
「特別な日にしか見られない風景」は取り上げない
ところで遠野といえば、読者は何をイメージするだろう。
曲り家のある「遠野ふるさと村」、かつての農家の生活にタイムスリップしたかのような体験ができる「伝承園」、カッパ伝説が残る「カッパ淵」、柳田國男『遠野物語』に協力した佐々木喜善の生家など、観光地には事欠かない。
しかし、遠野市立博物館では観光地にはこだわらず、「日常の遠野」の風景を撮影することにしているという。
お祭りやイベントなど、特別な日にしか見られない風景はあえて取り上げない。普段の遠野のなかにある、さりげない風景を基本としているそうだ。
「その季節に訪れれば出会える遠野の風景を発信し、1人でも多くの方に遠野に関心を持っていただくことを目標に投稿しております」
「これからも季節ごとの遠野の風景を発信していきますので、よろしくお願いします」
と担当者は語る。
どの季節でも、胸に迫る表情を見せてくれる遠野という場所。
博物館のアカウントをフォローするだけで触れられるんだから、便利な時代になったものだ。
まあ「フォローするだけ」と思っていたとしても、気付けば遠野行きのチケットを予約しちゃっているかもしれないが......。