「お宅のご主人に車をぶつけられた者です」 自宅に知らない男性から電話→謝罪すると信じられない展開に
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Mさん(福岡県・60代女性)
Mさん夫婦に長男が生まれて間もないころ、自宅に1本の電話が入った。
それは、夫に車をぶつけられたという男性からの連絡で......。
<Mさんの体験談>
もう37年程前の話ですが、今でも忘れられない事があります。
当時は長男が生まれて間もない頃で、初めての育児に右往左往する毎日。その日は朝から雨が降っていて、車で通勤する夫に「運転気を付けて」と言って送り出したのですが......。
「請求書を送りたいので住所を教えて」
夫を見送って1時間程経った頃に男性の声で電話がありました。
「お宅のご主人に車をぶつけられた者です。修理代の請求書を送りたいので住所を教えて下さい」
長男を抱っこしたまま電話を取った私は一瞬落としそうになりましたが、「大変申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」と精一杯冷静を保ちながらお聞きしました。
「怪我はありません。車の破損だけです」と言われたので、一先ず安心。こちらの住所を伝え、再度お詫びして電話を切りました。
ただ、その年にマンションを35年ローンで購入したばかりの我が家には貯金が殆ど残っていません。修理代の事や夫の怪我の有無など不安で頭が一杯になり、途方に暮れてしまいました。
しかしその時、再度同じ男性から電話が。その内容に全身の力が抜ける程の衝撃を受けることになったのです。
「先ほど車の修理代の件で電話したものですが、請求は取り下げます。事故後のご主人の対応も誠実でしたが、あなたの対応も先ず私の怪我を心配してくれるなどとても誠実に感じました。
お子様も生まれて間もない様ですし、若いご夫婦に修理代の負担は軽くないのではと思い直し電話しました」
「私にも若い時があり...」
私が「それでは余りにも申し訳ないです」と伝えると、「私にも若い時があり経済的に苦労した時期もありましたが、今は多少余裕がありますのでどうぞお気になさらず。ご主人にもその様にお伝え下さい」。
そのまま電話は切られ、わたしはあまりの出来事に驚いて男性の連絡先も住所も聞けず、また短時間での状況の急展開に暫く放心状態でした。
その夜、いつになく沈んだ様子で帰宅した夫に事の顛末を話すと「そんな人がいるのか!」と驚いていました。
聞くと夫がぶつかってしまったのは、誰もが知る有名な高級車。僅かな修理にも高額な費用が発生するものです。
しかも路肩に停車中だったその車に、雨でスリップした夫の車が一方的にぶつけており、相手には一切の過失がないとのこと。
それなのに、あんな申し出をしてくださったことに私達は感謝しかなく、見えない相手に手を合わせて頭を下げました。
その後、男性のことがわからないかと警察署や事故現場近くの修理屋数件に問い合わせてみましたが、当然ながら警察署では教えて貰えず、修理屋でも心当たりがないという返答でした。
あの時、まだ若い私達を慮り助けて下さった男性には本当に感謝しかありません。心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」「あの時はごめんなさい」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
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