「家族旅行に行く前日、夫の地元から『すぐに来て』。幼い娘と満員の特急に乗り込むと...」(兵庫県・60代女性)
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Hさん(兵庫県・60代女性)
ある夏の日、Hさんの元に夫の兄から電話がかかってきた。
「すぐに来てほしい」と言われ、夫の地元である北陸へ向かうことになったのだが......。
< Hさんの体験談>
もう、かれこれ35年程前、忘れもしない暑い夏・お盆休みのことです。
翌日、家族3人でシンガポールへの旅行に出ることになっていたタイミングで、1本の電話が入りました。
義兄「すぐに来てほしい」
夫の長兄からでした。1人車で帰郷していた夫が緊急入院し、手術になったからすぐに来て欲しいといいます。
取る物も取り敢えず、5歳の娘を連れて大阪から北陸方面へ向かう特急「雷鳥」に飛び乗りました。
当然のことながら、お盆で列車は通路まで混み合い、満員状態。
急なことで席を予約しているわけもなく、旅行鞄を片手に娘の手を繋いで立つことに。
すると、暑さと満席という最悪の環境で、娘がぐずり始めてしまったのです。
皆さんにご迷惑にならないよう娘をだっこし、片手はつり輪。苦しい体勢になりました。
前の座席の夫婦に新聞を渡されて
泣きたい気持ちと夫を案じる気持ちとで半ば途方に暮れ始めた頃、前の座席に座っておられたご夫妻が新聞を差し出され、床に座られたらと勧めて下さいました。
聞けばお2人は小松まで帰郷されるとのこと。「私は武生まで行きます」とその理由も話したりして暫し心が癒されました。
とはいえ、娘をだっこし列車の床に座り長い時間揺られることは、かつて20代であった私にも苦痛以外のなにものでもなかったのは、いうまでもありません。
しかし、そのまま1時間程経った頃でしょうか。小松まで行かれるご夫妻の夫君が急に「どうぞ」とおっしゃって、席をお譲り下さったのです。
混み合う車内ですから丁重に御断りしたのですが、横に座るお連れ合い様もにこやかな笑みで促して下さいまして、席をお借りすることに。
グズってた娘も腕の中ですやすやと眠りだし、私も大量の汗が引いていくのを感じました。
その後、夫の手術も無事終わり、10日間を病院で過ごしました。
シンガポール旅行は残念でしたが、その後改めて家族で行けましたし、何より名も知らぬ人の優しさに触れ、満員列車の旅が素敵な夏の思い出となり、心に残っています。
今でも夏が来るたび、お盆が巡るたびに脳裏に浮かび、「ありがとうございました」と深謝致しております。
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