「紫式部ゆかりの地」は京都だけじゃない! 新幹線駅「越前たけふ」から巡りたい文化と伝統の越前旅
2024年1月7日、NHK大河ドラマ「光る君へ」の放送が始まる。日本最古の長編小説と言われる『源氏物語』を生み出した、紫式部の人生を描くという。
ところで、皆さんが「紫式部」と聞いて思い浮かべる場所はどこだろう? おそらくほとんどの人は、彼女が『源氏物語』を書いた場所で、物語の舞台でもある都――京都、と答えるに違いない。
たしかに彼女は人生の多くをそこで過ごした。しかし、たった1度だけ、京の都を離れて暮らしたことがある。
紫式部が生涯で唯一、都を離れて暮らした場所――それが、現在の福井県越前市だ。
都を離れ、越前へ下向――その時彼女は何を思った?
福井県越前市。かつて紫式部が暮らしたこの地に、新駅「越前たけふ駅」が作られ、2024年3月16日の土曜日には北陸新幹線が停まるようになる。
紫式部が生涯で唯一、都を離れて暮らした地に新幹線で行けるようになるなら......これは、アレをせねばなるまい。そう、聖地巡礼である。そして、せっかくなら越前市の魅力もいっぱい体験したい。
というワケで2023年11月末、記者は一足先に越前市観光へ出発した。読者の皆さんにおかれては、ぜひ "紫式部ゆかりの地めぐり"の参考にしてほしい。
紫式部と越前市には、どんなつながりがあるのか。それを知るのにうってつけの場所が、紫式部と国府資料館「紫ゆかりの館」(入館無料、月曜休館)だ。
若き日の紫式部は、越前国司に任ぜられた父と共に越前国にやってきた。越前国の中心である"国府"があったのが越前市で、彼女はここで1年余りを過ごしたと言われている。
紫式部が越前国府に来て、暮らし、去り、源氏物語を書き始めるまで――「紫ゆかりの館」では、彼女が体験したことや彼女の心情が体感できる。
華やかな都を離れた紫式部が、越前で何を感じたのか。越前から都へ戻る帰途で読んだ和歌にはどんな思いが込められているのか。
「紫ゆかりの館」で彼女の人生を少し一緒に歩かせてもらうような時間を過ごせば、大河ドラマ「光る君へ」を見る視点も、少し変わるかも。越前での暮らしが、紫式部の世界の見方を変えたかもしれないように......。
平安貴族になった気分で和歌でも一首いかがです?
「紫ゆかりの館」で紫式部の心情を感じたら、次は隣接する「紫式部公園」で平安貴族の気分を体感してみるのもいいだろう。
この公園は、彼女が越前・武生を訪れたことを記念して作られた「寝殿造庭園」。
平安時代の貴族が暮らした寝殿造の邸宅の庭園の一部を緻密な時代考証のもと再現したもので、池には詩歌を詠んだり雅楽の演奏が行われたりしていた「釣殿(つりどの)」も突き出している。
池には朱色の橋もかかっている。いかにも風流な庭園で、ひときわ目立つのが彼女だ。
黄金色に輝く紫式部である。
記者が訪れた時はシトシトと雨が降っていたのだが、それが都の方角を向いているという彼女の姿を、より「あはれ」なものにしているように感じた。
晴れていても、池が青空や木々、反橋を映し出し、美しいリフレクションが生まれる。桜や藤、つつじ、新緑、紅葉、雪......季節によって彩りも変わる。きっといつ訪れても、平安貴族のように歌を詠みたくなるだろう。
また、2024年2月には紫式部公園から歩いて15分程の武生中央公園内に「大河ドラマ館」もオープン予定。越前市旅行を考えている読者の皆さんは、こちらも合わせて要チェックだ。
1500年の歴史を誇る「和紙」の里
さて、せっかく越前市に来たのだから少し足を延ばして、まちの魅力を存分に満喫していこう。今からご紹介するのは、越前に古くから伝わる伝統工芸に関するスポットだ(紫式部巡りを予定しているあなたなら、きっと興味をそそられるはず!)。
越前市の今立地区には、「越前和紙の里」がある。全長230メートルの通りに、紫ゆかりの館の紙人形にも使われていた「越前和紙」の関連施設が立ち並んでいるのだ。
越前和紙は、1500年もの歴史を誇る。つまり、紫式部が暮らしていたと言われる996年には既に存在していたワケ。ということは、彼女も使っていたかも......?
「越前和紙の里」は和紙製品の購入からオリジナルの和紙作り体験まで、とにかく越前和紙のことならなんでもござれの、いわば和紙のテーマパーク。
見どころの1つである「卯立の工芸館」(年末年始と火曜日は休館)では、伝統工芸士として認められた職人による、昔ながらの製法に則った「紙漉き」の流れを見学したり、職人指導のもとで本格的な紙漉き体験に挑戦したりすることが出来る(体験は要予約)。
記者が訪問した時も、ちょうど体験講座が行われていた。
工房で作られた和紙製品は、すぐ近くにある「パピルス館」で購入可能。ノートやブックカバー、マスクケースといった和紙製の日用雑貨も多数並んでいる。日常使いも出来そうだ!
和紙の歴史や文化についての資料などを展示している「紙の文化博物館」もあるので、とにかく越前和紙の魅力を堪能したい、という人は、「越前和紙の里」に足を運べば間違いないだろう。
和紙の里でゲットした越前和紙を携えて...
「和紙の里」で和紙を作ったり買ったりしたら、こちらへ行くのもオススメ。
和紙の里から1キロほどの場所にある岡太神社・大瀧神社だ。
越前市公式サイトによると、今から1500年ほど前に現れた「川上御前」という美しい姫が紙漉きの技術を人々に伝えたのが、越前和紙の歴史の始まり。そして、この神社には、その"紙祖神"である「川上御前」が祀られているのだ。
そう、ここは「紙の神様」が祀られている神社。手に入れた和紙を持って参拝するしかない!
紙の神様にお参りしてパワーを分けてもらった紙を手紙にしたりなんかしたら......普段より思いが伝わるかも?
手紙を開けるペーパーナイフも越前市の伝統的工芸品で
思いが伝わった結果、相手からお返事がきたら、きれいに封筒を開けたいものだ。
そんな未来のために、ここにも寄っておくといいだろう。
タケフナイフビレッジ(定休日:年末年始)。ここには「越前打刃物」を作る工房がある。
越前和紙と同じく、福井が誇る伝統的工芸品のひとつ。およそ700年前に京都の刀匠・千代鶴国安(ちよづるくにやす)が刀剣づくりの地に府中(現:越前市)を選び、その傍らで農業用の鎌の製作を始めたことがその始まりだとされている。
オシャレな三角形の建物は、施設の「新館」。中には越前打刃物を買えるショップや、様々な包丁が並ぶ印象的なオブジェがあり、さながら刃物の美術館といった趣だ。
また、小さな工房もあって、刃物づくりの様子をガラス越しに間近に見られる。
新館と隣接する本館には資料館の他、さらに大きな工房があり、カンカンという「鍛造」の音が建物の外まで響き渡る。こちらは2階部分から見下ろすことが出来る。
今回、記者は特別に工房での作業を間近でも見せてもらえることになった。
こちらは、まさに「鍛冶工房」といった雰囲気だった。
職人たちの手によって1つ1つ丁寧に作られていく打刃物たちをみている内に、記者も何か1つ記念に欲しくなってしまった。
ということで、新館のショップで小型のペーパーナイフを1本購入しちゃいました。
手紙の返事が届いたら、このエルゴ2で封筒を開けることにする。
記者、ボルガラーになる。
和紙と刃物の他にも、越前箪笥などの伝統的な文化が根付くこの街。もちろんそれらだけでなく、新しく生まれてきた文化も魅力的だ。
その「新しい文化」の1つを求めて記者が訪れたのは、「道の駅 越前たけふ」(定休日:元日、第2水曜日)。
2024年3月に開業予定のJR越前たけふ駅と隣接しており、施設内には観光案内所や物産店、レストランなどが入っている。新幹線の待ち時間などには、ここで買い物や食事を済ませるのが良さそうだ。
記者の目的は、駅内のレストランで提供されている"とある料理"。その名も、「ボルガライス」だ。越前市のご当地グルメで、地元には同メニューの愛好家たちで構成された「日本ボルガラー協会」なる団体も存在するという。
ライスと名前が付いているからにはご飯モノのようだが、名前からはどんなメニューなのかあまり想像できない。一体、どんな料理なのだろうか? さっそく注文してみよう。
トンカツが乗ったオムライスの上から、デミグラスソースが掛けられている。ふわとろの卵に包まれたチキンライスとサクサクのトンカツ、それらを包み込む甘口のデミグラスソースの組み合わせがなんともマッチしていて美味しい。
なんだかいくつもの洋食メニューを一皿で味わえたみたいで、大満足な一品だった。武生に来たらまた食べたいと思ってしまった記者も、もしかしたらすでに立派な「ボルガラー」かもしれない。
紫式部を語る上で欠かせない場所であり、様々な文化を体感できる「越前たけふ」。
読者の皆さんも、2024年3月16日に開業する東京~敦賀間の北陸新幹線に乗って、その魅力をたっぷりと堪能しに行ってみてはいかがだろうか。
★ACCESS★
今回記者が訪れた場所はすべて、越前市の観光に便利な500円定額タクシー「迎車でGO!」の乗降対象スポット。道の駅「越前たけふ」内の「越前たけふ観光案内所」・JR武生駅そばの「越前市観光・匠の技案内所」でチケットを数枚購入しておけば、市内をあちこち移動するのに便利だ(販売期間は2024年3月31日まで、予算総額に達し次第終了)。
また2024年3月16日からは越前たけふ駅から武生駅、大河ドラマ館の間でシャトルバス(1乗車あたり500円)が本格運行されることも決定している(2月23日~3月15日の期間は武生駅から大河ドラマ館の間で無料運行)。
<企画編集・Jタウンネット>