富士宮は今、プリンに本気らしい 市役所が全国民向け調査スタート「あなたの好きな硬さ教えて」...そのワケは?
2023年9月某日。静岡県富士宮市の市役所の一室で、ある会議が行われていた。
その名も――「プリン会議」である。
「やっぱりプリンは容器がオシャレだと美味しそうな気がするよね」
「分かる、ラッピングとか容器とか可愛いと気になっちゃう」
「プリンいつ食べる派? 私は朝かな」
「僕は夜ですね。夜食に食べます」
「食べるタイミングによって量とかも変わってきますよね」
「あとはやっぱり硬いか、柔らかいか、とか」
「牛乳感が強いか、卵感が強いかみたいなのも重要かもしれません」
若手からベテランまで、部署も様々な職員たちが真剣に話し合っている。
議題は、「プリンを食べるときは何を見て選ぶか」。意見がどんどん出てきて、かなり白熱している。
しかし......どうして市役所でこんな会議をしているのか?
それは、ここ、富士宮市でプリンの祭典「プリンまつり」が開催されるからである!
なぜ富士山のお膝元・富士宮で、プリンなのか。富士宮といえば、やきそばじゃないのか。
そう思った人もいることだろう。
しかし富士宮は、実は「スイーツのまち」でもある。スイーツを作るのに欠かせない食材たちが豊富に生産されている場所なのだ!
なぜ「プリン」? その理由は......
どうして富士宮が「プリンまつり」なる祭典を開催することになったのか。
ことのはじまりは、2022年8月まで、遡る。
市の特産品を使って、地元の「食」を盛り上げるようなイベントをやりたい。
場所は、富士宮市産業振興部農業政策課。
食のまち推進室の職員たちは、頭を悩ませていた。
どうやって盛り上げよう。何を使えば盛り上がるだろう。考えた末に、選ばれたのが、「プリン」だった。
そのアイデアは、どこからやってきたのか。
あんなに真剣に「プリン会議」を執り行っていた富士宮市役所の皆さんのことだ。その結論に至るまでにも、それはそれは、熱いドラマがあったはず。
それは、きっとこんな感じで......。
――会議室のデスクの上に並ぶ、多種多様な"富士宮の特産品"。
市内産でとれたサツマイモ、落花生、にじます、富士山の湧き水を使って作られた酒、お茶、ハム、牛乳、卵、乳製品などなど。
「食のまち」を推進するだけあって、富士宮には美味しい名産品がいっぱい。もちろん、どれも捨てがたい。
となれば、それぞれの「推し名産品」を手にしてた職員たちが、「まつり」のテーマには何がふさわしいのか白熱した議論を交わすシーンもあった......かもしれない。
そんな豊富なグルメの中から彼らが選び出したのが、2つの食材だった。
1つは「鶏卵」。
なんとコチラ、産出額が全国1位(市町村別)なのだ。
そしてもう一つが「牛乳」。
静岡県内に於いて、富士宮市は生乳産出額第1位。市内に多くの牧場があり、とにかく酪農が盛んだ。
「この2つを使うといったら、やっぱり『プリン』じゃないか?」
「プリンって響きもかわいいし、いいかも!」
......な~んて会話があったのかどうかは分からないが、とにもかくにも、牛乳と卵で作るプリンが"富士宮のためにあるようなスイーツ"であることは明白。かくして富士宮市での「プリンまつり」開催が決定したのである!
プリンまつり開催決定!→まずはプリンを知ろう
さて、一口に「プリン」といっても、世の中には様々なプリンが存在する。
硬さ、舌触り、甘さ、風味、ビジュアル――人によって好みは違う。「プリンまつり」を開催するのであれば、まずは「プリン」について誰よりも詳しくならなければならない。
プリンを知らない者が、素晴らしいプリンの祭典を作り出すことなどできるわけがないからだ。
そして、素晴らしい祭典でなければ、地元が盛り上がるわけもない。
ということで彼らは市役所庁舎を飛び出した。「プリン」について理解を深めるために――。
「富士宮で共に暮らしていること」感じる牛乳でプリンを
「プリンまつり」では、市内の菓子店などが市内事業者の牛乳あるいは鶏卵を使用したプリンをつくり、出品。富士宮市産の牛乳や卵の魅力を、プリンを通じて知ることができる祭りになる。
そのために、市内の生産者も協力を惜しまない。
学校給食用の牛乳を中心に、スーパー等でも牛乳やヨーグルトなどを販売する「富士の国乳業」も、プリンまつりに牛乳を提供するメーカーの一つ。市内で酪農業を営む生産者が集まり、それぞれが出資し合うことで設立された「酪農家がつくった牛乳プラント会社」だ。
取締役工場長・惟村朋広さんに同社の牛乳の魅力を聞いた。
「やっぱり一番は新鮮さです。一般的に販売されている大手メーカーの牛乳などは、搾られてから実際に店頭に並ぶまで、どうしても日数がかかってしまうかと思います。
ですが、うちは朝霧高原で搾り、翌日には『牛乳』として提供しています」
惟村さんによれば、同社の牛乳は飲み口サッパリ。毎日の気候によってわずかだが、味が変わるという。
「牛たちも私たち人間と同じように、暑ければ水をたくさん飲むし、寒ければあまり動かずに牛舎の中にいます。牛乳の味の違いから、牛たちもこの富士宮で共に暮らしていることを感じてほしいですね」
「新鮮さ」が一番の魅力である富士の国乳業の牛乳の、賞味期限は1週間ほど。
「だからプリンのように加工して楽しんでもらえるのであれば、嬉しいです。
それに、卵も牛乳も、昨今では高騰化しているので、市に『プリンまつり』という形で地元の農業を応援してもらえるのも、嬉しいです」
プリンは「牛乳の味」出やすいスイーツ
「プリンって、牛乳の味がすごく出やすいと思います。生クリームやカスタードのように濃縮したり、水分を飛ばしたりするようなこともありませんからね。プリンはどれぐらい牛乳を入れるかも自由ですし、入れる量によっても違う味わいになりますよね」
そう話すのは、朝霧乳業・取締役の買手屋彰靖さん。こちらもプリンまつりに牛乳を提供する。
同社は、自社の牛乳と県内産の卵を使った「モーモーぷりん」を2023年から販売しているため、牛乳とプリンの関係についても詳しい。
同社ではパンやソフトクリームなど、様々な牛乳の加工品を製造販売しているが、「牛乳を使った加工品の中でも、プリンは特に牛乳のうまみが出せると思いますよ」。
どうやら、富士宮の空気を吸い、富士宮の水を飲み、富士宮の大地で育まれた草を食む牛たちが作ってくれた牛乳を味わうのに、プリンはうってつけのスイーツらしい。
卵によって、味が変わる!?
素材を味わうのにピッタリ――それは、牛乳に限った話ではない。
どんな卵を使うかによっても、出来上がりに違いが出てくる。
プリンまつりに卵を提供する朝霧高原の「あさぎり宝山ファーム」(運営:マルフク)では、鶏たちが昼夜を問わず自由に活動できる飼育方式「エイビアリー」を採用。複数の種類の鶏卵を生産している。
卵にはそれぞれ、黄身の濃さなど味に違いがあり、中でも「富士さくら」が菓子・プリンづくりにオススメ。直売所で販売されている自社製プリンも、富士さくらを使用しているそう。
「黄身と白身のバランスがちょうどよくて、白身の混ざりもよく、お菓子づくりに人気です。黄身が黄色くて、さっぱりとした味わいなのが特徴ですね」
だが、プリンづくりには絶対に「富士さくら」、というわけでもない。黄身が濃いオレンジ色で、特に濃厚な味わいが人気の「富士の名月」などを使用すれば、それはそれで違う魅力が生まれるはず。
どんなプリンを目指すかによって、卵選びの基準も変わってきそうだ。
プリンのプロは「プリンまつり」をどう見るか
――というわけで、牛乳と卵の生産者の皆さんに、それぞれの特徴を教えてもらった富士宮市職員一行。
しかし、まだ市役所に戻るわけにはいかない。まだ、この人たちに会っていないからだ。
お菓子屋さんである。
彼らは、プリンまつりの共催を務める富士宮市菓子工業組合のメンバー。左から組合員の高比良悦子さん(長崎屋洋菓子店)、組合長の佐野伸一さん(新月堂)、組合員の中島淳之さん(明月堂)だ。
「お菓子の中では、プリンって、チャレンジしやすいと思います。基本はシンプルでありながら、とても汎用性も高くて、たとえば何かのピューレを入れればピューレの味になるし、いろんな人がいろんなアレンジを加えられると思います」(和洋菓子店「明月堂」店主・中島淳之さん)
洋菓子店に限らず、和菓子店であっても、知識があればプリンは作れる。だからこそ菓子組合をあげての「まつり」の題材にピッタリだと、彼らは口を揃える。
「まあ、シンプルなものだからこそ、奥が深い。簡単にもできるけど、難しくもあるとは思います。
焼き方が重要です。卵も牛乳もナマモノだから、その日に使うもので、温度調節も変わってくる。日によって卵の黄身や白身の大きさが変わるけど、黄身と白身では固まる温度も違いますからね」(和洋菓子店「新月堂」店主・佐野伸一さん)
プリンまつりには組合加盟店の中から11店舗が参加。長年地元で愛されてきた昔ながらのプリンや、まつりのために考案された新商品など、多種多様なプリンが揃う予定だ。
もちろん高比良さん・佐野さん・中島さんのお店も出店する。どんなプリンを出すのか聞いてみたら......「まだ内緒」と佐野組合長。
「昔はよく組合みんなで催事やイベントに出たりもしていたが、最近は個店が忙しくてなかなか出来ていないんです。だから今回の『プリンまつり』をきっかけにまた改めて一致団結できればと思います。
卵と牛乳を使うという点でも、富士宮にぴったり。普段はなかなか流通経路の関係などで使用できる店が限られてしまう地元産の牛乳を使えるのも楽しみですね。
今回のまつりをきっかけに、ご縁が繋がって、よりいっそう地元の食をアピールしていければと思います」(佐野さん)
「プリンアンケート」実施!
――時を戻そう。ここから再び、「プリン会議」だ。
プリンの味や食感は、牛乳や卵の特徴、量、そして焼き方によっても変わってくる――生産者や菓子職人の皆さんに話を聞いたことで、市職員たちは改めて気付かされていた。
プリンには、無限の可能性があるということに。
プリンまつりには大勢の人に来てもらい、楽しんでもらいたい。しかし、人が集まれば集まるほど、「好みのプリン」も多岐にわたるはず。 来た人みんなに満足してもらうためには、どうすればいいのか。地元・富士宮が盛り上がる"最強のプリンまつり"を開催するためには、何が必要なのか。
そして、職員たちは決断した。
「アンケートをとろう」
市井の声を聴く――農家の皆さんが牛や鶏を育てるように、菓子職人がお菓子を作るように、市役所職員が本領を発揮する。たくさんの人が楽しめて、富士宮の魅力が伝わるプリンまつりを実現するために「世間で愛されているプリン」を調査するのだ。
プリン会議は、「プリンに関するアンケート(仮)」の調査項目を決定するための場。「プリンについて本気で語れる人、お待ちしてます!」という呼びかけに応じ、会議室にプリン好きの職員たちが集結し、知恵を絞った。
「アンケート内容を考えるにあたり、まずはプリンの歴史を調べてみました」
「プリンというのは、4つの種類に分けられるようです」
準備した資料を広げながら熱くプレゼンを行う、プリン愛が炸裂しまくりの職員もいた。
そんな感じでプリンに本気な富士宮市が作成したアンケートが、こちらです。
全国のプリン好きの皆さん!
今、どこよりも真剣にプリンのことを考えているまち・富士宮に向けて、あなたのプリンへの愛を、思う存分叫んでほしい。
きっとそれが2024年2月25日開催予定の「プリンまつり」をもっともっと良いものにしてくれるはずだ!
<企画編集・Jタウンネット>
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