まさか、暑すぎて...? ドロッと溶けてしまったリンゴが激写され話題に→投稿者に「正体」を聞く
1つ完成させるのに1か月、その1つ1つに20万個の...
溶けるリンゴは、1つ作るのに約1か月かかるという。制作の経緯を、雨宮さんは次のように語る。
「悪い薬でもやらないかぎりりんごは溶けたりしないわけで、要するに溶けたフォルムは『りんごらしくない』ということです。それにりんごらしさを過剰に与えて『りんごらしさとりんごらしくなさ』が同居する彫刻をつくろうと思ったのが、溶けたりんごを作ろうとしたきっかけにあたります」
溶けるリンゴは赤く塗る前に36回前後白く下地塗りをし、その後、色づき始めの薄緑色から赤へと、リンゴが熟れていく順序に沿って絵の具で塗り進めていく。
「実際のりんごも赤い皮の部分はコンマ数ミリしかなくて、その内部に大きな白い下地があるようなものなので、自然の摂理に近いことをしているだけなのかもしれません」(雨宮さん)
さらにその上から、本物のリンゴそっくりな模様を付けていく。一個につき、約20万個の点を塗り箸を削った道具で打ち、リアルさを追求した。
「顕微鏡で見るとりんごの模様も色も点でできあがっているため、一個につき約20万個の見えない点を打っています」(雨宮さん)
溶けるリンゴは、ほぼ全ての箇所がこだわりポイント。そのため、全てに目配せしながら制作していく必要があって大変だが、そこが面白いところである、と雨宮さん。
「モチーフにりんごを選んでいる理由は、ほぼ世界中どこでも見ることができるという『記号としての何でもなさ』にあります。ただ同時に、日本人が見ているりんごは世界共通のものではなくて、例えばヨーロッパの友達に僕の渾身の『溶けてないりんご』を見せた時に、たぶん日本人には本物かどうかまったく区別がつかないようなりんごであるにもかかわらず『このりんごは大きすぎるし、焼け残りがあまりになくて隅々まで赤いし、おもちゃみたいね』と言われました。要するに各地方、各人によって『らしさ』というのは違うものであり、それは農業の施し方、国民性、に付随しているので文化の話だと思いました。ですので、僕がりんごをモチーフにする理由は『表面を解析していくと人の営みにぶつかる』『皆にとってのらしさの話=普遍性についての話である』という2点においてかと思います。そのあたりを考えることが僕にとっての彫刻制作なので、表面上の出来事以上のことをこだわっているとしか言いようがないかもしれません」(雨宮庸介さん)
「溶けたリンゴ」の実物は、2023年7月8日~9月3日に茨城県近代美術館で開催の展覧会「土とともに 美術にみる<農>の世界―ミレー、ゴッホ、浅井忠から現代のアーティストまで―」で見ることができる。また、東京都千代田区に新しく誕生するアートセンター「BUG」でこけら落とし展として9月20日~10月29日に行われる雨宮庸介さんの個展では「溶けたリンゴ」の公開制作も行われる予定だ。
(2023年7月3日18時15分編集部追記:記事初出時、本文中に一部誤りがありましたので訂正しました。また、展覧会情報を追記しました。)