「えさをあたえないで」「たいせつに育てられています」 九州国立博物館では、埴輪が「放牧」されているらしい
九州国立博物館(福岡県大宰府市)で、ちょっと変わった「埴輪」の展示が行われている。
ツイッターで注目を集めたその光景が、こちら。
2023年1月24日、ツイッターユーザーのなち(@OeiDz1)さんが
「九州国立博物館で埴輪が放牧されている かわいい」
と呟きながら投稿した写真に映っているのは、柵で囲われたスペースの中でいろんな方向を向いている形もサイズもバラバラな埴輪たち。
生き生きとして見えて、まさに「放牧」という表現がぴったり。柵の「えさをあたえないでください」という注意書きも、ほっこりする。
「こだわりのヘアスタイル」「憧れの白馬」
なちさんはこの投稿に続ける形で、「お馬さんそれぞれの一言コメントもかわいい」と、こんな写真もアップしている。
柵の周りに掲示されている説明文だ。出土地は、「生まれ」に、所蔵は「飼育地」になっており、まるで動物園のよう。ちなみにこの「馬形埴輪」は、「カクチガ浦10号墳」の"生まれ"で、普段は「福岡那珂川市教育委員会」で"飼育"されている、推定1600歳。
「こだわりのヘアスタイル。
丸い古墳のてっぺんにいました」
という一言コメントが何とも愛くるしい。この展示について、ツイッターでは
「これ最高に可愛い!!」
「いや天才か...???」
「この展示方法、かわいいし馴染みやすくていいな!」
「えさあたえてぇ..................」
などといった反応が寄せられ、気ままに過ごす埴輪たちは多くの人々のハートをわしづかみにしているようだ。
26日、Jタウンネット記者が投稿者のなちさんに話を聞いたところ、この展示を見たのは24日のお昼頃。九州国立博物館で開催中の特別展「加耶展」だったという。
「まず埴輪たちのフォルム、次に放牧状態の展示形式、そしてイベント企画者による埴輪に対する一言コメント、全てがかわいくて愛しくなるような展示だと思い、感情のままにツイートしてしまいました。
加耶展についてなんの事前知識もなく訪れた私でも楽しめたので、少しでも埴輪の放牧が気になった方がいれば知識の有無関係なしに是非訪れてこのかわいさを共有して欲しいと思います」(なちさん)
九州国立博物館の公式webサイトによると、「加耶展」は、3世紀から6世紀にかけて、朝鮮半島中南部に興った国々の総称である「加耶」にまつわる展示。なぜ埴輪は放牧されることになったのだろう。
Jタウンネット記者は九州国立博物館を取材し、特別展「加耶展」の担当学芸員に話を聞いた。
「遺物」や「馬具」としてではなく...
生き生きした埴輪たちがいるのは、「埴輪の牧(まき)」という展示で、特別展「加耶」の第9章「渡来馬と渡来牛」の一部。馬形埴輪が7体(内1体は仔馬形埴輪)と牛形埴輪1体が"放牧"されている。馬を子供の段階から育てあげた人がいたことを示す「仔馬形埴輪」や、4体しか知られていない「牛形埴輪」は大変貴重なものだ。
「『加耶』の第9章では、渡来人が日本の歴史に果たした功績のひとつとして、馬や牛を飼育する牧(牧場)の経営に関わったことを取り上げています。
そのため、これらの埴輪も、古墳の上に立てられた『遺物』であることや、『馬具』を描写したものとしてというより、『牧場で飼育された動物』を描写したものとしての側面を強調するため、このような形式での展示にしました」(担当学芸員)
牧場に見立てたスペースで馬形埴輪や牛形埴輪を展示するというコンセプトを元に、館員やデザイナーが様々なアイディアを出し合い、実現したという「埴輪の牧」。なちさんがツイッターで紹介した1月24日は加耶展の初日で、担当者は投稿の直後にツイートに気付いていたという。
「展覧会初日でありながらあいにくの悪天候で、来場者もたいへん少ない日でしたが、私たちの苦労が報われる内容でした。
関係者が持ち寄ったささやかなアイディアや工夫の積み重ねでできあがった牧場を多くの人に知っていただくことができて、感謝に堪えません」(担当学芸員)
「加耶展」は3月19日まで開催中。「放牧」されてのびのび暮らす、いつもとちょっと違った埴輪の姿を見たい方は、ぜひ九州国立博物館へ。