「田舎暮らし」ってホントにそんなに魅力的? 地方移住に懐疑的な記者が愛媛・西条市で「生活」してみた結果
日本一の移住コンサルタント、親身になってくれる地元企業の社長、それぞれのやり方で生活を営む移住の先輩たち――「住みたい田舎」として人気の愛媛県西条市で、たくさんの人に出会ってきたJタウンネット。
22年7月にはオリジナルの「1泊2日無料個別移住体験ツアー」を作ってもらい、具体的な「移住後の暮らし」にまで思いをはせた記者であったが......。
愛媛県西条市という街は、「住みやすそう」な場所である。何度も足を運んだ記者は、そう感じている。まさに「住みたい田舎」というキャッチコピーがぴったりの場所だ。
だが、日々インターネットに入り浸っている記者は、同時にある疑いも抱いていた。
「これまで見てきた西条市の姿は、『よそ行きの顔』なのではないか」
「住みやすそう!」と思っていざ住んでみたら「実は住みやすくない」なんてことになったら嫌すぎる。だから、決意した。
西条市で、「生活」してみよう。
いざ、「西条生活」スタート
筆者は記者なので、記者としての生活しかわからない。
なので、今回決行する2泊3日の西条滞在を、記者として過ごすことにする。つまり、平日は取材して、執筆する。仕事が終われば家に帰り、ご飯を食べたりお風呂に入って寝たりする。
ただ、西条に自宅はないので、どうしても宿泊先が必要になるが......ホテルに泊まっていたのでは、地元での生活を体験することはできない気がする。
そこで記者は、この家のドアをノックした。
ごくごく一般的な住宅にしか見えないこの家は西条市丹原町にある「ゲストハウスBEKKU」。四国八十八箇所を巡礼する「お遍路さん」たちがよく利用するという場所で、日本全国、世界各国から人々が訪れる。
口コミなどで「愛媛の実家のような場所」「自分の家のようにゆったりと過ごすことができる」と評判のゲストハウスだ。
今回記者が宿泊したのは、こちらの部屋。
アットホームな環境で、かなり「家」だった。
小さなローテーブルもあるので、その日の取材の内容をまとめたり、原稿を執筆したりもできる。
今日はこのテーブルをデスクにして、仕事に繰り出そう。つまり「取材」である。
寿司1貫30円以下でゲット
西条の「住みやすさ」を検証するためにまず訪れたのは、BEKKUのオーナー・別宮米子さんが普段使っているというスーパーの1つ。徒歩5分ほどのところにある「木村チェーン 丹原店」だ。
「とにかく、新鮮で安くて素晴らしいの!」と別宮さんが言っていたのだが、改めて自分の目で見るとその衝撃は凄まじい。筆者が普段使う横浜市のスーパーなら、倍はするだろうと思う食材もあった。
ネタがツヤツヤで良い色の、新鮮そうなこのお寿司。税込297円だった。10貫入りなので、1貫30円以下である。
......まあ、実はタイムセールか何かで半額になっていたので本来は594円なのだが、それでもかなり安い。しかも、すごく美味しかった。新鮮な味がする。
美味しいといえば、BEKKUから歩いてすぐのところにある「田野屋商店」のパンも良かった。
あんぱんやソーセージパン、きなこのあげぱんなど、どこか懐かしいお馴染みのラインアップが嬉しい。
近くにこんな素敵なパン屋さんがあれば、仕事が立て込んでいるときなんかは特に、助かるだろう。
まさに「田舎暮らし」の景色がここに
では、休日はどうだろう。生活というのは、衣食住だけではない。「不便ではない」だけじゃ「住みやすい」とは言えない。
ということで翌日は「休日として過ごす」を取材のテーマにして、丹原をブラついた。
「地方移住をしたい」と考えている人はやはり、都会では味わえない豊かな自然や、のんびりした雰囲気に憧れていることが多いはずだ。
例えば、こんな場所のような。
ただ息をしているだけでリフレッシュできたこの道は、四国別格二十霊場の1つ「西山興隆寺」に続いている。
都会に染まり切った運動不足の筆者からすればもはや山登りに近かったが、緑の中を歩くのはとても気分がいい。
そんな西山興隆寺の最寄りである周桑バス「西山入口」バス停から歩いてすぐのところには「金仙寺」もある。この場所からの眺望が素晴らしい。
遠くに海が見え、街がある。そして広い農地が広がっている。人々の「生活」を身近に感じられる、いい景色だ。
冬らしからぬ緑色は、愛媛県が生産量日本一を誇る「はだか麦」。ここに立てば、季節によって変わっていく景色が、西条という街で生きる人々の「息遣い」を感じさせてくれるだろう。
今は独身の筆者だが、いずれは結婚して、子供も生まれるかもしれない。「丹原総合公園」は、そうなったときに最強の場所だった。
大きな遊具が、どこまでも連なっている。これはもはや公園ではない。遊園地だ。
大人だって遊びたいくらいだもの、子供は無限にエンジョイするはず。
もちろん自然の中にも遊べる場所が盛りだくさん。丹原南西部の鞍瀬地区を「思いついたらすぐ行ける"身近な秘境"」と表現したのは、散策中に出会った金光史さんだ。
そして遊び疲れたら、外食だってしたくなる。
予約しないと入れないことも多いというレストラン「うしろのしょうめん、だ~れ」。採れたて野菜がずらりと並ぶサラダバーも、一番人気のハンバーグも、本当に美味しかった......!
のんびり、だけじゃない!西条
自然の中でのんびりして、子供と一緒に遊んで、ご当地で育まれた美味しいものを食べて――「日常」を過ごすには西条は本当に暮らしやすそうに思える。
だが、「たまにはちょっと刺激がほしい」なんて思う日も、来るかもしれない。そんなときにぴったりな場所を見つけた。
伊予西条駅・西条市役所近くにあるGuesthouse&Bar「寺soul」(取材時点ではBarのみ金土祝前日に営業、ゲストハウスは後日オープン予定)だ。
インパクト絶大の外観もさることながら、店内もとってもオシャレ。年代物の蓄音機やレコード、アート作品があちらこちらに置かれている。
営業日には音楽好きのオーナーが、ロックやジャズ、ソウル、テクノなど、その日の気分にあわせた音楽を流し、お酒やコーヒーを提供する。ミュージシャンやパフォーマーがライブを行うこともあるそうだ。
「お客さんは20代ぐらいの地元の人や、30代の移住者の方なんかが多いですね。うちはバーといってもそんな堅苦しいものじゃなくてソフトドリンクだけの方もたくさんいらっしゃるので、お子さんと一緒に遊びに来られる方も結構います」(オーナー・小寺毅さん)
伊予西条には、寺soul以外にもおしゃれな店がいくつもある。これが、西条のいいところの1つ。適度に街で、適度に田舎なのだ。
西条の皆さんは「受け入れ態勢」バッチリ
ところで、地方移住しようと考えたら、やっぱり不安になるのは「どんな人が住んでいるか」ではないだろうか。
いくら便利で、素敵なお店があっても、周りの人に恵まれなければ豊かな暮らしを送るのは難しい。
だから最後に、筆者が西条で出会った人々をご紹介しよう。
ゲストハウスBEKKU・別宮米子(べっく・よねこ)さん
別宮米子さん(70)は西条生まれ。仕事の関係で広島や大阪、高松などに住み、5年前に地元に帰ってきた。筆者が泊まった「ゲストハウス・BEKKU」を開いて、現在4年目だ。
戻ってきたばかりの頃は、広島や大阪で送っていた生活と西条での生活を比べ、不満に思うこともあったという。
「オシャレで素敵なスーパー」で買い物をするのが好きだったから、地元のスーパーに物足りなさを感じたのだ。しかし今では、西条という街の「住みやすさ」を改めて痛感している。
「こんな言葉を聞いたら東京の人はびっくりするかもしれないけど、西条って『便利』なんですよ。ないものは、新幹線ぐらい。バスもあるしJRもあるし、すぐそこにスーパーもあるし、お魚もお野菜もいい。気候もよくて水も美味しいし、景色もいいしね」(米子さん)
広さも、利便性も、気候も、何もかもが「ちょうどいい」のだと話す米子さん。
そして、西条に住む地元の人たち人柄も魅力の一つだと語る。
「みんな優しくて、受け入れてくれるんですよね。元々かもしれないし、『お遍路文化』があることも理由なのかもしれないけど」
各地に住んだ経験を踏まえた上で「西条が一番いい」と笑顔で話す米子さん自身も、日本だけではなく世界各地からのお遍路さんや旅人たちをゲストハウスで受け入れている。西条の人たちの寛容さを、米子さんを通じて筆者も感じることができた。
寺soul・小寺毅(こでら・たけし)さん
「寺soul」のオーナーである小寺毅さん(41)は、進学と就職のため、東京に7年ほど住んでいたが、15年ほど前に生まれ育った西条にUターンした。
東京と西条では、できることも変わってくる。
だが、都心での暮らしと比較して不便すぎるということはないし、都会にはない「良さ」もある。小寺さんのようにこだわりぬいて、好きなものを突き詰めることもできる。
そんな寺soulには音楽ファンが泣いて喜ぶような品々が集結し、家具や小物もセンス抜群だ。
小寺さんは2019年、当時「ZOZO」の社長だった前澤友作さんがツイッターで実施した「100人に100万円ずつお年玉をプレゼントする」という企画に参加。「西条の古民家を壁画アートで彩り、楽しいゲストハウスを作りたい」と熱意を伝え、支援金をゲットしたという幸運の持ち主だ。そして、併せ持った行動力で、「寺soul」の誕生を実現させた。
コロナ禍の影響でバーのみの営業になっていたが、近い内に当初から予定していたゲストハウス営業も開始予定。
小寺さんはこの店を「旅行者と西条の人との交流の場所」にしたいと考えている。
輝らり果樹園・金光史(かねみつ・ふみ)さん
丹原散策中に出会った金光史さん(39)は、丹原町の「輝らり果樹園」で、様々なフルーツを育てている。
岡山県出身の金光さんは、農業をするために西条にやってきた。自社農園のブランド化や商品開発、女性が働きやすい環境整備などを積極的に行い、「令和4年度 農山漁村女性活躍表彰」で、「若手女性チャレンジ部門」農林水産大臣賞(最優秀賞)を受賞するなど、とてもパワフルな女性だ。
金光さんは、自分たちが生活する丹原町が大好きなのだと明るく笑う。
丹原のことを多くの人に紹介したい。その「良さ」を共有したい。
金光さんはそんな思いで、丹原の果樹園や飲食店、そして自然の中を巡るサイクリングツアーを企画。また、現在は家族連れやグループで利用できる一棟貸しのゲストハウスのオープン準備中だという。
金光さんが思う西条の魅力は、自然との距離の近さ。朝、思いついたらすぐに、山や川、海の絶景を見に行ける。
だからと言って、自然が好きな人だけが西条に住むのに向いているわけではない。
「西条にきて、ピンときた人、雰囲気や風景、そこに生きている人たちの会話や音だったり、何かが心にピンと来た人が、移住に向いていると思います」(金光さん)
大阪で移住セミナー開催します!
西条で生活するかのように過ごしてみた二泊三日。地元民が普段使う店、よく行く場所を訪れ「よそ行き」ではない面を見た。そこで暮らす人々に出会った。
筆者が痛感したのは、やはり西条は「住みやすい」ということだ。
「自分もこんな場所で暮らしてみたい」と思った読者もきっといるはず。
そんなあなたはぜひ、2023年3月19日(日)に開催される「移住セミナー in 大阪」(マイドームおおさか)に参加してみてほしい。
先輩移住者や移住推進課の人たちの話を聞くことで、移住後のイメージを膨らませることができることだろう。
<企画編集・Jタウンネット>