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こんな「濃い顔」の人たちが古代の日本に住んでたの? 話題の「ユダヤ人埴輪」に会いに行ってみた

松葉 純一

松葉 純一

2022.10.11 10:29
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2022年9月上旬、Jタウンネット記者は成田国際空港から圏央道松尾横芝インターチェンジ方面に向かう県道62号線で車を走らせていた。

実はこの道には、ある愛称がある。「芝山はにわ道」だ。

「はにわ」の文字や「はにわ」を模した図柄が目につくこの道をそれて田園地帯を横切り、小高い丘をのぼったところに、記者の目指す場所がある。

その場所とは、「芝山古墳・はにわ博物館」。その入口で、こんな像が待ち構えていた。

「芝山古墳・はにわ博物館」入口横のモニュメント「武人」(Jタウンネット記者撮影)
「芝山古墳・はにわ博物館」入口横のモニュメント「武人」(Jタウンネット記者撮影)

鼻が高い、豊かな顎髭をたくわえた凛々しい顔。特徴のある帽子が印象的だ。これが、埴輪?

姫塚古墳で出土したという武人の埴輪をモチーフとしたものらしいが......。

埴輪といえば、人の指のような形で両目と口の穴がポコポコポコッとあいているものや、もうちょっと人間っぽい形のものでも「平たい顔」をしているイメージがある。しかしこれは、彫りが深く、「濃い顔」に見える。

今まで記者が持っていた印象とは程遠い埴輪の姿に、「なんだかおもしろそうだぞ」と期待がふくらむ。入館券200円を購入し、博物館の中に入ってみよう。

高い鼻、幅広の帽子、美豆良(みずら)、顎髭

Jタウンネット記者が「芝山古墳・はにわ博物館」に興味を持ったのは、ある書籍が話題になっていることを知ったからだ。

それは、「発見! ユダヤ人埴輪の謎を解く」(勉誠出版)と「ユダヤ人埴輪があった! 日本史を変える30の新発見」(育鵬社)。どちらも田中英道氏(東北大学名誉教授)の著書だ。これら2冊のキーワードである「ユダヤ人埴輪」を展示しているのが、この博物館だという。

田中英道氏が「ユダヤ人埴輪」と指摘する人物埴輪の特徴は、次のような点だ。

高い鼻、幅広の鍔がついた帽子、耳元の美豆良(みずら)、顎髭

美豆良とは、両耳の脇に長く伸ばしカールさせた髪型とのこと。これがユダヤ人の髪型「ペイオト」と似ているそう。

ここ芝山古墳・はにわ博物館には姫塚古墳、殿塚古墳(6世紀)をはじめ、芝山古墳群から出土した埴輪が数多く展示されているのだが......今から1500年前の千葉に、そんな容貌の人たちがいたとは、驚きだ。

「ゆたかなひげの老人」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)
「ゆたかなひげの老人」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)

ところで日本で最も古墳の数が多い都道府県をご存じだろうか。田中氏の著書『ユダヤ人埴輪があった』によると、仁徳天皇陵など大型古墳のイメージが強いため、近畿地方に多いと思われがちだが、実は古墳数第1位は千葉県。1万2000基以上があるという。これは奈良県や大阪府よりもはるかに多い。また群馬県、埼玉県、茨城県などでも、多くの古墳が発見されている。顎ヒゲを蓄える人物埴輪は、千葉県の他に、茨城県でも出土しているそうだ。

「五世紀から八世紀にかけて古墳群が造営されたこの地域、つまり関東および東北に大きな勢力が存在していたことが確認できます」と、田中氏は述べている(『ユダヤ人埴輪があった』より)。

それは、いったいどんな勢力か? 田中氏は「ユダヤ人渡来説」を提唱し、独自の古代史論を展開。ユダヤ系のほか、中央アジア系の人々も混ざっていたかもしれないという。

渡来人というと朝鮮半島や中国大陸から渡って来たと考えられているが、さらに西方、シルクロードの多様な人々も、日本列島にやって来ていたのだという。そして関東・東北を拠点に暮らしていた、なんて......?  なんだかワクワクしてくる話ではないか。

学芸員にも聞いてみた

「芝山古墳・はにわ博物館」館内の第1展示室では、千葉県内や関東の古墳文化を解説している。その中に、芝山古墳群のうちのひとつ「姫塚古墳」出土の「葬列の埴輪」についての展示がある。

姫塚古墳は全長58.5メートル、高さ4.8メートルの前方後円墳。1956年に行われた発掘調査で見つかった、あたかも葬列を示すかのように墳丘中段に一列に並べて立てられた45体の形象埴輪が「葬列の埴輪」だ。

特に目を引くのは、顎髭を蓄えて帽子をかぶる、男性の全身像埴輪7体。顎髭、帽子、そして両耳の脇に伸ばしてカールさせた髪の毛がなんともユニークだ。「武人」と名付けられている。

「背丈の高い、あごひげの武人」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)
「背丈の高い、あごひげの武人」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)

他にも、馬子と馬など10体、首飾りをした女性9体、農夫、琴を弾く人など、さまざまな埴輪が並べられていた。とくに馬の埴輪の大きさ、迫力は、圧倒的だ。当時の人々にとって、馬は相当に重要な動物だったことが想像できる。古墳に埋葬された支配者の愛馬を模したものかもしれない。

「馬」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)
「馬」埴輪(芝山仁王尊・観音教寺所蔵、芝山町立芝山古墳・はにわ博物館保管・展示、無断転載禁止)

また、埴輪以外にも鉄剣・鉄鏃(やじり)などの武器、鞍金具などの馬具、金銅製耳環、須恵器などの副葬品も出土しているという。

古墳、埴輪、馬、鉄製品......これらを生み出したのは、いったいどんな人々だったのか? どんな地域社会を形成し、どのように暮らしていたのか?

幅広の帽子をかぶり、高い鼻で、豊かな顎髭をたくわえ、特徴のあるヘアスタイルをした、あのひとたちは、いったい誰なのか――?

博物館を出ると、外にはモニュメントがもう1体あった、「ひげの老人B」というタイトルの像だ。顎髭が強調されたユーモラスな顔。しかし鼻がデカい。帽子が似合っている。やはり「平たい顔族」日本人の祖先とはとても思えないが、1500年前の千葉に、こんな外見の老人がいたことは確かだ、と考えるしかない。

「芝山古墳・はにわ博物館」館外のモニュメント「ひげの老人B」
「芝山古墳・はにわ博物館」館外のモニュメント「ひげの老人B」

後日、Jタウンネット記者は、「芝山古墳・はにわ博物館」学芸員に「ユダヤ人埴輪」について電話で話を聞いてみた。

「ユダヤ人埴輪などと呼ばれて、最近話題になっていることは承知しております。そのせいか、入館者も多少増えてきているような気もします。ただユダヤ人であるという直接の証拠は、まだ見つかっておりませんので、なんともコメントしかねます」(「芝山古墳・はにわ博物館」学芸員)

これらの埴輪に興味を持った読者は、ぜひ千葉県芝山町の博物館を訪ねてみてほしい。東京都心からはちょっと時間がかかるが、1400年から1500年も前の時間を遡る旅に比べれば、たいしたことはないだろう。

埴輪は、はたして何者か?  展示された埴輪を見ながら、あなた自身で想像を巡らしてみてはいかが。

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